第十六章 『人に夢とかいて儚いと読む』
第十六章
それにしてもどうして俺と亜衣がさっきまでと違う場所にいるのか。
いや、違う場所というよりも違う時期という表現のほうが正しいのかもしれない。ボロボロだった社はきれいになっているし、なんだか森も生き生きしているような気がする。
その理由が知りたいと俺は亜衣に質問をぶつけた。
「ねぇ、おばあちゃん。どうして、俺たちはここにいるんだ?そしてどうやって?」
しかしその質問に首を横に振って亜衣が答える。
「わからないわ。おそらく、私と和樹が一緒に社に行ったことが原因だと思うけど・・・」
さっぱりわからない。
「いや、それじゃ訳がわからないよ。」
「そうよね。ごめんなさい。」
亜衣は笑顔で答える。
「だた・・・おそらく、私たちがいるのはさっきまでいた時代よりはかなり昔の時代・・・。それも、たぶん・・・」
「たぶん、何?」
俺の質問に対して深い溜息を吐きながら答える。
「たぶん・・・昭和二十八年・・・だと思うわ。」
どうしてそこまではっきりわかるのだろう。
そう思う俺の疑問に亜衣が答えた。
「この年に、舞がいなくなったのよ。」
「舞・・・大叔母さんのこと?」
「そう・・・あの日、私と舞は森で遊んでいたの。この社のある森で。そして・・・いなくなった。私は気を失っていて何も覚えていなかった。覚えていたのは恐怖に引きつった父の・・・和樹からすると曽祖父の顔だけ。まさに、この場所だったわ。」
この場所で大叔母が消えた。一体何があったのだろう。
「そして、おそらく私と舞の人生が狂ってしまったのはこのことが原因。舞は自分の人生を生きられずに死んで行った。しかも一人で。それがさらに舞を狂わせてしまったのだと思う。」
どういうことだろう。亜衣の話からすると、大叔母である舞は狂人になってしまったように聞こえる。
「えっと・・・どういうこと?」
「・・・舞は・・・高科麻衣・・・」
「は?」
思わず素っ頓狂な声をあげる。麻衣が舞だっていうのか?どういうことだ?
「舞は自分の人生を生きられなかった・・・だから、死ぬ際に強く願ったの。『死にたくない』と。」
「それが・・・」
「舞の願いは永遠に自分が生き続けること。そうはいっても人間である以上、不老不死なんてありえない。彼女が欲しいのは生まれ変わるための依代となる器。」
亜衣が言っていることの意味がわからない。内容があまりにも突拍子のないことだから。
「生まれ変わり?憑代?」
「そう、それを作り出すためにあなたとの子供を作ろうとしたの。」
「俺との子供?どうして?」
ますますわけがわからなくなり、亜衣を問い詰めた。
「・・・高無家は双子の神を祀る家系だった。そして、その直系の女子には特別な力があったらしいの。」
「直系の女子?なら、俺には関係ないはず・・・」
「そうね。でも、あなたは直系の血を継ぐ唯一の存在。だから、あなたの子供に女児が生まれたら・・・」
「・・・直系の女子・・・」
「そういうことよ。そして、舞には力があった。私以上かもしれない。でも今の舞は完全に生まれ変わりはできていないはず。私もそうだけど、断片的に記憶がなかったり、力が失われていたりするの。ちなみに私の力は未来視だったわ。」
理解に苦しむ話が続く。
「舞の力がなんなのかわからない。本来は女児ひとりしか受け継がないはずの力が双子で生まれたことで分離している・・・ということなのかもしれないわ。」
理解はできないが言っていることはこういうことなのだろう。
本来は一人が受け継ぐはずだった特別な力が分離されてしまっている、と。
「だとしたら・・・どうなるんだ?」
「わからないわ。受け継がれる力はその人間によって違っていたようだから・・・」
そうだとしてもわからないことだらけだ。
まず第一に、どうして亜衣がここまで詳しいのか。
第二に麻衣が何を考えているのかということだ。
「いろいろ聞かせて欲しいんだけど。」
「いいわよ。」
「なんでそこまで詳しいの?」
「それは父・・・和樹からすると曽祖父である高無丈夫が残したノートよ。そこに記されていた高無家に生まれた女性の不思議な力についての記述。そして・・・私が未来を見たから・・・よ。」
また理解できない言葉だ。
「未来・・・か。どんな未来を見たんだ?」
けど、俺にそれが否定できるだろうか。俺自身、不思議な体験をしている。
夢と呼ぶにはあまりにもはっきりとしていて、寂しいものだった。
「それは・・・言えない。言いたくない。でも・・・こうなってしまったのなら・・・」
どうにも歯切れの悪い返答だ。
「それは俺の関わる未来?」
恐る恐る聞くと、亜衣は小さく頷いた。
「そう・・・か。」
さっきの言葉と表情から察するに、とても良い未来とは言えないものなのだろう。
「ごめんなさい。そうならないように頑張ってはみたんだけど・・・」
「いいさ。実は俺も別も未来を知っている気がするんだ。その時の俺は・・・」
亜衣の顔色がサッと変わる。
「和樹っ・・・」
「・・・もっとひどい未来を生きていた気がするんだ。」
そう言って左の手のひらをじっと見つめてから、グッと握りしめる。確かにそこにある左手を。
「そして・・・よくはわからないけど・・・」
「そう・・・あなたにもそんな力が・・・」
亜衣が申し訳なさそうに俺の方を見る。
「今更そんなことを言っても始まらないさ。おばあちゃんは過去を変えようと思ってるんだろう?どうやるのかはわからないけどさ。」
「和樹・・・過去を変えるということは・・・」
「未来も変わってしまうんだろう?」
「・・・・」
「よくはわからないけど、おばあちゃんの過去が変わるということは、当然俺の母親・・・唯っていう名前だったんだっけ?その・・・お母さんの過去も変わる。そうなると、えーっと、どうなるんだろうな?」
そう言って軽く頭を掻く。
「私にもわからないわ・・・はっきりとは・・・」
そう言う亜衣だったが、その表情からは俺が考えた事が正しいことを認めているように見えた。
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