昼に見えるものと隠れるもの

 火をひと吹きして消し、女郎花は大きく空いた布団の片端に潜り込んだ。春とはいえ、夜はまだ肌寒い。使うことは稀であろう掛け布団が、今はとても心地よかった。


 大きな一つの布団に、二人して寝る。狭いわけではないので背がぶつかることもない。お互いに外側を向いているせいで、二人の空間が一気に孤独の隔離されたものと化す。それは女郎花とっては熱を共有する必要がなくていいものであるが、徳兵衛にしたらどうだろう。背中からは何も音が聞こえないのをみると、寝ているのかもしれない。巡る思惑を断ち切るように女郎花は頭を振った。


「寝るといいよ。睡眠がとれずにうつらうつらした女ほど美しくないものはないからねェ」


 低いその声が、緩やかにその優しさを伝える。年の功も全てひっくるめて、それが徳兵衛のものの言い方なのだろう。女郎花はクスリと笑ってゆっくりと瞼を閉じた。


                ***


「アンタ、いつまで寝てるんだい。お天道様が昇ってきちまったよ」


 女郎花が重たい目を開けると、そこには仁王立をした徳兵衛がいた。慌てて飛び起きた拍子に布団がめくれる。それと同時に着崩れた着物の裾から女郎花の足があらわになった。それは陽の光に当たって一層白さを増している。が、それだけとも言える。それを見逃す徳兵衛ではない。スッと目を細めたて、


「……、ふむ。陽に照らされた足は美しくない、か」


 と徳兵衛は、自分に聞こえるだけの小声で呟いた。そして慌てふためく女郎花を手で制し、


「後払いもしておくよ。世話になったね。アンタ、器量が全くいいようには思えないけど、うまくやるんだよ」


 と最後まで棘のある優しさを残して、部屋から立ち去って行ってしまった。女郎花がぺこりとお辞儀をしたのを目にも止めずに。女郎花が最後に見た徳兵衛は、洒落た色の羽織が相変わらず似合うその背中であった。


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