お藤とおつよ

 フジノ、と呼ばれていなかった時、はおつよだった。その名の通りに蓮っ葉で、男子に混じって一緒に駆け回り、時には喧嘩もするほどには強かった。おつよには、お藤という友人がおり、彼女は逆に病気がちでいつも床に伏せっていた。どういう風に友人になったのかは、おつよもお藤も覚えてはいない。多分、手習いかどこかで会ったのだろう。二人はそういうことにしていた。


 仲の良い二人はよく近所の土手へ行き、花をつんだり、それぞれの家の手伝いの手伝いをしたりしていた。手伝いの手伝いは、似ていない二人にはちょうどよかった。おつよは水を汲んだり掃除をしたりと体を動かすようなこと。お藤は裁縫や兄弟の世話などをした。


「ねえ、おつよちゃん。私たち、どうしてかしらよく一緒にいるわね」


 お藤がある日そういった。水汲みからちょうど帰ってきたおつよは、顔から吹き出てくる汗を拭って、


「分からないけど、ずっと一緒な気がするわ。きっと死ぬ時だって一緒なのよ」


 となんでもないように言った。お藤はふふふ、と笑って


「そしたらおつよちゃん、早死にしなきゃならないわ。だって私、病気がちでしょ? お医者さまにも普通の人よりも早く死んでしまうと言われたわ」


 それにおつよは少しムッとして、


「誰? そんなこと言った失礼なお医者さまは。私がやっつけてきちゃうわ。もう!」


 と頬を膨らませた。そしてお藤の手を取ると、その目を覗き込む。キラキラとした黒い目が、お藤の少し痩せた顔を捉えた。


「いいこと? 私もお藤ちゃんも今はまだ子供だけれど、大きくなったら江戸に行って一旗あげましょ。私いやだわ、こんなところに住んでるのは」


 それにはお藤も苦笑い。眉をつり上げて怒っているおつよを宥めるようにして首を横にふった。


「もう、一旗なんておつよちゃんは男勝りね。男ならまだしも、女が二人だけで江戸に行ってうまくいくもんですか。私たち、こうして暮らして、誰かと一緒になるのが一番いい//「そんなの嫌よ! 私はずっとお藤ちゃんと居たいんだもの! 離れるのなんて嫌」


「おつよちゃん……」とお藤が困った時の顔をする。眉を寄せて首を少し傾け、じっとおつよの方を見るのだ。普段ならここで折れるおつよも、今回ばかりはそうするわけにはいかない。拳をぎゅっと握って、


「お藤ちゃんと私は身分が違うから、隣同士になんて住めやしないわ。私はどっかのお武家さんのところに行かなくちゃいけない。お藤ちゃんはそうね、多分商人のところでしょ? そしたらずっとお別れしなくちゃいけない。ずっとずっと会えなくなってしまうんだわ」


 と叫んだ。おつよのその勝気な目から、涙が溢れそうになる。


「これっきりしか、わがまま言わないわ。私が男みたいに仕事探して、できること全部する。男みたいにほったらかしにしないで、お藤ちゃんが病気になったら私は看病できる。だからお願い。ずっと一緒に居て頂戴。私一人は嫌よ」


 友人の言葉を無下にするわけにはいかないと思ったのだろう、お藤は手をそっと握り返して、


「そうね……大人になったら江戸に行きましょう。そうして、楽しく暮すのがいいわね」


 と微笑んだ。その約束の不確かさを口にするほど、酷なことはしない。いつか、おつよは忘れるだろう。そう思ってお藤は、満面の笑みのおつよを見つめていた。

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