ゴブリン

少し進むだけで光が樹に遮られ、暗くなっていく。


そして、『何か』の気配も少ないが感じる。


警戒しながら進んでいくが、何も姿は現さず。


「樹、何かいるの分かるか?」


「……」


頷く樹。


「そっか、それならいい。警戒しながら行くけど、何かあったら教えてくれよ」


そのまま、ゆっくりと、警戒しながら歩いていく。


そして時間にして一時間程度経った頃、。木がない、少し開けた場所に出た。


「……」


「ん?どうした?」


俺の裾を引っ張ってくる樹。


その行為で俺が振り向くと、何やら指で一つの方向を指す。


その方向には……これもまたおなじみの、『ゴブリン』がいた。


その姿は、濃い緑色で耳が長く、醜い顔をしており、また体は小さい。


武器は石と木で作ったであろう石槍を持ち、何かよく分からない言語で鳴くように喋っている。


うん、お手本のようなゴブリンだ。


スライムは特に感じなかったが、今回は人の形をしており、またそれが人ではないというこの何とも言えない感覚に襲われる。


『違う世界』へ来てしまった、それを再確認した。


……ゴブリンは、俺に明らかな敵意を見せながら近付いてくる。


数は一匹。されど一匹、さっきのスライムとは全く違う。


「樹は、後ろで待っててくれ」


そう告げた後に、背中に掛けているスタッフを手に取り、握り締めた。


「っ!」


ゴブリンは醜い声をあげながら、石槍で小突いて来た。


なんとか避けて、スタッフを構える。


石はかなり荒く削られているが……当たれば痛いではすまないだろう。


前に足を踏み出し、ゴブリンと至近距離になる。


そのまま攻撃後の隙がある、ゴブリンにスタッフを叩き込んだ。


脳天に直撃する、攻撃。


しかし。


「がっ……」


俺の腹に衝撃を受け、思わず声が痛みと共に出てしまった。


攻撃は脳天を完全に捉えたにも関わらず、ゴブリンは反撃を行っている。


たまらず距離を取り、スタッフを構え直す。


……これは殺し合い、何を油断してた?


気絶でもしてくれないかとか、これで逃げてくれないかとか、期待してたんじゃないか?


人の形をしたものを殺すという事に、恐怖していたんじゃないか?


……何をやってんだ、俺。


――この『世界』で、生きていくには。


この『世界』に、適合して行くしかない。


「っらあ!」


さっきとは違う、殺意を込めた一撃。


それはゴブリンの腕に当たり、在らぬ方向へ曲がる。


それに構うことなく、ゴブリンは石槍で攻撃しようとするが、片手だけでは力を込める事ができず。


そんなゴブリンに容赦なく、俺は再度頭にスタッフを振るう。


……そして手に伝わる、死の感覚。


少しして、ゴブリンは動かなくなった。


気持ち悪さが俺を襲った為、深呼吸。



……早く、慣れないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る