灰色の死闘②

そいつは、その大腕で地面を揺らしながら近付いてきた。



「―――――――」




急に静かになった化け物は、俺を見下ろすように止まる。


品定めでもしているのだろうか。


不気味な程、生きているかのように動く化け物。



「俺が相手じゃあ、不満足か?」



俺は剣を構え、そう言う。



「――――――――」



それに応えるかのように一拍置いて、化け物は動き出す。


そしてまた、その大きな腕を構える。


同時に――その両腕が、『光』を纏った。



「なんて魔力だ……」



一瞬見惚れる程に輝く魔力の光。


白と黒が均等に混ざりあった、『灰』色のそれは……淡く俺を照らした。



瞬間。




「――――!」




化け物が――その巨碗で殴り掛かって来る。


僅かな予備動作と共に、恐ろしい速さで迫り来た。



「充電」




僅かに残る電気の力を取り入れる。


この状態であっても、流石に『バッテリー』として自然充電……勝手に電力を回復してはくれない。


だが――その代わりに消費する電力がかなり減る。




「――っと」


「――!!――!!」



巨碗と思えない程軽く殴打の連続をやってのける化け物。


一発一発が地面にクレーターを作り、威力を物語る。


舞う土埃に身を隠すよう移動しながら俺は回避し続けた。




「――っミサイルもか!」




この殴打の連続に、いつの間に背中からか発射されたのか……先程のミサイル。


流石に数は最初より少ないが、これは厄介だ。



ミサイルを叩き落すには蒼炎の力が。


この殴打を避けるには電気の力が。





今まではどちらかを素早く切り替えながら戦ってきた。雷電で攻撃を避け、隙が見えた所で雷電を解除。蒼炎で攻撃、というように。


魔力移動のトレーニングはそのためでもある。……しかし。


決して片方だけではこの危機を立ち回れない。どちらかが切れた瞬間、俺はやられる。




これまで二つの属性を身体に宿らせる事はしなかった。


勿論やろうと思った事はある。しかし……できなかったのだ。


イメージでは半身に炎を、半身に電気を纏わせるのだが……お互いが譲らないように、一瞬現れた後にすぐ消えてしまう。


もっと酷い場合はどちらも現れない。今の俺では一の属性しか扱えないのだと、そう感じた。


が、これまでの時点では出来ない……しかし。この状態なら――可能性はある。





「……」



ミサイルはやはり遅い――波状攻撃を狙っているのだろうが、今ではむしろありがたい。


迫りくるミサイルの距離を確認。




そして同時に、雷電によって化け物の攻撃を躱していく。


「ぐっ」



やはり駄目だ――今の状態で、避けるのに精一杯。


ミサイルが更に加えられたらもう『回避』なんて出来ない。



蒼炎の力で、叩き落とすのみ。


やるなら――今、この状態にプラスして、蒼炎を強制的に宿らせるしか勝機がない。




「っ、……」




回避を行いながら俺はイメージを。


苦しいが、『二属性の付加』は前々からずっと行ってきた事でもある。それが幸いだ。


……全て、失敗しているんだが。



「……」




イメージは、下半身に『スピード』の雷電を。上半身に『力』の蒼炎を。


それぞれの役割が一番活かせる場所に宿らせるんだ。


俺は――ライターに火を灯す。




「――そうか」




迫るミサイルと巨碗の両方。





続く化け物の攻撃の中、俺は炎を増幅させようとした手を止めた。





集中する。


時が遅く感じる程に――頭を巡らせる。





そうだ。



目の前の『灰色』を、見据える。



『ヒント』は、直ぐそこに。




それぞれを一つとして捉えるんじゃない――二つを一つに。


『白』と『黒』を合わせて、『灰色』にするように。




蒼炎と雷電を――混ぜ合わせる!




「付加――――」



まずは蒼炎を宿らせ。


そして、次に雷電を――




「充電!」




ケーブルから伝い、移る電気を――右手に。


合わせるように、燃える蒼炎を――左手に。






詠唱を決める。


それにイメージ、そして。









合掌。








「――――『合成』!!」







イメージと詠唱が重なり合い、それは現れる。


合掌した瞬間、膨大な力を感じる。




――それは、確かに共存していた。


燃え盛る炎と、バチバチと光る雷電。



しかし――その色は、どちらでもない翠色へと変わっている。


蒼と薄黄。混ぜるイメージそのままに――色も影響されているのだろう。




お互いが俺の身体で、力を解放させまいと暴れている。




……これなら。





「――――!!」




目線を前にやれば、化け物の片腕が眼前に。


ミサイルも間近――




「――っと!」



雷電だけ足へと集中し、そのスピードで寸でで躱す。


……一度共存させてやれば、後はそれぞれ分離させて使えるんだな。それじゃ――


俺は炎を分離――スタッフへと移して。





「――――創造!」




雷電の高速ステップで移動。このスピードなら、ミサイル直撃前に一太刀浴びせられる余裕が出来る。


色が戻った、蒼炎の刃の大剣を創り――そのまま振り翳す!


化け物の、『巨腕』に向けて。




「GAAAAAAAAAAAA!!!」




耳を劈く化け物の鳴き声。『痛み』など感じるとは思えない、が――その声は『悲鳴』だった。



途轍もなく重い――が、そのまま振り抜く。



手応え有。


やっと、あの化け物に一太刀浴びせられたか。





そしてもう一周振り回し――遅れて飛来したミサイルを焼き払った。






「……っ」





一度距離を取る。


そのまま追撃するか迷ったが――俺の『第六感』が、危機を知らせたからだ。




「――――――――」






『空気』が、変わる。



化け物がやろうとしていた『殺戮』の気配が消えて。



化け物の『目』が、俺をじっと見据える。












――変わった?





これまでと違う。


それは、『破壊』。



この俺を――この地を巻き添えにしてまでも、『破壊』しようとしている。








何か。





何かを、やろうとしている。





――――これは、不味い!






「―――――――……」







一瞬の静寂。




刹那、終えて。




それは――






「――――――っ!?」





見えたのは、灰色の光。




一瞬見える。それは、光線……俺の体なんて簡単に飲み込むほど、太く大きい線が。




――俺に向けて膨大な『破壊』を乗せた、巨大な光線が俺を襲って――――

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