強欲ウルフガール

 玄関の前にあるセンサー式ライトが付いて、誰かが家の近くに来たとわかる。きっとミーちゃんが帰ってきたんだと思う。今日はファンタジックフェスタにお仕事で出ていたから。


「ただいまーッ」

「ミーちゃんおかえりーッ! あれっ、出たときと服違くない?」

「聞いて驚け奈々ーッ! なんと、このジャケットは! 雄平が貸してくれたんだぞーッ!」

「えーッ! ミーちゃんすごーいッ!」


 大きな男物の上着を着たままミーちゃんは今日あった出来事を話してくれる。ファンフェスのステージは上手く行ったこと、雄平さんや他の友達が見に来てくれたことやなんかを。

 何の話が一番長かったかって、本番終わりに行った雄平さんとの食事の話なんだけど。お酒も入って、ご飯もおいしかったしすごく楽しかったって。何よりゆるんだまんまのミーちゃんの顔がそう物語っている。


「それでね、アタシ今日薄手のブラウスだったでしょ? くしゃみしちゃって。そしたらね、雄平がね、風邪ひくから着てろってねーッ! キャーッ!」

「いいなーッ! ミーちゃんいいなーッ!」

「送り狼になっていいんだよって言ったら怒られたけど」

「それは怒るでしょ」

「でも本当にそこまで送ってくれたんだよ奈々、雄平っていい男でしょ!?」

「紳士っす」


 大学に入ってからのミーちゃんはこんな風に雄平さんのことを好き好きーッって感じに話してくれることが増えた。ピー子ちゃんとどっちが好きかって比較したら本当に互角ぐらい。それって岡島家的にはスゴいことで。

 名字はこないだ圭斗先輩から聞いて初めて知ったし顔も見たことないけど、ミーちゃんの話が本当ならすごく優しくていい人なんだろうなって。ミーちゃんがんばれーって妹ながらに思いますよね。


「あ、送り狼と言えばさ。今日裕貴も見に来てくれてたんだけど、雄平のバイト先の後輩の双子ちゃん? そのお姉ちゃんの方と消えたとか何とかって妹ちゃんが不安がってて、アタシと雄平が部屋にお邪魔して妹ちゃんを励ましててさ」

「裕貴さんて背の高い堅物っぽい雰囲気だけど変に真面目で抜けてるから逆に心配になるタイプだっていう裕貴さんだよねッ」

「そう、その裕貴がさ。結局何事もなくお姉ちゃんの方を部屋まで送ってきたんだけど、あれは何かあるね。女の勘だけど」

「妹ちゃんが気の毒」


 面識もないのにミーちゃん周りの人について詳しくなるのはきっとこういうことなんだと思う。今後それが役に立つことはないと思うけど、ミーちゃんのストレスの捌け口になるには必要な知識ですね。


「そう、それでその帰りに雄平とご飯食べて現在に至るってワケ。なんか1日の密度スゴかったーッ」

「でもいいなーミーちゃん。好きな人に好き好きーッてめっちゃアピールしながら一緒にいれるとかッ! 贅沢者ッ! 罰当たりーッ!」

「アンタもそうすればいいじゃん」

「うち今好きな人いないし」

「ならどうしようもないね。でもね、雄平なんていくらアタシがアピールしても素っ気ないからね。愛情の裏返しとかそんなんでもなく素だからね。後輩たちにも脈ナシって言われまくる始末だよ」

「……それはミーちゃんがくどすぎるんじゃ」

「何か言った!?」


 それをはいはいって聞き流しながらも側に置いておいてくれるっていうのは、拒絶はされてないし友達としては楽しいとかだと思う。問題はミーちゃんのノリとかテンションじゃないかなあ。ずっとこのノリならネタだって思われても仕方ない気がする。


「って言うか、ミーちゃんが送り狼になればいいんじゃ。送り狼って言うか、通い妻的な」

「それだーッ! いいね、妻って響きが。越谷水鈴。うん、違和感ない。奈々、ゴメンけどお姉ちゃんお嫁に行くから婿取りのことも視野に入れといてねッ!」

「うっすうっす」

「そうとなったら双子ちゃんたちと仲良くなって結婚式のムービー作ってもらわなきゃッ! 共通の趣味持った方がいいかな、筋トレ?」


 ミーちゃんは今日も通常運転でフルスロットル。イベント終わりのはずなのに元気だなあ。

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