第14話 レクサスの王子様

連休、井原とドライブデートの日。

大喜びの咲良であったが、こんな時気になるのは彼がどんな車に乗っているかだ。

「まあ普通のセダンだよ」

さり気なく聞いてみると、返ってきた答えはそれだけ。

結局は当日のお楽しみとなったわけ。

車種だけではなく、車にどれだけ手をかけているかとか、キレイにしてるかそうでないかで、大体の人となりがわかるものである。

時折車に乗ると態度が豹変する人もいるし、運転の仕方もその人の本質を知る手がかりとなるものだ。


運転手が混雑時を避けたいということで、早めの出発。

『午前7時に家まで迎えにいくね』

前日のLINEに胸踊るのだった。

実は連休初日にドライブデートの予定だったが、ひょんなことから前日お泊まりデートとなって寝過ごしてしまったため、1日延期したのだ。

清掃業ゆえ早起きには慣れている咲良は、通常通り4時30分に起床。

シャワーを浴び身だしなみを整え、眠気覚ましの温かいコーヒーを準備しミニポットに入れる。

彼の差し入れにガムやミンティア、お菓子も用意。

今日の目的地は琵琶湖畔なので、少しカジュアルに紺のガウチョパンツと、上は白いTシャツにグレーのパーカーを羽織る。

7時前、LINEにメッセージが。

『下で待ってる』

急いで荷物を持って降りると、黒の高級そうな大きい車が停まっていた。運転席には彼がいる。

助手席側にまわり、車内に乗り込む。

「おはよう」

いつも通り爽やかな笑顔の彼にドキドキ。

いい車なので、ドアの閉開も大きな音が出ないように静かに行う。

「おはよう。すごくすてきな車ね。私こんないい車乗ったことない」

「レクサスっていう車なんや。もう10年くらい乗ってるから古くなってるけどね」

「そんなに経ってるなんて見えない!ボディもキレイだし大切に乗ってるのがわかるね」

「そう言ってもらえてうれしいな。実は昨日洗車しといたんだ」

車内も無駄なものは一切なく、あまりにキレイすぎて靴の泥砂も持ち込めない雰囲気だ。

「じゃあ行こうか」

「あ、これ温かいコーヒー入れてきた。眠気覚ましに」

「ありがとう。咲良ちゃん気が効くね、うれしいよ」

「ガムとかお菓子もあるから」

「なんか荷物多いと思ったらそれでやね」

笑いながら井原は言う。

静かに出発した高級車は、まだ静かな大阪市内を抜け東大阪に出て、ひとまず京都方面へ向かう。

井原の運転は落ち着いていて、好感が持てた。

「運転、穏やかだね」

「そりゃあ、大切な人を乗せてる時はね」

なんともうれしいことを言ってくれる。

「車乗ることなんてほとんどないから、見る風景が新鮮」

「そやろね。僕は休みの時は大体乗ってるかな」

「運転好きなの?」

「うん。車も運転も好きやから、一緒にドライブ行きたかってん」

ドライブデートはうれしい反面、車内での会話がもたないと沈黙が困ったりもする。

しかし喋り過ぎて運転の妨げになってもいけないし、助手席だからって寝てしまっては失礼だし。

慣れてないといろいろ気を遣ってしまう。

連休中日と早朝ということもあり、渋滞に巻き込まれることもなく車はスムーズに大津サービスエリアに到着。

「ここで朝食たべていこうか」

休憩も兼ねて、見晴らしの良い窓際に座る。

軽いモーニングを食べてリフレッシュ。

食事の後は眼下の琵琶湖を眺めながら、少し散歩する。

晴天だが、朝はまだ肌寒い。

さり気なく井原が手をつないできて、少し照れる咲良だった。

その後は守山の佐川美術館に立ち寄り、カフェでランチを堪能したのち、夕方の渋滞を避けるため早目に帰宅。

功を奏して混雑もなくスムーズに大阪に戻れた。

「上がって行きますか?」

日はまだ高い。まだ一緒にいたくて、咲良は声をかけた。

「じゃあ少しおじゃましようかな」


昼間はかなり暑い。

冷蔵庫から冷たいお茶を出し、コップに注ぐ。

途中草津のサービスエリアで買った、草津名物うばがもちをおやつにする。

「今日はちょっと遠出してすごく楽しかった。ありがとう」

「僕も楽しかったよ。咲良ちゃん僕の車丁寧に扱ってくれてドアも乱暴に閉めたりしないし、ゴミも車内に残さないわでやっぱ思ってた通り優しいしきれい好きなすてきな子やって改めて感じたよ」

「だって大事な人が大切に扱ってるものなら、私も大切にしたいと思います」

「はぁ~、やっぱり僕咲良ちゃんとつきあえてよかったわ。そんなこと言うてくれる人今までおらんかったもん」

そう言って井原は彼女を抱きしめた。

「そういうとこもひっくるめて、大好きやねん」

「洋祐さん…」

長いキスの後、井原は咲良をベットにいざなった。

「まだこんなに明るいのに…」

「そんなの関係ないし…」

昼下がりの情事、とでも言うであろうか。

長い交わりの時を経て、夕刻西日が傾いてきた。

まったりとしたひと時、日常を忘れさせる。

「あのな、咲良ちゃんに言うておきたいことあるんやけど…」

「なあに?」

「一緒になりたいって、思ってるねん」

「えっ…?それって…」

「結婚を前提に、つきあってほしい」

狭いシングルベッドの中、顔を寄せ井原は言った。

―レクサスの王子様からのプロポーズ…?

ガラスの靴を履く日が、近づいたように感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!