第2話 偏見との戦い

若い女の子が、清掃の仕事を長く続けるのは難しいかもしれない。

その理由の一つに、一部の偏見の目がある。


「えっ、星野さんもうやめちゃうんですか?」

入社して数週間の新入社員、若干24歳の星野みゆきが退職届を提出して、会社に来なくなった。

「この前泣きながらこんなことがあったって話してくれたんやわ…」

上司の金本が言った。


みゆきがトイレ清掃をしていた時だ。

自分と同い年くらいの若いテナント社員の女性が化粧直しをして、出ていこうとした。

ふと洗面台の上を見ると、スマートフォンを置きっぱなしにしていた。

「あの、これ忘れてますよ」

急いでスマホを持って追いかけた。

するとその女性はお礼を言うどころか、まるで汚いものを見るかのような目で蔑み、迷惑そうに黙って受け取ると、洗面台に備えつけられている消毒液でカバーを拭き始めたという。

その女性の指先はネイルアートで綺麗に飾られていた。


「それがすごくショックだったらしくて…。星野さんもおしゃれしたい年頃やし、その人と今の自分を比べて、みじめな気持ちになってしまったらしいんや。それでもうこれ以上働けないって…」

「そのテナントの人の態度もどうかと思いますけどね!いくら見た目キレイにしてても、心はどうなのかって話ですよ」

「僕もその現場を見てないから何とも言われへんが…、少なからず星野さんの心の中に、自分を蔑む気持ちもあったんちゃうかなって思うんや。仕事ってもんはな、自分が誇りをもってやってたらどんな時でも堂々としていられるもんや。自分で自分を責めてたり恥ずかしいと思ってたら、なおさら周りの態度もそう見えてくる」


大学卒業しても内定がもらえず、フリーターとしてバイトを転々としていたらしい。

親や世間体を気にしてなんとか正社員になろうと思い、採用されたのがこの会社だったと彼女は言っていた。

私達に何も言わなかったが、毎日毎日トイレ清掃をしながら笑顔であいさつはしていても、大企業で働いている同世代の女性社員が綺麗な恰好で楽しそうに同僚達とおしゃべりしている姿を見て、いたたまれない気持ちでいたのだろう。

自分もそうなりたったのに、どうして自分はなれなかったのか。

自分に自信がもてなくなっていたのかもしれない。


「私もうちょっとちゃんと星野さんに教えてあげたかったです。私達の仕事は社会の役にたってるんだよ。私達がやらなかったらみんな困るんだからって。それにそんな態度とる人は公共の場でトイレや洗面台使う資格ないでって!」

「僕も星野さんがそんなに悩んでたとは気付かなくて…、助けてあげれなかったのが悔やまれる。若いしまだまだ未来が楽しみだったのに…」


人気のない時間帯からみんなが使うとところを綺麗にして、けれどそれが当たり前のように思われがちだ。

縁の下の力持ち的な役割だけれども、見てくれてる人はちゃんといるから。

まずは自分で担当の場所が

「キレイになった」

と自己満足。

「いつもきれいにしてくれてありがとう」

時折そんな一声かけてもらえた日には、天にも昇る気持ちでうれしくなるんです。

仕事にやりがいが見出せる時って、誰かの役にたってるって感じられた時かもしれないですね。

すてきな男性社員の方に

「ありがとう」

なんて言われると、

一日テンションがあがる単純なアラサーシンデレラです。

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