オマケ。没エピローグ 草案

 目の前にはビールと焼き鳥。相変わらずの組み合わせである。

 僕は松田に呼び出され、例の安い居酒屋チェーン店に来ていた。席は、いつもの個室である。


「それで、何だいったい。てんで音沙汰がない思っていたら、急に連絡を寄越してからに」


「所帯持ちを誘うほど野暮天はしないさ。まぁ、結婚なんざ野暮の究極だと思うがね」


 相変わらず口の減らぬ奴である。感じの悪いことこの上ない。


「早く要件を言え、僕は忙しいのだ」


 僕の言葉に松田は心底うんざりしたといった風な溜息を吐いた。奴がこんな顔をするのは珍しい。何があったのだろうか。


「お前、ムシルフフ・ウシクルカーン・ザ・シン君を覚えているか?」


「あぁ……あの留学生のな。よく覚えているよ。というか、忘れるわけがなかろう」


「それは結構。で、彼が今、僕に会うために日本に来ているそうなんだが、お前、助けろ」


 馬鹿を言うな。あんな狂人に付き合っていたら命がいくつあっても足りん。せっかく新婚生活がスタートしたのだ。無駄な面倒ごとは避けたい。


「断る。自分で何とかするんだな」


「そうか。ならば、貴様と嫁も道連れだ!」


「貴様!」


 僕が松田の胸倉を掴んだ瞬間。個室の襖が開いた。そこに立っていたのは、小柄ながらに大きく肥大した筋肉を持つ黒人。そう。奴こそが……


「ムシルフフ・ウシクルカーン・ザ・シン君!」


「ヤァ。ヒサシブリ。トモダチタチ」


 ムシルフフ君の陽気な笑顔とは裏腹に、空気は凍っていた。彼が持ち込んだトラブルが後に、僕の運命を大きく変える事になるとは、この時はまだ知る由もなかった……

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僕の周りの変人達の狂想曲への憂い 川津 中 @taka1212384

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