第24話 婚活疲れ

清掃業界というものは、根本的に人手不足のことが多い。

平均年齢の高さゆえ定年退職を迎える人も出てくるし、身体を壊し続けられなくなったり、身内の介護などで退職を余儀なくされることもある。

そして人数が減った分仕事量が増えキツくなると、しんどいから同じ清掃でももっと楽な現場がいいと辞めていく人も出てくる。

そしてひとり辞めるとついでに一緒にと後を追いまた辞める人が続くことがある。

この負の悪循環に陥ると、長い間欠員続きになることもある。

Nビルも連続して定年退職の人が抜け、その後体調不良で辞める人もいて一気に人手が足りなくなった。

社員も連日ハードワークを続け、夏の暑さも手伝い疲労がたまっていった。

軽い気持ちでネット婚活を始めた咲良だったが、驚くことに登録翌日から毎日違う人からオファーがあり、メールの返信に追われながらうれしい悲鳴をあげていた。

清掃の仕事の利点として、ひとり作業の時はこっそりSKと呼ばれる物入れに隠れて、スマホチェックしたり休憩できたりすることだ。

激務の合間をぬって、いろんな人とやりとりするのがいい気分転換になっていた。

大体最初は質問攻めにあうので、その時点で清掃の仕事してるんで朝早いです、夜は早く寝るので返信できませんとか言うと、それだけで敬遠する人とはすぐ交流をやめた。

清掃=地味な子、ダサい、汚い仕事。

そんな感じで見下してくるような男とはつきあいたくなかったから、そんなニュアンスを出してきた人は、はいサヨナラ。

実際いるんですよ、自分が高収入で有名企業とかに勤めてると、こっちの足下を見てくるヤツ。

でもそれって私自身を見てないやん?

私の肩書き、仕事で勝手にイメージ決めつけないで。

咲良の心には常にその気持ちがあった。

なんで清掃って世の中で下のほうに見られるのかな?

そんな世間の目に歯向かって戦って、暗いイメージを払拭したかった。

大手企業のOLさんとかは人気があって、清掃やってる女子はモテないのか。

制服脱いだら、おそうじ女子だってかわいい服も着るし、たまにはおいしいお店とかも行ってSNSにアップしたり。

仕事以外は普通の女子よ。それが仕事が清掃ってだけで興味も持たれないんじゃ、やりきれない。

そんな強気の姿勢で、とりあえず何人かとは会う約束をしてみた。

急に仕事が忙しくなったので休みの日曜くらい家でゴロゴロしたくもあったが、チャンスは藁をもつかむ気持ちで、善は急げとがむしゃらに動いた。

ところがどっこい、当日になってドタキャンが続く。

腹もたったが、内心ほっとしている自分もいた。

ーま、これも縁がなかったってことね。

咲良は自分に言い聞かした。

とりあえず来る者は拒まずで、連絡のくれた人とはやりとりOKと返事はしたが、人手が足りず仕事は山積みで、向こうから連絡がなければ放置することもあった。

すると

『ひやかしならやめてくれ!こっちは真剣なんや!』

といきなり逆ギレされることもあった。

ーそんな性格だからその歳でも独身なんじゃないの?

内心そう思ったりもしたが、そんな時は冷静に

『急に仕事が忙しくなり対応できませんでした。こちらも真剣に取り組んではいるのですが、お気を悪くさせたのなら謝ります、すみません』

とメールを返し、その後すぐブロックした。

毎日毎日たくさんのフロアを周り、たくさんのトイレ掃除。

こんな状態が続くと夢の中でもひたすらトイレ掃除をしていて、目覚めが悪いこともしばしば。

ー仕事こんなにしんどいならもう辞めたい。お金持ちの彼氏できて結婚できたら楽になれる…。

段々現実から逃げたい気待ちで、婚活に没頭。

メールで話が弾みLINEで個人的にやりとりする人も何人かできて、会う約束もする。

けれど疲れていることもあって、いざとなると気がのらない。

やっぱり怖い。臆病風に吹かれ二の足を踏む。

申し訳ないと思いながら、前日に『明日仕事になった』とウソをつき、断りを入れた男性2人。

なんかこう会う前から下心みたいなものが感じられたこともあり、断り下手な自分が逃げれるかどうか不安になったことも逃げ腰になった理由だ。

そこでふと思った。

結婚って夢みたいな憧れを抱いたりしてるけれど、現実はその人とずっと一緒に暮らしていくわけだし、何より夜の生活もあるわけで…。

もちろん会ってみないとわからないけれど、今の生活と180度変わってしまう。

本当にそれでいいのかな?

今仕事がしんどいから、そこから逃げ出したいからって結婚に急いで、果たして私は幸せになれるのかな?

そもそも本当に結婚したいのか?

ただ逃げの口実にしてるだけじゃないか?

元カレから離れたい、仕事辞めたい、その手段のために結婚を考えてる。

それって相手の男性にもすごく失礼なこと。

真剣に考えてる人に対してなら尚更、こんな気持ちで私はえらそうなこと言えないな…。

一ヶ月間婚活にいそしんだ咲良だったが、毎日のメールに疲れ、結婚を考えて誰かと会うという気力も削がれ、登録していたサイトもやめた。

直前までやりとりしていた人にはお礼と感謝の気持ちを伝え、会わないまま終わりにした。

「これでよかった。逃げの気持ちで何かに向かっても、きっとうまくいかなかったと思う」

仕事から帰り、スーパーに立ち寄り特売の発泡酒と値引きの惣菜をゲット。

「今日もがんばったごほうびや」

40%引きで80円になった塩ゆで枝豆と、100円の缶ビール。

決して贅沢ではないけれど、自分で稼いで手に入れた至福のひと時。

「王子様に幸せにしてもらうんじゃない。幸せを誰かに委ねるんじゃなく、自分で自分を幸せにしよう。人任せにしてたらきっと、何も手に入らない」

ベランダで夜風に吹かれながら、自由という名のひとり時間を謳歌する咲良なのでした。


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