何時か

 薊の亡骸は、2日後に照によって引き取られた。薊の死んだその日に受け渡されなかったのは、何もなくはいどうぞと渡すわけではないからだ。およそ10回ここにやってくるのと同じほどの代金が、亡骸と交換される。


 花は枯れても尚、その冷たさを道具として売り、人の芯まで搾取する。


 地獄の底まで行ったところで、この朱色の囲いから放たれることはないのだろう。だが、目を閉じたままの薊は綺麗に、彼女のお気に入りの紅を塗られ、白粉をはたかれて美しかった。

 まだ夜が始まる前、夕刻にやってきた照はフジノにきっちり代金を渡した。

「悪いね。これが決まりなもんだから」

「いや、いいよ。どうせ金なんてもう、使うところが無いんだから」

 照は女郎花たちにフッと微笑むと、薊を貰い受けた。

「薊が、世話になったね。有難う」

 最後にそう言い残して、照は此処にしては早めの帰途についた。


「こうしてまで貰い受ける人がいるのは、上玉よね」

「うん、椿の中にも共同墓地にはいるモノもいるから。だから薊は幸せだわ」

 そんなことを百合は代わる代わる囁く。

「幸せ……」

 幸せとは、一体なんだったか。だんだんと濃い色の増す空を見上げながら女郎花はふとそんなことを思った。

 薊は幸せだったのだろうか。たとえ彼女のその、細い体を蝕んでいった執着が、人と成った瞬間に身を結んだとしても。

「人は黄泉の国に行くでしょう。花は、人に還って、何処に行くのかしら?」

 片方の百合がふとそんな疑問を口にする。綺麗な瞳に鏡のような相方を映して。

「分からないわね」

 二人で首をかしげる。

「「女郎花には分かるかしら?」」

 女郎花は首を横に振る。

「フジノなら分かるかも」

 クスクス、声を立てて、百合は笑った。うりふたつの顔が興味深そうにフジノの方を見る。相変わらず薄い藤色の、可愛らしい着物のフジノは、煙管を一服すると格子越しに煙を吐き出した。

「花はどんなに醜くなろうとも、矢張り散り際が一番美しいと言われることだろうね」

「それが、幸せなんですか?」

 ああ、そうさ。フジノが自嘲気味に笑う。

「それが良いと言われるのは侍の他、花ぐらいだからね」

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花葬 黄間友蚊 @kimatomokao

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