第11話 夢見る週末

午後3時。

待ち合わせはJRの駅で。

雑踏の中、井原の姿を探すがまだ姿は見えない。

といっても10分前。まだ早すぎるくらいなのだ。

目印のセブンイレブンの前でたたずみ、しばし待つ。

「ごめんね、待った?」

5分ほどして井原がやってきた。

普段のスーツ姿とは違う、カジュアルな紺のシャツにジーンズ、ニューバランスのスニーカーという姿。

いつもと違うギャップにドキッとする。

「ううん、さっき来たとこ。早く会いたくてつい早目に家出て来ちゃった」

「…そういうこと言ってくれるのがかわいいなぁ。まわりにそんなかわいい子いないもん」

「会社にかわいい人たくさんいるんじゃない?あのフロアも綺麗な人多いし」

仕事中出会うOLさん達はスタイル良くておしゃれで綺麗な人が大勢いる。

まるでモデルか女優かというくらいスタイリッシュな人もいて、一流会社の女性社員のハイスペックさに度々驚かされるのであった。

「うちは男の社員のほうが断然多いからなぁ。男社会で対等に仕事してるからか女性社員は美人だけど性格キツイとか、化粧っ気もなく仕事打ち込んでる感じ。咲良ちゃんみたいに見た目もかわいくて性格も素直で優しくてかわいい子いないよ」

「…ありがと」

思いきりほめられて照れてしまう。

「そう、そうやってありがとうって自然に言えるとこもすてき。変に謙遜されたりすると逆に困る。あ、これうちの近くのケーキ屋で買ってきてん。一緒に食べよ」

「わっ、シャノワールのケーキ!ここのスイーツ好きなの。うれしいっ」

「ほんまに?よかった」

手をつないで並んで歩く。

大通りから少し中に入った住宅街に、咲良の住むマンションがある。

こじんまりとした4階建て。エレベーターはない。だからこそ相場より少し家賃が安いのだ。

「ごめんね、階段なんでちょっと歩くのキツイけど」

「ううん、日頃の運動不足解消になっていいかな」

苦笑いを浮かべながらもそう言ってくれる彼に優しさを感じた。

「ここです」

1番上の4階の端。カバンから鍵を取り出し扉を開ける。

ドアを開けるとすぐに小さなキッチンが。

左手の内扉を開けると6帖のフローリングの部屋だ。

「狭くて恥ずかしいんやけど…どうぞ座ってくつろいでね」

「思った通り、キレイにしてるね」

「昨日必死で片付けたのっ」

東側の窓には薄いピンクのカーテン、ロータイプのソファーベッドのカバーも同じ色調でコーディネートされ、家具家電は白を基調にコンパクトにまとまっていて、とても女の子らしい部屋。まさにシンデレラルームだ。

しかし実はカーテンやテーブルなど、会社のゴミ置き場にテナントさんから廃棄として出されたものをこっそりもらって帰ったものなのだが、さすがにそんなこと言えない。

「飲み物コーヒーでいいかな」

「うん、ありがとう」

コーヒーを入れている間、女子の部屋が珍しいのか井原は室内をキョロキョロ見回していた。

「あんまり見ないで、恥ずかしいから」

「本がいろいろあるね。資格系のも」

「うちの会社は資格取得を促進してるから。ビルクリーニング技能士は国家資格やから、持ってる社員が多いほうがハクが付くし」

「咲良ちゃんはがんばり屋さんやね」

「パソコンも使いこなしたいけど苦手なので、教えてくれたら嬉しいな」

「それならいつでも教えてあげるよ」

「ありがとう」


ケーキを食べながら温かいコーヒーを飲み、おたがい好きなスターウォーズのDVDを観て肩を寄せ合いゆったりと過ごす。

静かに穏やかな時が流れる、至福のひと時だった。

エンディングの頃には日がだいぶ傾き、室内が薄暗くなってきた。

「そろそろ電気つけよっか」

立ち上がろうとした咲良の手を掴み、井原は咲良を抱き寄せた。

「!?」

「…暗いほうがムードあるよね?」

耳元でささやかれると、魔法にかかったように身動きがとれなくなる。

頬を優しく撫でると、彼は彼女に、キスをした。

それは今までとは違う、長く濃厚な口づけ。

そしてそのままベッドに倒れ込んだ。

―このままいい雰囲気になりそう…。

咲良は覚悟を決めた。

井原は上からのしかかる体勢のまま、首筋や胸元にキスをした。

「あっ…」

敏感な部分が感じて、かすかに声が出てしまう。

彼の手が服の上から彼女の隅々まで愛撫すると…

「今日はここまでにしとくね」

「えっ?」

予想外の言葉に、ちょっと拍子抜け。

呆気にとられる彼女を見つめて、井原は言った。

「大事にしたいねん、咲良ちゃんのこと」

そのひと言に、喜びが湧き上がり顔がほてる。

「僕のこと信頼してほしいから、少しづつ関係を深めていけたらなって思ってるねん」

「はい…」

「それじゃあ、なんか夜ごはん食べに行こか」


近くのカフェでお酒を飲みながらディナーを堪能し、初おうちデートは終了した。

帰宅した咲良はサングリアで酔いがまわったせいか、興奮冷めやらぬ様子でベッドにうつぶせた。

「香水のかおりが残ってる…」

間近で感じた彼の吐息、表情、温もり、すべてが記憶の中にインプットされた。

夢見心地で幸せを感じながら、咲良は眠りに落ちていった。


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