運命なんて無い。全ては個々人の選択がもたらした偶然。だからこそ、尊い。

普通の人々を背に庇って現世の汀に立ち、神や妖たちが蠢くあちら側の闇に向かい合う二人。片や美貌の公務員陰陽師。片やチンピラ風山伏。普通ではないものを背負い、同じ業界の人々とすら一線を画す生き方をしてきた二人の、それぞれの選択の結果による偶々の出会いが、やがて唯一無二の関係性へと変化していく――。
この設定だけでも、ご飯が三倍は進みますが、それを最大限に生かす構成と文章は、圧巻の一言に尽きます。確かな知識に裏打ちされたそれらは、神や妖といった人外の存在との異能バトルだけではなく、人間というものの本質――その素晴らしさとどうしようもなさの両方を、鮮やかに浮かび上がらせています。
特殊な力を持っている人も、そうではない人も、悩みのない人生を送っている人なんて居ない。誰もが何らかの事情を抱えて、悩んで泣いて苦しんで、それでも何とか生きている。派手な戦闘シーンも良いけれど、小説は『人間』を描き出してこそ――そういう物語がお好きな方は、是非。

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