灰色の終わり

「……ユウスケ、お願い、生きて……」




エントとユウスケの戦い。



シルマに伝わる轟音が、戦いの激しさを教えていた。



私は目を瞑り、両手の掌を合わせている。




「エントに、勝って……」




この祈りで、ユウスケが少しでも優勢になれるのなら。


そう思って、私は祈り続けた。




「きっと、届いてるよ」



イツキは、私にそう声をかける。


優しくて、甘くて、穏やかな声だった。



もし、パパが、ユウスケに、イツキに会っていたのなら――




「……うん」




私は、精一杯、祈り続けた。







――――――――――――――――





「……音、治まったね」



イツキの声で目を開ける。



どれ程時間が経ったのだろう。



ずっと祈り続けたせいか、感覚がない。





「……これ……」




目の前のモニターを見る。



そして。





「反応が……エントの反応が、無い?」




大きな紅い点が、消えている。


確かに。


目を擦って確認しても。




「まさか、本当に、エントに勝った、の?」




パパの最終兵器が――ユウスケに敗れた。



それは、つまり。




「ユウスケは、生きてるの?」




未だに実感が沸かない。


気が付けば、『警音』も鳴り止んでいた。


紅い光も。全てが、終わったのだ。





「行こっか。藍君の、ところに」




イツキがそう言う。


その表情は……本当に、『信じていた』というような表情だった。



「……うん!」




――――――――――――――




部屋の転送装置を使って、シルマの一階に移動する。



「……」



ユウスケ同じく驚いた表情のイツキ。


そんなにこれは驚くものなのだろうか?



「行くわよ」





外は、驚く程に空気が澄んでいた。



灰色の靄も消えて、『それ』はすぐ見える事になる。




砂埃。


倒れたエント。




そして。






「…………居た、ユウスケ!」





同じく倒れたユウスケの影が見えた。


私は走る。






「はあ、はあ……ユウスケ?」





その姿は、痛々しい程に傷だらけだった。




腕、足、顔に至る全ての傷。



流れる血。



長きに渡る戦いの片鱗が、全身に広がっていた。




他ならぬ、『私』の為に……ここまで。






「ユウスケ、返事して!ユウスケ!」




全ての生命には、『魔力』が宿る。


けれど……ユウスケは、その魔力ですらも、絶える寸前の状態だった。



もしかしたら。それが過り私は叫ぶ。





「ユウスケ、お願い、返事してよ……ユウスケ!」




喉が切れる程に、私は呼んだ。


この声が、ユウスケへと届いて欲しかった。






「………………ミア、か――」





小さい声。


でも、聞こえた。




「……ユウスケ、ユウスケよね!」



「はは、ああ。紛れも……ない、俺、だよ……ミア」




ゆっくり途切れ途切れに話すユウスケ。



「ごめんなさい、ごめんなさい……私の為に」



「……はは、俺が――したい事を、しただけだよ」




ユウスケは、傷に塗れた手で私の手を掴んだ。


この手で武器を握って、戦ったのだろう。


私は、その手を私の手で包み返す。




「ありがとう、ユウスケ」




感謝をしても、しきれなかった。






ユウスケは……そんな私を見て、笑って――――














「ミア」


















ユウスケは、手を、空に掲げる。
























「『空』、見てみな」
























「――――っ!!」





見えたのは、空に浮かぶ光の海。



それは幾つもの光が散りばめられて、空を覆い尽くしている。






瞬いて、その隣も負けずに瞬いて――数が数えきれない。





夢でも見ているのか、見紛う程の光景。



ユウスケが話してくれたその光景が――今、私の前に、広がっている。






「……」





見惚れていた。


この世界に――こんな美しい光景が広がっていたなんて。



涙が、自然に流れていく。声が出ない。





「……はは、俺も、こんな綺麗な星空は……初めてだ」






ユウスケが、私の頭を撫でて。




「だから、さ」



空を眺め、口を開く。














「俺からも、ありがとな――ミア」


















そう言ってユウスケは……目を閉じた。



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