客引きをする女と商人

 人を群衆として塊で見る。そうすると個人は塊の中の一人である。此処に来る輩は総じて女がらみではいいやつではない、という点でも似通っている。だが、よくよく見てみると着物型の帯方、遠くから聞こえる話し声、煙管の質。 だが、人は全てにおいて、詳細は異なる。法度もなく帯刀しても構わないここでも、身分がうっすらと浮かび上がる。腰に下げた刀を慣れないようにちらりちらりと見ているのは、商人か豪農の出。彼らはまた、比較的肉置き豊かであった。武士は食わねど高楊枝、などという言葉が似合うのが本物の侍なのだ。と人を見分けてまだ間もない女郎花にすら、すぐに分かった。薊が女郎花の袖を引っ張った。


「お、あそこの旦那、ちょっとへんなやつだけど、アンタにはぴったりかもね。ちょいとそこの腰掛けに座っておくれよ」


 薊はそういうと女郎花をぐいと引っ張り、色あせた腰掛けに座らせた。


「そうそう、見立て通りだ。やっぱりアンタ、いいとこから来たんだろ。座り方がきちんとしてるね。そんな感じで座って、首をもたげてみておくれよ」


 女郎花は薊のいうことに従って首をもたげる。少し手の位置をずらしたりしていた後、薊は満足げに手を腰に当て、くるりと前を向いた。『いつまでこの格好でいればええのやろか』女郎花はそう思ったが、せっかく自分の客引きを手伝ってくれた薊に聞くのも躊躇われる。


 そのままじっとしていると、女郎花は柵越しから鋭い視線を感じた。顔を動かさぬまま目線をそちらに向けると、そこにはくすんだ緑色の羽織と藍の小袖を着て、八寸ほどもある長い煙管を持った商人がいた。無意識に口元が緩んでいる。女郎花は上から下まで舐めるように自分を見てくるこの好々爺にゾッとしたが、ここで声などあげようものなら離れていってしまうと思ったのだろう。そろりそろりとまた視線を元に戻し、じっと耐えた。


「おい、薊。そこにいるのは新しい子かい」

「ああ、そうだよ旦那。矢張りお目が高いねぇ。さっき見廻組の奴が連れてきたところさ。座り方でわかるだろ。どうも、いいとこから来たみたいだよ」

「ああ、そのようだねェ。……今日はどうやら捗りそうだ。アタシはちょうどこんな子を探してたんだよ」


 商人は煙管を吸うと、満足げにその場を立ち去った。薊は女郎花の方をくるりと振り返って、

「よかったじゃないか。客がついたよ」

 と笑いかけた。

「薊はん、おおきに」

 体勢を自分の座りやすいように戻しながら、女郎花は苦笑いを返した。


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