筆先の引っ掛かり

 あれだけバタバタしていたミーティングルームも、イベントが終われば元の落ち着きを取り戻す。だけど、鎌ヶ谷先輩はまだファンタジックフェスタのことが頭から離れない様子。


「響人ー、そろそろ反省はし尽したんじゃねーか?」

「でも、バタバタしたから」

「次に向けて頑張ればいいじゃんな、ほら、次は丸の池だろ?」

「次が丸の池だっていう保証はないよね。うう……また急に部長がムチャ振りしてきたらどうしよう」

「世界のシゲトラがいるんだから大丈夫だって! な!」


 鎌ヶ谷班でもこないだのファンタジックフェスタにはステージで出ていた。俺はまだ1年だし出来ることもまだあんまりないから小道具を転換したりっていう仕事をしてたんだけど。

 あっ、俺は源吾郎。みんなからはゲンゴローって呼ばれてるしそう呼んでほしい。成り行きで鎌ヶ谷班に居つくようになって、先輩もみんな優しいからずっと居座ってるような感じ。ここが居場所かなって。

 メインプロデューサーは3年生の鎌ヶ谷響人先輩。落ち着いた風貌で、性格も控えめ。班長はミキサーの鳴尾浜茂虎先輩。髪も真っ金々でとにかく派手。世界のシゲトラって自分で言ってるけど、何がどう世界なんだろう。

 他には2年生ミキサーの白河大信(マロ)先輩に、同じくミキサーの有野美鈴(ベル)先輩たちがいる。ちなみにベル先輩は「じゃない方のミスズ」って言うとある種のスイッチが入るそうだ。


「ファンフェスをやらないと夏はないって言われたから無理に書いたけど、結果ぐだぐだで幹部には釘を刺されるし、部長は鼻で嗤うし」

「いや? 言うほどみんなきっちりしてなかったぜ? 影響がなかったのは強いて言えば宇部班くらいじゃないか?」

「宇部班は次元が違うじゃない」

「まーそーだけどよ」

「朝霞班は措いとくとしても、ああ……夏が怖い」

「だから大丈夫だって! 好きなように書け!」


 俺にはまだステージの上手い下手とか善し悪しはわからないんだけど、さっきから鎌ヶ谷先輩がずーっと不安がってるような感じで。それをシゲトラ先輩がひたすら宥めての繰り返し。


「いいか響人。お前は書きたいように書きゃいいんだよ。少なくとも、ここにいる奴はお前の書く台本の世界観が好きだ。お前が出来ないって思うほど燃えるワケよ。それをやれるようにすんのが俺らの仕事だからな!」

「シゲトラ」

「まあ、水鈴さんがいなくなったし、確かに洋平がウチに残ってりゃなーって思うこともある。でもな、今いる俺らが鎌ヶ谷班のベストメンバーだ。班長の俺が言うんだから間違いねーし、ウチのPはお前しかいねーんだからな響人!」

「うん、ごめん。わかった。今から少しずつ書き始めるよ」


 どうして班長はシゲトラ先輩なのに班の名前は鎌ヶ谷班なのかと聞いてみたことがある。それは、シゲトラ先輩と鎌ヶ谷先輩が2人で頑張るという約束のような物なのだと返って来た。

 永世中立班と呼ばれ部でも独特の立ち位置らしい鎌ヶ谷班だけど、裏を返せば味方が誰もいなくなる可能性もあるということ。普段から人の意見にただ流されるだけでなく、自分の考えで動く力が一番必要なのだとシゲトラ先輩は言う。


「ところでシゲトラ、夏の枠ってどうやって決めるのかな」

「宇部曰く、今度は実力だけで決めさせてもらうってよ」

「うわあ」


 どうしようどうしようと、鎌ヶ谷先輩はまた頭を抱え始めた。夏の丸の池ステージは8月上旬。時間はあるようであまりない。俺はまだ1年で、正式なパートも決まっていないから何をどうすればいいのかもわからないけど。


「ところでゲンゴロー、お前パートうっすらとでも考えてんのか?」

「あっはい、俺はミキサーがいいなーって思ってて」

「ミキサー多いなァー」

「えっ、何かマズかったですか!?」

「いや? なーんもマズくねーよ。マズくねーように采配すんのが世界のシゲトラの腕よ」

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