到着

向き直り、樹の方へ向かう。


取りあえずなんとかなってよかったが、これはゴブリンだったからだ。


もっと強い敵であれば、無事ですまなかっただろうし、今回を教訓にして油断はもうしない……そう誓おう。


震える手を押さえながら、スタッフを背中に戻す。


一気に7匹……か、流石にキツいな。


精神的にかなりきているが、この緊張はコルナダに着くまで保たなくては。


「樹、さっきは助かったよ。ありが……」


言い終える前に、樹に手を握られる。


震える冷たい俺の手は、暖かい樹の手に包まれた。


同時に橙色の光が手を伝い、暖かい感覚が俺の体を覆う。


これは……小さい時に母親に抱き締められ

ていた時のような、そんな感覚。


幼くも暖かい記憶が宿っていきながら、体が、心が癒されていく。


気付けば手の震えも、精神の疲労も消えていた。


……無意識に、涙も一緒に流れていたのに気付いたのは少ししてからだ。


「っ!ご、ごめんな。ありがとう」


気付いた俺は手を樹の手から離し、涙を拭う。


樹の回復魔法?は凄い、『精神』まで回復出来るとはな……ちょっと強すぎるけど。


「……」


横に頭を振る樹。


「い、行こうか。今度こそゴールだ」


俺ははぐらかすようにそう言い、樹の手を引いて強引に進む。


もちろんだが、油断はしない。


それは……多分、樹もわかっているだろう。


しかし、ゴブリンの襲撃が終えると、先ほどまであった気配はなくなっていた。


森って恐ろしい……そうメモしておこう。

―――――――――――――


あれから歩いてすぐ、無事に森の出口へと出た。


その光景は、王都を出た時と同じ。


急に眩しくなり驚いたが、同時に喜びも感じる。


やっと外に出れたからな、ここからはまた普通の道だ。


地図を見れば、もうこの先を真っ直ぐいけば良いらしい。


「あー!やっと出た……残りコルナダまであともうちょっとだな、大丈夫か?」


「……」


頷く樹。中々元気そうだな。


うん、俺も負けてられない、頑張ろう!


……くるか?


おー、と樹は控えめに片腕を上へ。


「おー!」


タイミングを合わせ、俺も声を出して片腕を上げる。


読みが外れれば俺一人だけ上げて変な感じになってたが……合っていたようだ。


同時に上げて意味あるのかと言われれば困るが……士気が上がるだろう!こういうのは。


「……」


……ん?


見れば、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


そんな樹は、俺の手を取って前に強引に進む。


はは、ついさっきと立場が逆になってるな。


――――――――――――――――


しばらく歩いて間もなく、大きな壁、それに門が見えてくる。あと門番。


「着いた……か」


「……」


うん、樹も嬉しそうだ。


『コルナダ』。


王都に一番近い都市なだけあり、流石に王都には負けるが、大きく発展を遂げているらしい。


この街の特徴は特にないが、俺達の旅路で初めてのゴールと言っても間違いはないだろう。


うん、色々あったな……


ふと空を見れば、もう夕に染め初めていた。

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