第22話 オトナの階段

「あと3ヶ月で30歳の大台か…」

階段を掃除しながら、壁に掲示されたポスターを見て思う。

7月14日、Nビルでサマーパーティが行なわれる。

その宣伝ポスターが随所に貼ってあるのだ。

咲良の誕生日は10月14日。

頭の中で自動カウントダウンが始まる。

「その時は一緒にお祝いしてくれる彼氏がいるといいんやけど…」

つい先日元カレ井原と一悶着あり、尚更新しい恋を求める気持ちが強かった。

階段をモップがけしながら一段一段降りていくと、自分の歴史を遡っていくようだ。

「恋愛は黒歴史ばっかりやぞ…」

過去につきあったのは、本命彼女がいて二股かけていたヤツ、酒癖が悪く酔うと暴れて暴力振るったヤツ、そして前回の妻子持ちを隠していたヤツ、まともな恋愛がひとつもない。

これが、咲良が男運ないと言われている所以である。

周りからは、

「優しすぎて何でも許しちゃうから図々しい男が寄ってくる」

と分析されている。

「そんなつもりはないんやけどなぁ」

小悪魔キャラになって男を振り回してみたいと思っているのだが、どうにも相手に尽くし過ぎてしまう。

「そんなきむちゃんの優しさを受け止めてくれる人が必ず現れるから、焦んなくても大丈夫だよ」

人生の大先輩、真行寺やゆかりからはそんな励ましとフォローをいただくが、内心このままだと職場と自宅の往復でひとり身のままただ時間だけが過ぎてしまうかもしれない。

毎日ひたすら掃除だけの日々。

そんなのは嫌だ!

そんな気持ちが渦巻いていた。

「サマーパーティ、行ってみようかな…」

毎年お笑い芸人をゲストに呼び、食べて踊ってとなかなか賑やかな催しなのだ。

単調な日常に変化を。自分から動かなければ何も変わらない。

うっかり忘れ物をしてしまい上の階に上がると、階段の数がちょうど30段あった。

まるでもうすぐ30歳になる自分の軌跡のようだ。

踊り場に立って思った。

「今までがどうあれ、大切なのはこれからの道。まだまだ仕事も恋愛もひよっこやもん、もっと輝いてオトナの階段を一歩一歩上っていこう」

今モップがけして綺麗にした階段を登っちゃうあたり、お仕事未だ未熟です。

後輩のちりさを誘ってみると、ちょうど空いてるとのことで一緒に行くことに。

普段年上の人と接することが多いので、年下の子と話すのも刺激があって楽しいものだ。

リアルな恋バナとか、女子トークが特に盛り上がる。


週末の夜、ビル内のレストランにてサマーパーティが催された。

食事はチケット制で、自由に飲食しながら芸人さんのショーありビンゴゲーム大会あり、お酒も入って皆飲めや歌えや大騒ぎ。

咲良はサマーパーティにふさわしい、黄色のワンピースとハイヒールのサンダル、足先は白とゴールドのネイルを合わせた。

耳には普段仕事中には付けれないので、パールのピアスをあわせる。

気分は舞踏会に招かれたシンデレラ。

パーティの終盤になると、ノリノリの曲が流れみんな自由に踊りだす。

咲良とちりさも最初は恥ずかしそうにしながらも、酔った勢いも手伝って徐々にアゲアゲ気分になってきた。

このパーティに参加しているのはほとんどが入居しているテナント社員の方達だ。

普段はこんなふうに一緒に踊ったりお酒を飲んだりなんて、恐れ多くてできない。

業種の枠を超えて楽しさを共有できるイベントが多いのが、このビルのいいところだ。

化粧室に行こうと廊下に出ると、咲良は思いがけない人物と遭遇した。

「げっ」

あからさまに表情に嫌悪感が出る。

井原だった。

どうやら遅れてパーティに来たらしい。

井原のほうはうれしそうな笑顔を浮かべた。

素知らぬ顔で通り過ぎようとすると、また手を掴まれた。

「待って」

「離してっ」

「ちゃんと話するまで話さない」

「…わかりました」

さすがに職場内だし騒ぐのはまずいので、相手の言葉に従うことにした。

人目につかないように、給湯室で話をする。

「キレイだね、お姫様みたい」

「ありがと…」

「僕な、ほんまに咲良ちゃんのこと好きやねん。だから今でも一緒になって人生やり直したい気持ちは変われへん。けど家の事情もあるから今すぐどうこうは出来ひんから…咲良ちゃんに今彼氏出来てもいい」

「はぁ、何それ!?」

「将来僕が離婚した時に咲良ちゃんも独身やったら、その時僕と一緒になること考えてくれるか?」

ーこの人根本的におかしい!

めんどくさいので咲良は早くこの場を離れたくて、適当に相槌をうった。

「よかった!わかってくれたんやね」

「後輩の子が待ってるから、私行くから」

井原の手を振り切って化粧室に向かうと、咲良は心に決めた。

ーあの男と離れるためにも、婚活しよう!

新しい一歩を決めた瞬間だった。



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