41.
ちょきん、ぱさり――と、時折繰り返される日常的な音に、鉄が衝突し擦れ合う高らかな音が混じった。ハサミが髪を切り落とす音よりもその音が遠くに感じられるのは、建物の内外を隔てる壁が原因だ。
こんな音もまた日常のように感じてしまうだけ、もう自分は平穏な世界と乖離してしまったのかもしれない、と聖女ミスリア・ノイラートは思う。
目の前の窓ガラスの向こうには武器を交える二人の軽装の青年の姿があった。
交錯しては離れ、また交錯する。彼らのやり取りにはギリギリまでに引き出された本気の攻撃性が含まれていた。ただの稽古をしているとはいえ、互いに遠慮がない。
「へえ、兄の方が地力は上なのね」
頭上からティナ・ウェストラゾの声がかかった。ここは彼女が家とする孤児院の洗面所の中である。
「そうなんですか?」
「あたしにはそう見える。でも筋力や速さは凄くても、動きは大振りで剣の扱いもどちらかと言えば単調だわ。弟の方が手先が器用で変則的な動きや小回りが利くようね」
ティナは自信ありげに評価を口にする。それに関して、ミスリアは感心した。自分の目だけではそこまで読み取れない。
「さ、大体こんな感じでどうかしら」
ティナはよく磨かれた手鏡を渡してきた。映し出される己の姿を眺め回し、首を上下左右に動かしたりしてみた。生まれつきウェーブがかった栗色の髪が、全体的についさっきと比べて三インチは短い。肩にかかるかかからないかの長さになり、前髪も眉毛がちゃんと見える短さに変わっている。
「完璧です。ありがとうございますティナさん。手慣れてますね」
お礼を言いつつ手鏡を返した。
「どういたしまして。いつも子供たちの髪切ってるからね……ほっとくとすぐもじゃもじゃし出すの」
「後ろだけなら自分で何とか切ってるんですが、前髪はどうしても変になってしまいます」
旅の間は大体は伸ばしっぱなしにしている。前が見えなくて耐えられなくなるとイマリナに頼んだりもするけれど、彼女は基本的に忙しそうで、しかもリーデンの世話をしている時が一番幸せそうなので、どうにも頼みづらいのである。
寒くなるので、本来なら真冬に髪を切るのは避けたいところだ。しかし切ってくれる人が居るのなら、早めに散髪するのも得策に思えたのだった。
「そりゃあそうね。心配しなくても、またいつでも切ってあげるわ」
ティナはミスリアの肩から腰までを覆う布を、髪が散らばらないように手際よくまとめた。
「手伝います」
「あ、そこに立てかけてある箒を使って」
椅子から飛び降りたミスリアは、ティナが指差した先を辿って柄の長い箒をみつけた。石造りの床に落ちた髪を丁寧に掃いて一箇所に集める。
「終わったのか! 終わったんだな!」
「ティナ姉遊んでー」
「みっすんも遊ぶー?」
いきなり戸が勢いよく開き、十歳以下の子供たち三人が口々に声をかけてきた。
「まだ掃除終わってないから、ちょっと待ってよ」
「ケチ!」
「もう、自分たちで遊んでちょうだい。デイゼルー!」
ティナは戸口に群がる子供を廊下に押し返しながら、孤児の中で最年長である少年を呼んだ。その間、ミスリアはなんともいえない乾いた笑いを漏らして鉄製のちりとりを取る。
(みっすん……)
いつの間にかつけられたあだ名そのものに不満があるというよりも、年上の人間と認識されていない印象があって複雑だった。
(まあ、近寄りがたいと思われるよりはいいのかしら)
ポジティブに考えようと、思考を転向した。
そしてふと窓の外を見やると、そこからゲズゥやリーデンの姿がなくなっていることに気付く。
深く考えずに窓際まで歩み寄り、花柄のカーテンを引いて視界をもっと広げてみた。しかしいくら見渡しても目が合う相手はリスやウサギくらいであり、裏庭は無人となっている。
「ねえ、ミスリアちゃんが捜してるのって、どっち?」
声に振り返ると、青緑の瞳を意味深に輝かせたティナがすぐ後ろに居た。
「どっちと言われましても、一緒では」
「きっと今は一緒にいるんでしょうね。そういう意味で訊いたんじゃないわ」
「はい?」
質問の意味がわからずにミスリアは首を傾げた。
「だって……ねえ。ミスリアちゃんって、あの黒い方――ゲズゥ、だったかしら。アイツが視界からいなくなってしばらくすると、不安そうにきょろきょろするじゃない」
「え、ええ? そうですか?」
身に覚えの無い話を持ち出されて、ミスリアは当惑した。
「そうよ」
腰に片手を当て、ティナは口の端を吊り上げて肯定した。
「護衛なんですし……傍に居ないと落ち着かないんですよ」
何故だか頬が火照っている。言い訳がましかっただろうか。
「そういうんじゃなくて、もっと寂しそうな感じよ。あ、勿論アイツ限定でね」
「……う」
ミスリアは返答に詰まった。寂しがっていると思われるのは心外だけれども、否定するのも何か違う気がした。開き直ってその通りだとでも言えたら良いのに。
「慣れ、みたいなものですよ。毎日のように一緒だと、逆にいないと落ち着かないみたいな……」
早口で更に言い訳を展開した。実際のところ、自分が何を焦っているのかよくわからない。そう考えると、もっと焦りが募る。本当にこれは身に覚えのない話だろうか、と内心で疑問が浮かんだ。
ティナは目を細めてニヤッと笑った。
「じゃあ質問を変えてみましょうか。たとえばアイツらがいきなり何も言わずに姿を消したら?」
ミスリアは目線を泳がせながら質問の内容を吟味した。
「傷付く……と思います。多分、寂しくも思うでしょうけど……」
「じゃあ、消えたのがゲズゥ一人だったら?」
「やっぱり傷付くかと……。実際、旅を始めた頃には置いて行かれたと思い込んだことがありました」
期待していた答えと違ったのだろうか、ティナは大袈裟に片方の肩を落とした。
「もっとよく想像してみてよ。二度と会えないのよ? サイアク、嫌われたのかもしれないのよ」
主旨が伝わらんとでも言いたげに、彼女は両手をやたらと振り回している。
「えっと……悲しくなって、しばらく落ち込むとは思います」
「うんまあ、そういう反応で良いんだろうけどね……ああダメだこりゃ、まだ早すぎるのかしら」
「むしろ既に『どちらかと言えば嫌いだ』みたいなこと言われてます」
――そのやり取りがあったのは、大分昔のような気もするけれど。
「最ッ低。今度代わりに首を絞めてあげるわね」
ティナは頬をひくひくさせて言った。
「?」
結局何を訴えられているのか話が見えないまま、ミスリアは小首を傾げる。
ティナは諦めたように後片付けを締めくくり、廊下に出た。後ろに続きながら、言われた通りにもっとよく想像してみる。
一つ、思い出す事件がある。ゼテミアン公国内の城で目を覚ました時の記憶だ。あの城の中で、奴隷として一生を終えるかもしれないと危惧したら――
(あれ?)
ズキリ、と得体の知れない小さな痛みが胸を突いた。
その時はなんて考えただろうか。
(水を汲んでくる、って)
そのような日常的な会話を交わしたが最後、それが今生の別れになると思って――あの不思議な左右非対称の瞳を二度と見ることができないと思って――。
泣きそうな心持ちになっている自分に、ハッとした。実際は涙が出るわけでもなく、心の奥深い所から気力を吸い取られるような、虚無感があった。
この感情は一体何だと言うのか。
「でもね」
前を歩くティナがふと足を止めたので、ミスリアは物思いから掬い上げられた。
「あの二人はミスリアちゃんのこと、すごく大切に想ってる感じがする。特にあのゲズゥって奴、アイツが初めてあたしに斬りかかってきた時の気迫、数日経った今でもたまに思い出して背筋が寒くなるわ」
「すみません」
「ミスリアちゃんが謝るトコじゃないわ。それだけ、大事にされてるってことなんじゃないの」
「そんな風に言われると、何だか……こそばゆいですね」
「なになにー? 何の話ー?」
ファミリールームに着くと、単色の明るいシャツを着たリーデンが死角からひょっこり現れた。彼は直ちにミスリアの髪に注目し、そっと撫でた。
「すごーい、さっぱりしたねぇ。かわいいかわいい」
「そうでしょうか」
つい照れ隠しに毛先を指で梳いたりする。
「うん。ティナちゃんってば、お上手だね。兄さんも切ってもらえばー?」
呼ばれて、部屋の中心に座すゲズゥが無言で顔を上げた。彼はあぐらをかいた膝の上で麻の繊維を編んでいたらしい。縄を編む作業は手先が器用なリーデンやイマリナが担当することが多いのに、たまにはゲズゥもやるのかと、ミスリアは意外に思った。
ところで廊下での話は聞かれたりしただろうか、と余計な心配が脳裏を過ぎる。わざわざ訊ねるのも何か恥ずかしい。
「悪いけど。あたしが男の髪を切るのは十五歳までね」
ティナがそう宣言した途端、部屋の隅のクローゼットが開いた。ミスリアは吃驚して小さく跳び上がった。
(かくれんぼでもしてるのかな……)
そう考えると合点がいく。先程から子供たちの姿が少ないのである。この静けさから判断すると、きっと鬼はこの部屋をまだ探していない。
デイゼルというくせ毛の少年はクローゼットの中から飛び出し、「えー!」と口を尖らせた。
「じゃああと二年もすれば、ティナ姉もう切ってくれないの」
「そういうことよ」
「何でだよ!」
「あたしが男嫌いなのは知ってるでしょ。自分から触るなんてもってのほか」
「おれはクズ男にはならないよ!」
などと、最年長の少年は何やらとんでもないことを叫びながらティナに詰め寄った。
「わかってるわよ。アンタはあたしが真っ当に育てるもの。それでも、嫌なものは嫌なの」
両腕を組み、譲らない態度で十三歳の少年を真っ直ぐに見下ろすティナ。
そこへ――黙って見守っていればいいのに――当然のようにリーデンが横槍を入れた。
「へえ。例えばどういうトコが嫌いなの?」
「そうね、吐く息の臭さからして大っ嫌いよ」
間髪入れずに彼女は言い捨てた。
(ええっ、それはいくらなんでも失礼じゃ……!)
咄嗟に喧嘩に発展しても文句の言えない、攻撃的な言葉だ。当の男性が聞いていれば食いつかずにはいられないはず――そう思って部屋を見回した。
(あれ)
幸いなことだろうか、その場に居る二人の男性はそんな言い草をされてもまるで気にしない種の人間だった。リーデンは笑いを堪えているように口元を覆っているし、ゲズゥに至っては、いつの間にか幼児二人に登りの挑戦対象にされ、作業ができずに静止している。
「ぶわはははは! あー、そっかそっかー、臭いねぇ」
「私はあまり気にしたことはありませんでしたけど……」
ミスリアは一緒に旅している二人のことを思い返して呟いた。リーデンなどは食後の香草をマメに摂取してるようで、口臭がしないどころかむしろ良い匂いだ。ゲズゥの方はいつも何か不思議な枝やら草を噛んでいるためか、草木や森みたいな臭いがしてそれも嫌に感じたりはしない。
「つってもさー、ティナちゃんの言う『吐く息』って多分そのままの意味じゃないよね」
「…………そうね。もっと、抽象的な問題かもね」
ティナは窓の外を見つめ、暗い声で応じる。何かを思う数秒の沈黙があった。
そして我に返ったように動き出した。慣れた手つきでゲズゥの肩や首からぶら下がる幼児を抱き上げて回収している。それぞれの腕に一人ずつ。つくづく力持ちだと思う。
「男という生き物はね、卑しくて汚らわしくて、女を自分の好き勝手にできる道具としか思ってないのよ。その利用の形に多様性はあれど、蔑みはいつだって同じだわ」
偏見の激しい言い分ではある。けれどそれ以上に、吐き出される言葉は強烈な感情を含んでいた。きっと彼女自身か彼女の身近な人間にまつわるエピソードと結び付きが深い――そう直感した。
「別に、世界中で息する男が全員そうだって思っちゃいないわ。でも少なくともこの都では、男尊女卑の姿勢は根強い。特に、身分の低い層はね」
「身分……」
ぼんやりとその単語を反芻した。思えばミスリアは聖女になってからは、ほとんど身分制度とは縁がない生活をしているし、極端な男尊女卑で嫌な想いをしたことも無い。島で育っていた頃なら、男女の役割の線引きが厳しかったかもしれない。
(あ、でも例のウペティギの城での一件って、城主が女性を道具・奴隷として扱ってたから起こったのかしら?)
あれは特定の人間とその取り巻きたちが突っ走っていただけであり、助けてくれた設計士みたいな例外もいた。
「城下での女の働き口の少なさったらひどいものよ」
ティナは更にそう続けた。
「そりゃあ女を力仕事に使ったら怪我させちゃうかもしれないよ。雇う側にしちゃあ男と比べて効率が悪くて損になるし、女はお断りでしょ」
と、リーデンが応じる。
「力仕事は仕方ないわ。でも腕力を必要としない技術系の仕事や、文官がある。女が男とそういう土俵で肩を並べられない理由なんてないはずよ」
「ん~、女が官僚になるのって別にディーナジャーヤの法律じゃ禁じられてないけど。なんとなく、誰も後見人になりたくないだけじゃない?」
「それよ! 何で!?」
「女はすぐ感情的になるから政治に触らせたらひどいことになる、みたいな迷信の所為? ていうか妃が介入した所為で崩壊した王朝も歴史を遡ればいくらでも実例があるしね」
「政治に感情を挟んじゃいけないの!? それが民を想う心でも? そもそもね、ちゃんと教育を受ける女が少なすぎて、為政者の資格を持てる人間が増えないんだわ。技術者だって」
「その辺の事情は知らないなあ。それって女が勉強したがらないからだったら、自業自得ってやつだよね。それとも男が学校に行かせないの?」
「……両方でしょうよ! だって若い内は、男に寄生して尽くす一生って逃げ道が常に用意されてるのよ。それに甘える女も、強いる男も、平等な世界への道を閉ざしてる。でも、既存の『女の役割』に意義がないって思ってるわけじゃないわ。子供を産んで育てて、良い家庭を築くのだって大事な仕事なのよ。素晴らしい生き方なのよ」
抱き上げていた子供たちを下ろし、ティナは肩で息をしていた。
「でも、現状を不満に思ったって仕方ないでしょ。女は自分が下等生物だと思い込まされ――刷り込まれてる。道具みたいに売り買いされても、抗おうって気持ちさえ持たないの」
そう言って彼女は深く項垂れた。
(すごい……)
会話に入り込めない。というより、ついて行けない。論点があちこちに飛び過ぎていて、ティナにとっては何が一番の問題なのかがわからなくなってきた。
ミスリアは子供たちと一緒に目を丸くして見守っていた。一人だけ、ゲズゥが我関せずの姿勢を保っている。
「結局はさ」
そう切り出したリーデンは、不思議な微笑みをティナに向けていた。それは優しげであったり憐れんでいるようだったり、距離を置いて相手を観察しているようでもあった。
「ティナちゃんが求めてるのって、双方に共通した、尊敬の念だよね。だって、この先全ての女が職種を選ぶ自由を手に入れても、男に軽く見られてしまえば意味がない。たとえ技術の腕が上でも学問に秀でても、ひたすら家庭を守るのが生涯の役割でも、女が勝ち取らなきゃならないモノって」
「うるっさい! アンタなんかがわかった風な口きかないでよ、ムカつく!」
ティナはリーデンの言葉を鋭く遮って廊下へと踵を返した。
足音がどんどん遠ざかり、途中で複数の子供の「わっ!」と驚く声が響いてきた。
そして舞い降りた静寂の中、リーデンが肩を竦めた。
(……勝ち取らなきゃならないのは、男性からの揺るぎない尊敬と、自身への尊重……つまり、自分の生き方に胸を張る、誇り高さ? それでいて、自分を卑下しちゃうような逃げ道に甘えない、向上心?)
ミスリアは脳の片隅で何かが閃くのを感じた。
「気高い人ですね」
誰にともなく呟く。するとデイゼルと目が合った。
ダーティ・ブロンドのくせ毛を跳ねさせながら、少年は耳打ちする為にそっと身を寄せてきた。
「ティナ姉ってさ、よくああいうかんじにブチ切れるんだよ。でもいつもはオトコだろーとオンナだろーと、適当にしか相手しないんだ。もっと大人になれば目が覚めるよとか、変なことばっか言ってるから結婚相手がみつからないんだよ、とか。マトモに聞いて返事したのって、兄ちゃんが初めてだ」
「そうなんですか」
「うん。ティナ姉、ちょっとうれしそうだった」
いひひ、とデイゼルも嬉しそうに歯を見せて笑った。ミスリアは苦笑いを返した。あの怒りっぷりからは嬉しそうだったなんて感想はとてもじゃないが浮かばない。
「だと、いいんですけど」
なんとなくため息を漏らした。皆には仲良くして欲しいのに、仲良くすることの定義を見失いそうだった。
当のリーデンならば既にティナには興味を失くしたらしく、兄の縄編みに手を貸す気なのか、楽しそうに床に腰をかけている。
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高い木々の落ち着いた雰囲気に包まれて佇む夜は、随分と心地の良いものだった。
曇り空はどっぷりと暗い。星明かりに期待できないこの暗闇から逃れたければ、背後の豪邸の方に目を向けるしかなかった。だが今はそれをしない。
新月の闇夜を侵す幾つもの気配に向けて、ゲズゥ・スディル・クレインカティは大剣を振るった。
空中を落下してくる異形のモノたちは平べったい形をしている。人間の頭ほども大きい葉形の魔物は、案外斬るのが難しい。間合いが足りずに空圧だけで触れてしまうと、葉は斬れるどころかヒラヒラと宙を舞って逃れるのである。なので自分の身長よりも高い塀の上を走り回って対応した。
――別にいちいち斬らなくてもいいのではないかと思ったりもする。
何故なら葉の姿をした異形にはこれまでに遭遇してきた魔物と違い、口や歯の類がついていないのである。あの立ち上る青白い光が無ければ、一見ただの巨大な葉っぱと見過ごしたかもしれないほどだ。ただ一つ妙なのは、口は無くても、目があることだ。数や大きさは個体によりけりで、ちゃんと視覚が機能しているのかどうかは完全に不明である。
それらはただ風に弄ばれて舞い上がったり落ちたりするだけだ。人間を襲う動きは無いし、こちらから触っても何も起きない。
偶然に窓にくっついて屋敷の主人を怖がらせる以外に、実害の少ない魔物と言えよう。この程度の敵を延々斬り捨てる毎晩が、もう一週間は続いていた。
思えば強大な結界に守られているらしいこの帝都ルフナマーリのことだ。結界とは、それが隔てる領域から物体――この場合は魔物――の出入りを防ぐ為の代物。夜な夜な結界の中で姿を現す魔物が居たとしたら、それは内側で発生した新たな個体か、先日までに浄化されなかったために再構築された個体、でなければならない。
そのどちらであっても脅威にならない程度に弱い――
――びたん!
いつの間にか気を抜いてしまっていたのか、首の裏に冷たく湿った感触が張り付いた。
魔物の体が首に巻き付く。目の部分は多少出っ張っているようで、ギョロリと動く都度にはっきりと首筋に違和感を与えた。
息を乱したのは一瞬のことで、すぐにゲズゥは魔物を左手で鷲掴みにした。
すかさず握り潰す。ぐちゃり、とゲル状の物体を握り潰す時と似た手応えを覚えた。革の手袋を嵌めていなければ相当な不快感であったはずだ。
更に二十分ほど魔物退治をこなしてから、一旦休んだ。その間にゲズゥは周囲にまんべんなく意識の糸を張り巡らせた。
この場所は都内にしては異例の静けさに包まれている。高地の中でも王城近くに建っているからだろう。
――閣僚とはそういうものか。
政の類にはとんと疎いゲズゥは、その辺りの事情について考える気は無かった。それは、ミスリアや聖人が分析してくれれば十分なことだ。
両目と首を僅かに巡らせて、五十ヤード以上離れた屋敷へと意識を向けた。全ての窓にはもれなくカーテンがかかっているが、それでも明かりが滲み出ている部屋が幾つかあった。
応接間ではミスリアが老人の茶飲み相手となって宥めすかしているはずだ。傍にはリーデンが付いているので、異変があってもこちらにすぐに伝わる。
――動きがあるとすれば、今夜が最適か。
魔物にとっては満月も新月も活動する分には何ら違いはない――が、人間の襲撃者にとってはそうではない。新月の闇の方が身を隠しやすい。
既に魔物の方が脅威である線は薄いのだから、後は人間の敵を待つだけだった。
それすらも、空振りに終わる可能性は否めない。
こちらとしてはそろそろ何かしら歯応えのある奴が来てくれないと退屈である。そう思いつつも、ゲズゥは周囲の景色をもう一度注視した。
これだけの高さからでも、下の高度の城下町が明るく賑わう様子がなんとなくわかる。あそこを出てわざわざこの邸内を襲う人間が居るだろうか? 或いは、敵は王城から下って来るかもしれないか?
ゲズゥは借り物の懐中時計をポケットから出して開けた。時間を読むのはあまり得意ではない。しかもこの暗さでは尚更苦戦してしまう。木の葉の魔物を拾って光源にし、しばらく針と針を見つめた。
どうやらリーデンと外の番を交替する時刻が迫っているようだ。
塀から跳び降りて、屋敷の正面玄関へと移動した。
玄関前で鎧姿の衛兵とすれ違った。兵らの構えには緊張感が無く、通り過ぎるゲズゥへの関心も薄い。主人の気の迷いに形だけ付き合っているのが明らかだった。
扉の左右に立つ二人はこちらを認めて、交差させていた槍の構えを解いた。自力で戸を開けろでも言わんばかりに、衛兵は一度もこちらを見向きしない。
流石は身分がモノを言う社会である。聖女本人に対しては誰もが我先にと媚びたものだが、身元不明の護衛連中なんぞは目を合わせる価値も無い、とみなされているのだろう。わかりやすくて結構なことだ。
「やっほー、お疲れ」
玄関ホールから応接間までの道のりの途中でリーデンが待ち伏せていた。珍しくいつもの派手な民族衣装ではなく、一般的な麻の生地を使った衣服に身を包んでいる。手に持っているのは見る者の記憶に残らないような土色のコート。装飾も皆無な、極めて地味な品である。
「どうだったー? 面白いことあった?」
「特には」
「ちぇっ。あーあ、暇だなぁ。宝物庫でも漁りに行こうかなぁ」
コートの袖に腕を通しながら、リーデンは祖国の言語で不満を吐いた。
「……やるなら気付かれない程度にしておけ」
「億が一にもバレたりしたら聖女さんの責任になっちゃうからね。持ってくのは小さいモノに留めておくよ」
そう答えてウィンクした弟を観察し、ゲズゥは思った――既に屋敷から物色したか、または誰かをタラシこんで成果を挙げたな……。
思っただけで、特に咎める気は無かった。使えるモノは全て使うべき、という姿勢には共感している。
「一応新月だ。気を付けろ」
「わかってるよ。そっちこそ、お姫さまをちゃんと守ってね」
「当然」
会話もそこそこに切り上げ、互いの配置を入れ替えた。ゲズゥは長い廊下を進み、明かりが漏れる左手の部屋に足を踏み入れた。
一見、明るく広い応接間には二人しか居ないようだった。妙にクッションが波打った楕円形のソファの端にミスリア、そしてその背後に直立して控えているのが確か屋敷の数多い使用人の中でも位の高い、メイド長である。目尻の皴が目立つ中年の女は、意識的に感情を抑え消しているかのような無表情でゲズゥを見つめた。
「おかえりなさい。今日も変わりなかったですか?」
と、ミスリアが普段の笑顔で問いかける。その手にはこじんまりとしたティーカップとソーサーが握られていた。ゲズゥは「ああ」とだけ返答をし、部屋の中を見回した。右手は剣の柄を握ったままだ。湾曲した刃を外側に向け、肩にほとんどの重みをのせて支えている。
コーヒーテーブルの上に、ミスリアのティーカップと同じ柄の丸いティーポットが置かれている。薄く焼かれたタイプの陶磁器で、白く塗られたベースに青で精巧な絵が描かれている。その隣に中身が半分減ったカップがもう一個あった。おそらく、毒見も兼ねてリーデンが飲んだのだろう。
「お疲れ様です。レモングラス・ティーはいかがですか」
使用人の女が北の共通語で話しかけてきた。反射的に眉根を寄せた。
北の共通語はある程度聞いて話せるが、音節に慣れていないので面倒だ。咄嗟に話す気にはなれない。首を横に振るだけで応じた。即座にメイド長は使われなくなったティーカップを片付けて、奥の部屋へと消えた。
それを見届けた後にゲズゥはテーブルの前まで歩み寄った。左手の手袋を脱いでポケットの中に残し、茶請けとして出されていたビスケットを一枚取る。口に入れると、薄味でバターの微かな風味がした。食感は少しパサついているが、味そのものは好ましい。近くに漂う蜂蜜とレモングラスの香りとの相性も良い。
ふいにミスリアが何かを言いたそうに顔を上げた。しかしピンク色の唇が開いた瞬間に大きな物音がしたため、言葉は声になる機会を得ない。ミスリアが素早く振り返り、ゲズゥも音のした方に目線を向けた。対象物は今向いている正面の延長線上にあった。
「見ている……誰かがずっと、何かが、わしを見ているのじゃ……」
壁伝いに寝間着姿の老人が近付いてくる。壁紙に爪を立てた痩せ細った手がガクガクと震えている。
「旦那様! 寝室にお戻りになって下さい! 今夜はご気分が優れないのでしょう? どうか横になって下さいませ」
メイド長と他二人の若い女使用人が老人にまとわりついた。
世の中には様々な老い方があるはずだが、この場合は遺伝だろうか、歳の割には老人は背が高い。歳と共に年々太くなる人種でもなかったようだ。寝間着の下から見えるふくらはぎからくるぶしまでの素足は、骨が見えるほど細い。
「まだか、まだ捕えられんのか、役立たずどもめ」
「さあ戻りましょう、旦那様」
女たちの声音は先程よりも柔らかくなっている。
「どうせあやつらがまたわしと陛下を引き裂こうとしとるだけじゃ――」
老人はヘーゼルの両目を必要以上に動かしていた。あの速さでは、視界の中の何物にも焦点を当てていない。
裸足で歩き回る主人を女たちはそれぞれの肩を強引に掴んで支えながら方向転換させた。老人は尚も呻いたり呟いたりしているが、お構いなしに連れ去られて行く。
「申し訳ございません」
後に残ったメイド長が深く頭を下げた。白の混じった茶髪は一筋逃さずまとめられているためか、深い礼をしても全く乱れない。
「いいえ、とんでもない」
両手を振ってミスリアが否定する。
「旦那様はここ数年の間に多少の記憶力の衰えを見せてはいたのですが……こんな風に取り乱すようになったのは、本当に最近なのです」直立の体勢に戻り、両手を揃えてメイド長は語った。「こんな――奇行、に走るようになったのは」
ゲズゥは僅かに眉目を動かした。確かに老人は尋常ならざる行動を取っている。今夜は体調が悪いせいか大人しいが、他の日は喚きながら屋根に上ろうとしたり、木の枝を窓に向けて振り回したり、夜中に屋敷中の人間を地下室に召集してポケットの中身を改めたりと、
「奥様が亡くなられて久しいのですが、せめてお嬢様がいらっしゃれば……」
頬に手を付け、メイド長はため息をついた。
「あの、あやつら、とはどなたのことかわかりますか?」
ミスリアは奇行や家の事情については言及しなかった。髪にかかる半透明のヴェールを指先で撫でながら、メイド長を見上げている。
「ええ、政敵を指しているのだと思います」
「政敵ですか」
「旦那様は帝王陛下の長年の側近ですし、先王陛下とも懇意にしていただいていたのです。このように精神的に追い込んで、失脚させようと企む輩は数え切れぬほどおりましょう」
メイド長は主人の変貌を他者の仕業だと決めつけているようだった。
「間接的に失脚させるのであれば、自分に疑いがかかることもありませんね……」
声を低くしてミスリアは呟いた。
「政敵だけではありませんわ。民から恨みを買うような案件も幾つか過去に扱ったことがあります」
「そうですか……」
つまり敵を特定できない程度には恨みを買っている――被害妄想と片付けるには複雑すぎる身の上だということだ。同じく他人の憎悪を引きずって生きるゲズゥから見ても、閣僚とは実に面倒臭そうな人生を歩んでいるように思えた。
前触れなく、再び廊下の方が騒がしくなった。
最初は老人がまた逃げ出したのかと思ったが、近付いてくる気配が弟のそれだと気付いて、ゲズゥは気を引き締めた。
コツッ、と鋭く足音が止まる。入口に立ったリーデンは、手の甲で口元の血を拭っていた。
その背後では狼狽する衛兵とメイドが何人かついて来ていた。一拍置いて、一同は応接間に入った。見慣れぬ暴力の痕跡に使用人たちは怯えの色を隠さない。
「ごめん、取り逃がした」
リーデンは不機嫌そうに言ってシャンデリアの明かりの下に踏み出した。いつの間にか「カラーコンタクト」が落ちたのか、銀の前髪の間から窺える左眼は本来の白い瞳と縦長の瞳孔をむき出しにしている。
その左目の周りは殴られたかのように腫れて変色し始めている。
「リーデンさん! そのお怪我は――」
「平気。君を煩わせるまでもない」
席を立ち上がったミスリアを、リーデンは一言の元にあしらった。騒ぎ立てる屋敷の住人には目もくれずに、ゲズゥに目配せした。
「兄さん、ちょっといい?」
リーデンはクイッと首を逸らした。席を外すからついて来い、の意だ。首肯し、後について部屋を出た。
二人は静けさを求めて廊下の突き当りまで行った。運の良いことに、他の連中は距離を保ったまま追って来ない。
カーテンのかかった窓の下枠に寄りかかり、リーデンは口火を切った。
「油断したつもりは無いんだけど、想定外に逃げ足が速くてね」
「お前の飛び道具から逃れるほどか」
俄かには信じられない、と言うのが率直な感想だった。
「ありったけ浴びせたけど、かわされたよ。ていうか魔物の群れに紛れ込んでお茶を濁された感じ。あれじゃあ、いくら僕でも狙いを定められない」
「魔物の群れ?」
「そ。むしろ、群れを引き連れてた印象もあったけど、どうだろうね。どっちみちそんな知恵が働くのって、れっきとした生きた人間でしょ」
「ああ」
その点に関しては間違いないだろう。たとえ人型だったとしても魔物の思考回路は混濁していて、理に適った作戦や計画を立てられないはずだ。
「もしかしたらこの一週間の内に下見に来てたのかもね。それで僕らへの対策を練ったのかな」
声からは不機嫌さが潮を引き、楽しそうな語気が復活している。
「単独犯か」
楽観抜きで考えると次からはもっと相手も慎重になるだろう。複数犯なら余計にそうだ。せめて単独犯であれば焦りからの判断ミスに期待できる。
「……とは思うけど、他の人影に気付かなかっただけかも。ただねー、去り際に一度振り返って、屋敷の方をじっと見つめてたんだ。あれは諦めてないよ。明日明後日はなりを潜めるとしても、絶対また来るね」
「迎え撃つ準備をすればいいだけだ」
「ん。とりあえずさー、平和ボケな警備兵の使い道から考え直そうか」
「確かに」
そうと決まれば早速二人は応接間へ戻る為に歩を進める。
「きゃっ」
入口でミスリアとリーデンが衝突した。
「おっと、気を付けてね」
「は、はい。あの、お怪我の方は本当に平気なんですか」
聖気で治癒しなくていいのかと訊いているのだろう。オロオロと心配そうに見上げる少女の肩に、リーデンが安心させるように手をのせた。
「たまにはこういう僕も新鮮じゃない? 大丈夫、明日医者にかかるから気にしないで。ブラック・アイ久しぶりになるなぁ」(ブラック・アイ=パンダ目のこと)
「やっぱりその傷は、殴られたんですか?」
「ううん。蹴られたよ」
リーデンは不可抗力で歪んでしまうのであろう、面妖な笑みを浮かべた。
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読み通りに四日後には次の襲来があった。
粉雪が疎らに降る夜のことだ。
それまでは無造作にしか配置されていなかった衛兵は、あれ以来ちゃんと法則を用いて特定の位置に立たせることにしている。毎晩少しだけ移ろうようにして配置を変えているが、共通している点はある。
望んだ場所へさりげなく誘導するように――兵が手薄な場所を調整し、屋敷から明かりが漏れる部屋も変えている。
老人の扱いや明かりの点く部屋に関してはミスリアと聖人が動いている。使用人の協力も得た。たった一人の為に手間をかけすぎているとの意見も挙がったが、逆に言えばたった一人を相手に何度も手こずるのは癪だった。どうせなら徹底的に手を回してさっさと決着をつけたい。
ゲズゥは木の枝の上に屈んで待機していた。魔物を一刀両断するにはあつらえ向きの大剣は、今日ばかりは持参していない。
ここからは伏兵の姿は視認できない。見えなくても、屋敷の傍の植物の中に隠れているのはわかっている。
息を潜めて耳を澄ませると、真下からは微かに話し声が聴こえた。ミスリアと聖人の安定した声色と、不規則に音量が跳ね上がる老人の声が交差している。
――魔物の群れを引き連れていたことに関しては、猛獣みたいに血の臭いでおびき寄せられるわけでもないし、聖気を纏った物を持っていたんじゃないかな。その人が僕らの同胞である線も考えうるけどね。
そういえば数日前に聖人はそんな推測を口にしたのだった。ゲズゥにとっては大した重要性を持たない問題だ。相手が聖職者であろうと何だろうと、こちらの選択肢に変動は無い。問題は、魔物を衣のように纏った相手をどう処理するかに限る。
つらつらと考え事をしていた内に、下ばかり向いていた首が凝ってきた。かといって鳴らすわけには行かない、と若干困ったその時――
眼下の景色に動きがあった。
「貴様!」
見えるように立っていた兵二人が侵入者に気付いて声をかけるも、武器を構える間も無く瞬時に倒された。
鮮やかな蹴り技だった。
尾ヒレが如く侵入者には青白い光が後ろに引いている。奴の動きが止まると、忽ちその光は取り囲むようにして回り込んだ。取り囲むだけで襲ったりはしないらしい。もしかしたら、纏っている個体の危険度はゲズゥが斬ってきたあの木の葉の魔物と似たようなものかもしれない。
居間からはミスリアたちの話し声が未だに聴こえる。
侵入者は屋敷の中を窺っているらしかった。そして意を決したようにその影が揺れる。
――ひゅ、ひゅ、と風が切られる音が次々とした。鉄の輝きが屋根の上から発生し、侵入者を護衛する魔物たちを順次撃ち落としていく。リーデンの
魔物の群れの中に隠れる人間を狙おうとして失敗したのなら、人間の方を無視して衣を先に剥ぎ取ろうという魂胆だ。
「ッ!?」
侵入者は予期せぬ事態に戸惑いを見せた。
暗い色の液体が散る。周りの魔物は次々と地に縫い付けられ切り裂かれ、中心の人間も牽制されて身動きが取れなくなっている。
その頃合いを見計らって、藪の中の伏兵が一斉に姿を現した。鎧の重々しい音がした。
「逃がさんぞ、曲者め!」
「よくもぬけぬけとこの屋敷を襲ったな!」
七人もの衛兵が、退路を断った。
もう青白い光をほとんど失ってしまった侵入者は、それでも怯まずに攻勢に出る。上から降り注ぐリーデンの飛び道具を巧みに避けつつ、兵の関節を的確に狙って蹴りを放っている。称賛に価する瞬発力だ。
それでも七人も倒したとなると息が上がり、動きが鈍る。ついに太腿辺りを、輪状の鋭器がざっくり斬った。続けざまに今度は右手辺りにもかする。
人影はつんのめり、屋根の上の敵手に意識を移した。振り仰ぐ動作を始めている――
ここぞとばかりに、ゲズゥは木の枝から飛び降りた。
完全なる不意打ちだ。人影の背中を半ば踏むようにして蹴りつけた。
――軽い。
あっさりと地面に倒すことができた。動きの速さからして身軽な人間かとは思っていたが、それにしても予想以上に質量の無い肉体だ。
ゲズゥは左手を奴の肩に、右膝を尻の上に固定した。リーデンが降りてくるまでの間、羊毛のマントに隠れた人物を己の体重で押さえつけた。
奇妙な感触だ。筋肉の張りや硬さがはっきりとわかる手応えだがそれに至るまでに柔らかさも通過している、とでも表現すればいいのだろうか。
これまでの情報と掛け合わせると、導き出される結論は――女?
などと首を捻っていると、リーデンが手を振りながら歩み寄ってきた。
「お疲れー、うまく行ったね。ここまで思惑通りにことが運ぶとはね。罠に気付かなかったなんて、焦ったのかな?」
前半はゲズゥに向けてだったが、後半は捕虜への言葉だ。
侵入者は痛みに呻いているのかそれとも呪詛でも吐いているのか、恨めしそうにブツブツと何かを言っている。
あろうことかリーデンは地面に両膝をついた。というよりは四つん這いの体勢だ。
羊毛のマントの端をひょいと親指と人差し指だけでめくり、中を覗き込んでニヤリと笑った。
「で? 何してんの、ティナちゃん」
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