散った菊と咲く女郎花、その上に影をさす藤棚

 印を手ぬぐいでキュッと結ぶと、女郎花は顔を上げてフジノに

「最後に一つ聞いてよろしいどすか」

 と聞いた。


「ああ、なんだい」

「……あの菊の着物着た方、どないなりますの?」


 フジノは少し考えた後、なんでもないように菊の末路を言い放った。

「そうだねぇ……今頃、見廻組に景観破壊でお縄になっているか、奥の椅子で自分のこれからを考えているところかな。もしかしたら他の女どもに着物を剥がされて襦袢だけになっているかも知れない」


 フジノは娘のもどかしそうな目から、視線を障子にやった。

「女というのはね、一度失ったものを取り返すことはないし、他人の失敗を蜜にして吸い付く厭な生き物なのさ」


 そう言うとフジノはほら、行った行った、と手をひらひらと振った。女郎花になった娘は、眉根をキュッと寄せたが言い返しはしなかった。その代わり、しゃがみこんで自分が着ていた着物をきちりとたたみ、フジノに渡した。


「フジノはん、私がもし死んだら、藤の花をよろしゅうお願いします」

 女郎花の顔からは死への恐怖がとれ、何かを受け入れたような目をしていた。ようやく、年頃の女のように見える。フジノは少し驚いたような顔をしたが、ニヤリと笑い、


「分かったよ」


 と言った。女郎花はそれを聞いてかすかに笑い返し、今度こそ部屋を出て行った。その姿を見送ったフジノは、もう一度煙管を咥えてふぅと長く細い息を吐く。


「ああ、一瞬あの子、あんたに似てると思っちまったよ。■■■」


 その独り言は、女郎花には届かない。

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