さいて散るは菊の花 後

 それからどうしたというと、男達はこぞって尻を抑えてトイレに駆け込み情けない声を聞かせたのであった。出てくると皆内またとなり、涙を堪えいそいそと服を着る。

 僕は相変わらず醜女に突かれながらそれを見ていたわけだが、思わず菊の痛みを忘れるほどにその無様な様子を笑った。

 人間、人目を気にして半端な事をするから妙な挙動となるのだ。経験のない事柄に対しても臆する事なく、その道の手練れの如く振る舞うのが伊達である。まったく僕を見習えというのだ。ついさっき花を散らしたばかりであるというのに、さも普段から出し入れしていますよという風に穴を広げたり狭めたりしているではないか。これぞ男よ軟弱者ども。分からぬできぬと逃げ果せ、末代までの恥をかけ。


 あたふたと男達が出て行き一室は随分手広となった。醜女も達したのか程なくして僕から離れ、艶やかな吐息と共に床へとへたり込んだ。うむ。満足した顔は一段と酷い。しかし、体のラインは一級だ。やはりなにより胸がいい。おっとしまった迂闊であった。寝ていた息子がご起床だ。目の前の女は今一つだが、ここは一つ生き試し。突いてみせよう妖怪変化。試してみせようゲテモノ料理。いや最初に抱いたのだがまぁそこはよし。僕がそっと醜女に寄ると、ガチャリとドアの開く音がした。何かと思えば、松田が笑みを浮かべながら入ってきたのであった。


「傑作だったぞお前達。これは代々の語り草。実に愉快な見世物であった。今宵は飲もう。好きに飲んでくれ。飯がなければ出前も頼んでくれていい。金は持つ。さぁ飲もう。祝宴だ」


 声を張り上げる松田に女共が歓声をあげる。現金なものだ。僕はいきり勃ったモノを持て余したが、やり場がなかったので仕方なく服を着る。すると松田がニヤニヤと嫌な顔をして近づいてきたのであった。


「いやカメラで見ていたのだが、お前の痴態も笑わせてもらったぞ。中々な役者じゃないか」


 自分は安全なところから高みの見物か。まったくいやらしい男だ。こんなでも、女に困らぬのだから分からない。僕は今まで店以外では……


 はたとした。そう。僕は今まで店以外で女を抱いたことはなかった。つまりは僕の真の意味での貞操を、あの鼻が釣りあがり、髪の薄いそばかす女に捧げてしまったのだ!  なんたる迂闊か。品がなく酒を飲み飯を食ってはゲラゲラと笑っているあの女に僕は……そもそもなぜかような女がいるのか分からない。普通、美的な審査が入るのではないのか?  それとも松田の趣味なのだろうか。


「彼女はちょっとした資産家でね。色々と都合がいいのさ」


 聞いてもいないのに松田が説明してくれたのだが、まるで興味はなかった。「彼女旦那を探してるらしいぜ」という冗談みたいな言葉は聞き流し、僕はシャワーの場所を聞き出して身体を清めた。強姦された女の気持ちはこんなものかと尻に手をやると多少の出血が確認できる。事の次第では肛門科に掛からねばならぬなと思いながら身体をよく洗い、リビングに戻ってコーヒーを飲んだ。いい豆を使っている。腹立たしい。僕は毎日インストだ。


「あなた、いい顔してたね」


 森泉だった。シャンパングラスには薄い金色が泡を弾けさせている。さっき彼女の黄金を飲んだ僕にはもはやそれにしか見えなかった。


「人生はなんでも楽しむことが大切さ」


「あら。いいこと言うんだね。少し見直しちゃった」


 かつて見たことのない笑顔であった。普通の女性がするような、美しい微笑。心音が高鳴り、顔が紅潮していく。

 恋である。外連味のない正道なる恋心。肉欲の外にある不可侵の聖域。内に眠るプラトニックな感情が湧き上がり、先ほどまでの行いが急に恥ずかしく思えてくる。あぁきっと僕の精神状態は未だ童貞なのだろう。平時に改めて想い人を見ると、口が乾き頭が混乱する。静まったはずの陰茎は再び立ち上がり、子種を撒かんと意気込んでいる。

 何もできずに森泉を見ていると、「あらのぼせたの?  冷ましてあげるわ」と彼女がグラスに入ったシャンパンを僕にかけた。すると他の者たちもそれに続き、僕は今一度シャワーを浴びなければならなくなってしまった。その際に「一緒に入る?」と森泉に声をかけられた。普段なら二つ返事で承諾しそのまま二発ほど挨拶がわりに射精するところであるが、今日は断り一人で入った。






「思い出話に花を咲かせるなて、俺はごめんだね」


 松田が憎まれ口を叩きながらブランデーを一口舐めた。

 僕達は落ち着いた後、森泉と三人でバーに来た。発起人は森泉である。彼女が「せっかくだしみんなで飲もう」と言って来たわけだが、僕は二人とも別口での付き合いがあるためそれほど新鮮でもなかったし、松田は森泉を疎んでいて乗り気ではなく、森泉も森泉で別に僕達と飲みたいわけでもないようだった。ただ暇な時間を作りたくなかったのだろう。彼女は常に刺激を求めている。退屈や停滞というものを嫌悪し、安定など糞食らえというスタンスである。故に求めるのは特別であり特殊。このまま家に帰ってもまだ一日の終わりまで時間がある。きっと彼女は、それが耐えられなかったのだろう。


「私も昔話なんか好きじゃないね。それより、今日みたいな話ない?  私、ハマっちゃいそう」


 確かにお前はハメもハメられもしたなと思いつつウィスキーを飲み干し代わりを貰う。森泉は マオタイ酒だかなんだかという中国の酒を飲んでいる。そんなものがよくバーにあるものだと思い、気になってこっそり値段を聞いてみたらとんでもない代物であった。


「ないことはない。だが、お前みたいなのがいると場が崩れる。紹介はできんな」


「相変わらず嫌な口をきくんだね。別に私はアブノーマルでもいいんだけれど」


「そういう手合は知らないな。それこそ、お前の勤め先で集めた方が情報が入るだろう」


「つれない人」森泉はそう言って酒を飲み干し、「飽きたから帰る」と去ってしまった。


「本当にあてはないのか?」


 僕が松田にそう聞くと「さあね」と不機嫌そうにグラスを煽り「俺たちも出よう」と言って席を立った。僕も家に帰り肛門の様子を伺いたかったので、一連の騒動の幕は引かれお開きとなったのであった。





 帰宅後。僕が手鏡をうまく床に置き開脚して自らの肛門をまじまじと見ているとスマートフォンに着信があった。夜は更け常識ある人間であるなら絶対に電話などかけてこない時間。いったい誰だとモニタに目をやると、そこに表示されている名前を見て僕は思わず叫んでしまった。


「は、母上〜」


 響く着信音。震える指。一人ワンルームで肛門を晒す僕。まるで前衛芸術作品のような一場面は、僕が通話ボタンをタップするまで空間に固定されていた。是非ともこの作品の値を鑑定してもらいたいものである。僕にとっては最低の作品で、例え手数料を払うことになったとしても、手放したいものであるが……

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