第5話 スポットライト、あたる。

吉報は突然やってきた。

「木村さん、今度M不動産グループの社内報でビルメンテナンスの特集組むから、清掃代表として取材に応じてもらえるかな?」

「えぇ!?何で私が?」

「清掃の新しい雰囲気を、入居されてるテナントさんや親会社の不動産グループ全体に伝えたいんやて。それには若い人達ががんばってる姿を撮りたいからって、白羽の矢がたったわけ」

「それならうちのビルなら他にも木内さんとか…」

木内美帆は20代後半の超美人社員で、美しすぎる清掃員との呼び声高い。

しかし性格が小生意気で、上から目線の清掃員とも呼ばれている。

「木内さんはな、わかるやろ?あの斜め上から人を見下すような態度だけにちょっと…。それになんか知り合いに見られたくないからって断固拒否された」

「そうなんですか…」

「木村さんならキャリアも長いし、いろんな話が聞けそうやからって、不動産側もぜひって言うてくれてるんや。ええよな?」

「あ、はい。そういうことなら…」

「おっしゃ、決まりな。詳しいこと決まったらまた連絡するな」

「取材…」

社内報といっても、東京本社のほうも含め1,000部くらい配布するらしい。

滅多とない試みに咲良さらの胸が躍る。

清掃業界のイメージアップをはかりたいと思っていただけに、これはチャンスとニンマリ笑みがこぼれる。

ーせっかくなら、めっちゃいい感じで映りたい!

密かな野望が燃える。


「ええー!?きむちゃん取材ってすごーい!」

昼休み、こたつを囲み社員とゆかり、もう一人午後のクリーンスタッフちりさと食事をしながら、咲良は報告した。

ちなみにきむちゃんというのは咲良の職場内でのニックネームで、木村を短縮してきむちゃん。

だいたいあだ名の付け方というのは安直なものだ。

「私も木内ちゃんみたいにスタイリッシュになれるよう、本気でダイエットしてみようと思います!」

「えー、私はきむちゃんくらいほどよく丸みがあったほうがかわいいと思うけどなぁ」

美帆は大食いでランチも男の大盛り弁当みたいなごっついのをぺろりと食べるわりに太らないので、周囲からうらやましがられている。

「そういえばこの前テレビで『焼肉寿司ダイエット』ってやってたよ」

「何そのおいしそうなダイエット!」

ゆかりの言葉に皆が反応する。

「夜ごはんを焼肉とお寿司交互に食べて、一週間後に4kgくらいやせててん!すごいやろ?」

「そうなの!?ちょっとGoogle先生に聞いてみよう」

咲良の特技は、気になったことを速攻スマホで検索することだ。

「あったよー。なになに?なんか法則があって、朝はりんごと白湯を摂る。昼はお味噌汁を飲んだら何食べてもよい、夜は焼肉の時はお肉を360gとキムチ、けっこうな量やなー。お寿司は10貫が目安に、お漬物とお味噌汁ね。これなら楽しくおいしく続けられそう!今夜からちょっとやってみようかな」

「やってみてー。きむちゃんが成果あったら私もしてみようかな。フフッ」

ちゃっかりしているかわいいゆかりだった。


仕事帰りのスーパーに寄るのは咲良の日課だった。

夕方少しでも値引きされて安くなっている食品を買うため、基本まとめ買いはしない。

「まずはお寿司から始めてみよう」

20%オフの安い握り10貫セットと、40%オフのお漬物をゲット。春らしく筍と野沢菜の浅漬けを選ぶ。

お味噌汁は以前ネットで購入した、一食25円というお得品にきざみねぎを入れて風味をアップする。

はてなブログを開設している咲良は、このダイエット記録をブログにアップして楽しんでみたり。

とにかく毎日ささいなことに喜びを見出すようにしている。

ちなみにブログのタイトルは『腹黒OLの日常』(笑)

「おいしく食べてダイエットできたら最高やな」

実は咲良には、スリムにキレイになりたいと強く願う理由があった。

そのお話は、また次回。

取材のオファーを受け、シンデレラのように輝ける自分に一歩近づけた気がして、安い鮪の握りをほおばりながらも喜びを噛みしめるのでした。









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