第21話 再会part2

仕事が早目に終わり、待ち合わせの6時まで1時間以上時間があるので、咲良は1階のスタバで時間をつぶすことにした。

新作のフラペチーノを奮発。商品券をゲットして少し気が大きくなっているらしい。

店内は混雑しており、テラス席を利用。こちらも一杯だが、なんとかひとつテーブルが空いていた。

季節柄、風が心地よい。

席に腰かけてスマホをチェックしていると、声をかけられた。

「ここ空いてますか?」

「ええ」

向かいの席が一つ空いているのでてっきり席を探している人かと思いきや…

「えっ!?」

顔をあげると、そこにいたのは井原だった。

「久しぶり…」

席を変わりたくても空席はない。

「もう1度ちゃんと話がしたくて…ちょうどコーヒ買いに来たら姿が見えたから…」

「私は話すことなんてありませんっ」

冷たく言い放つも、心は動揺している。

それは、完全に忘れていない証拠だ。

視線を合わせないように、うつむいてクリームをすくう。

「僕は今でも咲良ちゃんのことが好きで、結婚したいと思てるんやで」

「…離婚は成立したんですか?」

「それはまだ…。奥さんが嫌や言うてるんで。上の子ももうすぐ高校進学やし、そんな時に精神的ダメージを与えるのもどうかと…。男の子やし奥さんのほうになついてるから。けど上の子全然勉強出来ひんし、そういうとこは奥さんに似たんかな…」

聞きたくもない話を延々とするので、段々咲良は腹が立ってきた。

―この人反省してるどころか、ほんまデリカシーないし。

心にくすぶっていた想いも確実に冷えていく。思わず話を遮って咲良は言った。

「井原さんって頭はいいかもしれないけど人の気持ちは全然わからないんですね。私の前で奥さん奥さんって…随分優しく呼ぶんですね。本当は仲良くて別れたくないのはあなたのほうじゃないんですか!?お子さんのことも勉強出来ないとかバカにするなんて、私は勉強出来なくても健康で優しい子に育てばいいと思います。それに奥さんのこともバカにするんですね。優しいふりして、あなたはサイテーの男です!そんな自分に気付かないあなたが1番大バカ者だわ!」

頭にきてフラペチーノをぶっかけてやりたかったが、もったいないのでやめた。

その場を立ち去ろうとすると、井原に手を掴まれた。

「やめて!離して!」

「ちょっと待ってや!俺の何がアカンの!?」

周りの注目を集めるが、皆関わりたくないという様子で遠巻きに見ている。

「おい、何してんの」

そこへ、仲裁に入った男がいた。

坂崎だった。

井原と咲良の間に入り、かばうように咲良の前に立った。

「ごめん待った?誰、コイツ」

井原を睨んで言う。

「えっと…」

坂崎は話をあわせて、というように目で合図した。

「今夜は俺とデートなのに、咲良かわいいからまたナンパされたんか?だから彼氏の俺の前以外でオシャレすんなよって言うてるやろー」

「そうやねー。うん、気をつけるね。なんかこの人しつこくってー。全然他人やから知らないけど」

咲良も調子にのって彼女のフリをする。

女優気分でノリノリだ。

「それじゃ行こうか」

「うん♪」

仲良く腕を組み立ち去る2人を、呆然と井原は見送っていた。

「咲良ちゃん…もう新しい彼氏いたのか…うそ…ずっと俺だけ好きや言ってくれたのに…」

かなりショックだったのか、井原はうなだれて座り込んだ。



「あー、助かった。ありがとうございました」

少し離れた北側の入口で身を潜める。

「あれ元カレか?なんかめんどくさそうな男やな。ちゃんとつきあう相手は選んだほうがいいぞ。木村ちゃんは優しいから、来る者拒まずで何でもウェルカムしてまうから、後々厄介なことあったやん」

「そうですよねー、坂崎さんはその辺りもよくご存知ですもんね」

「時には断る勇気も必要やで。でないと中にはずるい人間もおるからな、いいように利用される」

「はい、肝に命じておきます」

なんだかんだで、時計の針は午後5時を過ぎていた。

「たいへん!坂崎さん会議の時間もう過ぎてますよ。早く行かないと」

「いいよ、こっちのほうが大事やから」

―こっちのほうが大事やから…。坂崎さん、いつもさらっとうれしいこと言うてくれる。

坂崎は昔からこうで、困っている時にさらりと助けに来てくれたり、女心をつかむ優しい言葉を絶妙なタイミングで言ってくれる。

そういうところ井原と正反対なのだ。

「それにしてもあれやな、あの男思いこみが激しいというか、自分のことしか考えてへんな」

「なんか私と結婚したいってつきあい始めから言うてました。でもあの人妻子持ちやったんですよ!人だましおってむっちゃ腹たちます」

「そんなん本気ちゃうな。大体すぐ結婚とか言う男ほどなんも考えてないやろ。一生に一度の大事なことって真剣に考えてたら、そう簡単に彼女に結婚とか言われへんぞ」

「男性からのご意見、ごもっともです。それは今回の件で私もよくわかりました。今日はいろんな再会がありました。これも七夕の魔法ですかね。坂崎さんと会えたのはうれしいんですけどね」

「俺も木村ちゃんと会えたのうれしいよ。本社は息詰まるからなー。現場にいたほうが楽しかったわ」

はにかんで笑う坂崎の笑顔が、西日に照らされて眩しかった。

「おっしゃ!さっきのヤツとまた出くわしたらアカンし、もうメシ行こか」

「えっ?会議はいいんですか?」

「急用入ったからってメール入れとくわ。言ったやろ?こっちのほうが大事って」

キザなセリフも嫌味なく似合う上司、坂崎。

いつまでも憧れの存在なので、残念ながらいい雰囲気というか、恋愛対象にはならず。

職場に来て毎日仕事だけじゃ味気ないけど、会社の誰かと食事行ったり飲みに行ったり、アフター5の充実ってちょっといいものです。

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