ミア②

「おはよう。ミア」





あれから、何日が立った。


言っていた通り、ユウスケはあの日からずっとここに足を運んでいる。



私はユウスケと、色々な話をした。




「はは、そういえばあの王国の宿のご飯は美味しかったなあ」


「……どんな料理なの?」


「えっとな――」



この場所の外はどうなっているのかとか。この島の外にはどんな国があるのかとか。


長く険しい、これまでの旅の思い出を話してくれた。


私が知らない事ばかりで、とても新鮮だった。


襲い掛かる魔物や、旅の最中の人の強敵。


王国に捨てられた事も、今思えば良かったと……彼は笑いながら語った。




「俺の力は、モノの力を増幅させるんだ。空を飛ぶことも出来るぞ。ちょっとだけだけど。……ほら」


「?!」


「はは、びっくりさせちゃったな。こんな事も――」


ユウスケの不思議な魔法についても、色々と話して、見させてもらった。


パパ以外の魔法を見るのは初めてで、見ていて不思議な感覚を覚えた。


ユウスケの隣にいた女の人……イツキは、とても豪快な魔法を使うらしい。見た目にはよらないなと思う。




「……それは、本当に、この、空の上にもあるの?」


「ああ。きっとあるはずだよ、星は。ここだけないなんてあり得ない」


ユウスケは、この世界についても色々と話をしてくれた。


印象的だったのは、『星』の話。



このエニスマは、地面も空も灰色だ。


そんな空の彼方、灰色を突き抜けた先には、輝く光……星があるらしい。


色んな色があって、それぞれが一つ一つ美しく瞬いている。


そんな『星』を、いつか見れたらいいなと、半ば諦めそう思った。




「……」



私自身の事については、これまでにずっと、ユウスケは聞いてこなかった。


私が聞いてほしくないのを分かっているのだろう。


……私は、自分が嫌いだ。そして僅かに、自分という人間を知って……嫌われるのじゃないかとも思っていた。




「……ミアは、何か夢はないのか?」



しかし、今日は違った。


彼が、私について聞いてきたのだ。



「……そんなの、ない」


「そっか」


夢なんて、私が抱いているわけがない。


一言二言で、その会話は終わる。


しかし。



「例えば――この島の外に出て、色んな景色を見たりとかさ」



彼は、そう私に言う。



「そんなの――」




否定、出来なかった。


彼が話す『外』の話は、とても聞いていて心が躍るものだ。


でも。



――『ミア。お前はずっと、この場所にいるんだ』――



パパにはずっと、そう言われてきた。


外の世界は危険が一杯で、良からぬ考えを持つ人が沢山いる。


『絶対に、外に憧れるな。この灰色の空の下で――ずっと居ろ』と。



「なんなら――俺達と一緒に来るか?」



放つ、ユウスケのその言葉。


どうして、こんな事を言えるのだろう。


不意な旅の誘いに、私の心が揺れる。



「っ……私は、外の世界を見ちゃダメなの」


「どうしてだ」



当たり前の疑問だろう。でも、私は。



「約束、したんだから」



そう、口に出していた。



「……そっか。その約束は、絶対に守らないといけないのか?」


「当たり前よ……そして何より、私なんかが一緒に居たら、きっと貴方達は不幸になる」



私は、絶対にユウスケ達とずっと一緒に居られない。


この外にも、絶対に出られない。


パパとの約束。そして、それを破れば――






「――ミアは、一体何に怯えているんだ?」






ユウスケは、私の顔を見てそう言う。



……私にとって、ユウスケは、もう、只の他人じゃない。


私の為に色んな事をしてくれて、私を『助ける』と言ってくれて、毎日一緒に居てくれる。



私の『心』は――もうすぐ限界だ。


ユウスケ達とこれ以上一緒に居たら、ユウスケ達は――



「……ユウスケ」


「?」



もう、これ以上は、ユウスケと会う訳にはいかない。


ユウスケ達の為にも。



「ユウスケは、もう十分、私を救ってくれた」


「……何を」


私の言葉に、驚くユウスケ。


……もう、おしまいにしよう。



「――だから。会うのは、明日で終わり。明日、ここで待ってるから」




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