第10話 バラ色の日々

職場に好きな人がいる。

それだけでも仕事のモチベーションが上がるが、その人から告白されつきあうことになれば、喜びは倍増だ。

毎朝男子洗面所で顔を合わせていた咲良と井原だったが、トイレ内での密会ではムードもへったくれもないので、もっぱら給湯室で会うことにした。

長い通路の真ん中、奥まった場所にあるので防犯カメラにも映らないし、早朝は誰にも会わないので好都合だ。

井原の勤めるIT会社は25階ワンフロアを貸し切っており、他の社員は9時過ぎに出勤してくるので安心して話ができた。

時折コーヒーや手作りのサンドイッチを差し入れすると、井原は大いに喜んだ。

「咲良ちゃんは家庭的でほんとすてきだね。仕事柄お掃除とか家のことも得意そうだね」

「掃除は好きです。日常過ごす場所がきれいになると気持ちいいじゃないですか。仕事の時はさらに来館されたお客様やテナント様に喜んでもらえたら嬉しいし」

そう、きれい好きでサービス精神旺盛な人というのは、清掃の仕事に基本向いているのだ。

それに加えやわらかな物腰と丁寧な話し方ができるのが、ここのような一流企業ばかりが入居するオフィスビルには望ましい。

「今度の休み、咲良ちゃん家に遊びにいってもいいかな?」

「えっ!?」

彼氏が遊びに来るとなると、さすがにアラサーという年代的にもいろんなことを想像してしまう。

この前みたいにキスだけでは済まされないというかなんというかその続きが……。

「女の子の部屋ってどんなのかなって、思って。僕男兄弟だけやしその辺り興味があって。それに普段仕事でこれだけきれいにしてるから、部屋もきっとそうなのかなー、とか」

「あーそれは違うかもー。よくそう言われるけど、仕事だから丁寧にできるのであって、家は後回しよ」

「祝日の土曜日、午後から、だめ?」

「うーん…いいよ」

「やった!うれしいな。なんか手土産にスイーツ持っていくね」

ここもついつい出てしまうサービス精神。相手が喜んでくれるならと、なんでも引き受けてしまうというか、断れない。

もちろん、2人きりでゆっくり会えるのも楽しみだし。

「大好きだよ」

そういうと井原は咲良を抱きしめた。

ーいい香りする…。

つけている香水はポールスミスらしい。

嫌味なくブランド物が似合うところが、王子様の真骨頂だ。

育ちの良さを感じずにはいられない。

ーこんな素敵な人と出会えて、両想いって幸せやわ…。この仕事やっててよかった。

運命の出会いはどこでどんなふうにやってくるかわからない。

ただひとつだけ言えることは、どんな仕事でも信念を持って一生懸命やっていたら、それが何より自分を輝かせる武器になる。

その姿を見て惹きつけられる人は必ずいる。

恋も仕事も絶好調!

もうじき薔薇の花咲く季節となるが、咲良の心はすでにトキメキピンクの花びらが舞っているようだった。


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