第31話 相手を求める欲望
人間とは、貪欲な生き物だ。一つの事に満足すれば更にそれ以上の物を欲しがってしまう。
傍にいられれば幸せだ。満たされる。そう思っていても、今目の前に居るアレアは然り、リガルナもまた心のどこかでそれ以上の繋がりを求めていないとは言い切れない。
「……それって、どういう事?」
問い返されて、リガルナはアレアに背を向けると、遠くを見ていた瞳を伏せた。
リガルナはアレアを手に掛ける自分の姿を想像すると、空恐ろしくなる。
「お前は知らなくていい……」
「……ま、待って! 待って下さい!」
リガルナは呼び止めるアレアを振り返ることもなくその場から立ち去った。
知らなくていい……。いや、そうじゃない。知られたくない。
そう思いながら、リガルナは洞窟からだいぶ離れた場所で足を止め、何の気なく空を見上げる。
こんな風に恐怖と隣り合わせに生きる事を遠ざけていたのに、なぜまた今になってこんな気持ちになるのだろう。もう二度と、裏切られるのは嫌だと思っていたのに……。
リガルナの零した溜息は、吹抜けて行く風に流されて行った。
自ら死を望みながらも生かされたアレアは、一人その場に座り込んだまま動けずにいた。
何だろう。あの人が今見せた酷く哀しい雰囲気は……。
傍にいる事を受け入れ、安心感を抱いていても何も語らないのはどうしてなのか。そう考えると、先ほどの彼の言葉からある程度推測できるものがあった。
「もしかして……何も話してくれないのは、私のため?」
そうかもしれない。でも、違うかもしれない。
そう考えると、アレアはぐっと拳を握り締めてゆっくり立ち上がり、リガルナが歩いていったであろう形跡を辿りながら後を追いかけ始めた。
両手を一杯に広げ探るようにしながら、崖から足を滑らせないように細心の注意を払い一歩一歩リガルナの残り香を追いかけた。
「待って、待って下さい。お願い、待って……」
おぼつかない足取りで後を追いかけてきたアレアの声が、一人考え込んでいたりガルナの耳に届く。
まさか追いかけてくるなどと思いもしなかったリガルナは、僅かに驚いた顔を見せアレアを振り返る。
アレアは目の前に人がいて、それがリガルナである事を雰囲気で察知した。
山の斜面を頼りなく歩いてくるアレアの体がよろりとよろめいて傾ぎ、そのまま滑り落ちそうになる姿を見て、リガルナは咄嗟に手を差し延べ、自分に向かって差し出されていた手を掴んで引き寄せた。
呼吸を荒らげながらリガルナの前に立たされたアレアは、顔を俯けたまま息を整える。
「私……。きっと、あなたと同じだったんだと思います……」
「……」
「傍にいられるだけで凄く心が満たされて、安心して……」
リガルナが見下ろす前で、アレアはポロポロと涙が零れおちた。
涙をそっと拭い、小さく微笑みながら俯けていた顔をリガルナに向ける。
「自暴自棄になっていたけど、本当は助けてもらえて……嬉しかった」
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