乱れそめにし われならなくに

 薊は女郎花に、男の客引きのやり方を教えた。

「いいかい、男はか弱い女は好きじゃないよ。弱い女が好きなんだ。そして自分を気持ち良くしてくれるやつがね。自信がなさそうにしてたら駄目だよ。いい塩梅に……ああ、それじゃあ気が強そうだ。馬乗りになってやるって顔してるよ。そう、こうもっと膝を折って。……うん、ましになったね。そんで流し目。」


 それは、薊が笑っているものだから、何でもないようなことに聞こえる。が、実際にやるとなるとかなり難しい。今までしたことのない体勢で静止していなければいけないため、女郎花の膝はすでに笑っている。しかも、やっているのはやはり誘惑。どうにもこうにも上手く一歩が踏み出せない。そんな女郎花を見て薊が笑顔をしまった。そして真顔になって反対側の柵を指差す。


「よく見てお聞き。もし誰も捕まえられなかったら、あの女のようになっちまうよ」


 反対側の廊の中には、腰掛けに座った女がいた。着物に着られているように見えるほどやせ細り、頬がこけている分目はぎょろりとしていて、虚ろ(うつろ)を映し出している。着物にはどの花が入っているのか、汚れすぎていて分からない。花は男どもが買ってから、まず身を清めるために湯浴みをし、着替え、男とともに食事をする。廊から出らない、ということは食べ物も与えられず、風呂にも入れない。当然、着物は同じままだ。


「どんどん汚くなっちまったら……。そしたら誰もそいつのこと見なくなっちまう。おしまいだ。いずれ干からびて、何もなくなっちまう」


 薊はぶるりと体を震わせた。両腕でその細い体をしっかりと抱きかかえている。そして薊はじっとその女を見た。その目はようやく此処に似つかわしくなり、恐怖と虚無が混じり合っているものだった。が、それは一瞬のみで、薊と同じように女に顔を向けていた女郎花は気がついていない。


 向かい側の女は先刻からもうずっと同じ姿勢のままで、瞬き一つしていない。腰かけているのは立つ力が既にないからで、座って枯れ果てるのを待っているだけなのかもしれない。いざ檻に入れられると、先刻の菊の時よりもずっと現実味を増す。今のままではこの女のようになってしまう。女郎花は途方に暮れて、


「どうしたらええんどすか」

 と言った。


「まずはあんたの価値をしっかり見ることだね。女郎花は銀を三十匁分で一夜。羽振りが良い輩を見たところで駄目だよ。そういうやつは大抵椿や菊なんかの上玉を狙っている。だからそういうやつよりも、少し地味めの着物を着た、金を持ってなさそうなやつを見繕いといい」

 薊はそう言って、片頬を持ち上げた。

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