エピローグ

エピローグ

 何年か過ぎた。

 僕も彼女も相変わらずで、周りの人間も相変わらずであった。

 変わった事といえば、兄が予定より早くに結婚したくらいなものか。姉の家督継承が思ったよりも急だった為、それを機に、あのイカれた中国女とくっ付いたのである。また、その女は花嫁であるにも関わらず式で大立ち回りを繰り広げ、僕は散々にいびられ大変な思いをしたのであった。これから長い付き合いになると思うと、胃痛が絶えない。


 松田とは今でもたまに盃を交わしている。「結婚なんざ馬鹿な男がするもんさ」などと、毎度の如く減らず口を叩くものだから、やはり最後は鉄拳のぶつかり合いとなり、前と変わらず店を追い出されるまでがお決まりとなっていた。

 だが飲み終わった後は今までと違い、風族には奴一人で赴き、僕は帰宅の途につく。その際に松田は「腑抜けめ」と吐き捨てるのだが、その姿が、僕にはいつも寂しそうに見えた。変な意地を張らず、誰彼と番いになればいいのに。強情な奴だ。



 また、僕はどれだけ飲んでも、日付が変わる前には家に着くようにしていた。マイホーム主義者と揶揄されようがどこ吹く風で、意気揚々と、一人外れて彼女の待つ家へと帰るのである。一日の終わりは、やはり愛する女のそばで迎えたい。


 そうして今日も夜早く、皆より一足お先に帰って来たのであった。


「ただいま」


 玄関を開けてそう言うと、奥から足音が向かってくる。もう新婚でもないのだが、こうして出迎えてくれるのは嬉しいものだ。


「お帰りなさい」


 目の前に立つ彼女の笑顔を見て、思わず顔が綻ぶ。少しばかり気恥ずかしいが、僕は、確かなる幸福を実感していたのであった。

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