強襲

「樹、時間かけてごめんな。けど魔力を纏わずにやれるなら大分楽そうだ」



「……」



俺がそう言うと、樹は木に隠れていたようで、そこから出てきて俺を回復してくれる。


回復魔法は不思議なもので、緑色の光に当たれば傷が一瞬で治っていく。


「ありがとう、樹は凄いな」


素直な感想を、樹に言う。


「……っ」


はは、照れてるのか?顔背けちゃったよ。


「よし、このままどんどん進もうか」


「……」


頷く樹。まだまだ道は続いていく。



――――――――――――――


あれから、大分経った頃。


ゴブリンはあれから出ることはなく、順調に進んでいる。


まもなくして光が少し、向こうから射しているのが見えた。


「お、樹。あれもうゴールじゃないか?」


「……!」


樹も嬉しそうだ。まあやっとこの森から抜けれるんだしな。


ゴブリンはあれから全く出ず、出てくる気配もない。



……俺達は完全に油断していた。


物音。同時にこの時を待っていたかのように、『そいつら』は現れる。


先ほどとは違う、石の剣を持ったゴブリンや石槍、石斧を持ったゴブリンが六匹。


俺達を囲むように、俺達を狩りに来たかのように、向かって来ていた。


「くっ……樹!備えてくれ!」


もしものときには魔法を使ってくれという意味でもあり、かなり厳しい状況だ。


頷く樹を確認してから、俺は魔力を放出していく。


くそっ、もっと早く気付いていれば。



……『油断大敵』、本当にその通りだ。


「纒」


唱えると同時、魔力が俺を包み込む。


以前より力が溢れてくる感じが大きい、これは成長したってことか?


……っと、そんなの考えてる場合じゃないな。


俺は背中のスタッフを手に取り、一番最初に目についた石斧のゴブリンへ一瞬で近付く。


そのまま近付いた勢いを乗せて、スタッフをゴブリンに叩き込んだ。


醜い声を上げて倒れるゴブリン。死の感覚を確かめながら『次』を探した。


石の剣をこちらへ振ってくるゴブリンが居たため、それを横に抜けて後頭部に一振り。


俺を脅威と感じたか、ゴブリンは俺に集中して狙ってきた。樹の方に向かわれたら駄目だから調度良いだろう。


間髪入れず、石槍のゴブリン二匹が槍先をこちらへ向けて突進してきたため、一匹はスタッフで槍を掬い上げ撥ね飛ばす。


二匹目は槍先を避けてから、撥ね飛ばしたゴブリンにそのまま誘導し、相討ちさせる。


何が起こったか分かってない石槍のゴブリンに、スタッフを叩き込んだ。


残り、二。


石の剣を持ったゴブリンが二体。


剣を構えてはいるもの、こちらへ向かってこない。


……何だ?まあいい、早く終わらせ――


そう思考し、向かっていこうとした時だった。



視界の端から『火の玉』が飛んでくるのが見える。


完全な、不意討ち。



――避けるか?……いや、強引に避けて体勢を崩せば、あいつらの格好の的だ。



――わざと当たるか?……いや、当たれば体勢を崩すどころか吹っ飛ぶ可能性もある。




……駄目だ。




俺が思考する間に、容赦なく火の玉は――



「っ!」




――当たらなかった。


なぜなら……目の前に白く光る、大きな盾が在ったから。


盾は半透明な白色で逆三角、幻想的な光を放っている。こんな時じゃなかったら、見惚れていた所だ。


この見るからに、『聖』魔法的な何かは……


「樹、ありがとう!助かった!」


礼を言って、予想外だったであろうゴブリン達に向かって突進する。


一瞬のゴブリンの硬直の隙に、一匹目の脳天を叩いた後、反応しようとする二匹目も同様に叩く。


そして『七匹目』を見据えた。


その魔法を使ったゴブリンは、奥地へ逃げようとしている。


逃すとまた隠れて魔法を使ってくるかもしれない、そう考え強化された足で一瞬で近付く。


気付いているか、気付いてないかは知らないが後頭部をスタッフで叩く。


ゴブリンが倒れたのを確かめた後、その姿を見る。


見れば格好が他のゴブリンと違い装飾が施された服を着ていた。奪った人間のものだろうか、サイズ感はまったく違う。


そして握っている杖。これもこんなゴブリンが作れると考えられない、普通の人間が使うような杖だった。


そんな落ちている杖を手に取り、考える。



……戦利品として、貰っておくか。元々使っていた人には悪いが。

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