彼女の事情と私の過去(叶 良辰)

「ミィ様! どうしてここに?」

「シャ・クーラさん、どんな事情があるのかわかりませんが、ご自身が望まない結婚はやめてください」


「え? どうしてそれを?」

「同僚が教えてくれたんです。いろいろとあってあなたが苦しまれている、って」


 私がそう告げると、彼女は泣き出しました。


「いつの間にか、こうなってしまっていたのです……」


 そう言って彼女は、今回の結婚の理由を語ってくれました。


 あるイスラム圏の小国の王族だった彼女のご両親は、最近突如発生した軍部のクーデターによって投獄されることになったそうなのです。この国に留学に来ていた彼女はその話を聞くと、ご両親を助けるために帰国することを決めたのですが、とある筋から連絡が入り、彼女が帰国した瞬間に軍部に身柄を拘束されるであろうこと、ご両親が近々処刑されること、そしてそれを阻止するための方法は一つしかないこと、を告げられました。


 その方法とは、軍部と懇意にしている某国の武器商人と彼女が結婚することでその男に仲介を頼む、というものでした。そして彼女はご両親を救うために自らが犠牲となることを受け入れたのです。クーデター派の手の者によって見張られている彼女はすでに自由がきかないらしく、結婚後は軍部にくみして王族の分裂工作に協力することも決められていたのだとか。


「そんな! 私の力を使えば、ご両親を救いだすことなんか簡単なのに! なんで相談してくれなかったんですか!」


「仮にあなたの力に頼って両親を救うことができたとしても、その後の私たちをかくまってくれる人はいないのです。きっと……大変なご迷惑をおかけすることになってしまう……」


 なるほど……そういうことだったのですね。


「本当はあの日、私は思いを寄せている方にお別れを告げようと思っていたんです。ですが、女性に囲まれていらっしゃったことと、私のお相手との話の席でしたので、それはあきらめました」


 それを聞いた私はあの日の夜のことを思い出しました。そして彼女はやはり、キュウさんのことが好きだったんだ、と納得しました。気絶して横で倒れている新郎を見ると、確かにあの晩、彼女の前でワインを飲んでいた男でした。


「シャ・クーラさん、もし、そのクーデターが魔族の仕業でなければ、何とかなるかもしれませんよ?」

「え? どういうことですか?」


「魔族は人間たちが争うことを奨励してきましたが、現在はそんなことをしなくても勝手にやってくれるので、クーデターを起こそうとか考えていないはずなんです」

「は、はい……」


「なので私も自由に動けます」

「ミィ様、あなたはいったい……何者なのですか?」


「ただの魔物ですよ。ただ、祖国エジプトの者にはわりかし顔がききますけどね」


 私はそう言って彼女を教会から連れ出し、お店の控室にかくまうと、彼女のご両親を瞬時に助け出して彼女の元に戻ってきました。中休みのせいかお店には厨房で競馬新聞を読んでいる王子しかいません。みんなパチンコかな?


 ではなく、親子の感動の対面でしたね。


「シャ・クーラ!」

「お父様! お母様!」


「しばらくそこでお待ちください。お料理をお持ちしますので」


 そう言って私は料理を仕込中の王子のところに行き、相談しました。


「王子、イスラム某国のクーデターの件ですが、魔族はからんでないですよね?」


「は? なんだそりゃ? 今の魔界にそんなしょーもないことに口出すやつなんかいねーだろーよ。っていうか、そのあたりはお前の方が詳しいんじゃね?」


「それもそうですね。あ、今日のまかない私の番ですけど、ムスリム向けのもので作らせていただきます。それが終わったら一瞬だけ祖国に帰りますが、開店時間までに戻りますので王子、お願いします」


「ん? ああ、わかった。戻るってのはあれだろ? 俺がお前に帰ってこいって念じればいいんだろ?」


「そうです。よろしくお願いします」


 そう言って私はお店スタッフのまかないを多めに作ると、3人分をお盆に乗せて再び控室に戻りました。


「シャ・クーラさん、お食事後、ご家族で私の故郷にお連れしますが、その前にキュウさんに直接会っていかれますか?」

「いいえ、大丈夫です。ミィ様にはついて来ていただけるんですよね?」


「もちろんですよ。ただ、私はお店のことがありますのでうちの大統領にみなさんの保護を託してからすぐに戻らなくてはなりませんが」

「え? では、その後は?」


「うちの大統領はそちらの国のクーデターについては快く思っていないはずです。きっとお力になってくれるかと」

「いえ、そうではなく、ミィ様とはもう……お会いできないのですか?」


「そんなことしたら、私がキュウさんに怒られますから。それに、王族の方を魔界にお連れするわけにもいかないですしね」

「……」


 その後、ご家族の食事が済まれると、私は三人を連れて祖国に瞬間移動しました。時差の都合でまだ朝でしたが、大統領は私たちを快く出迎えてくれ、ご家族の保護を約束してくれました。


「それではシャ・クーラさん、お元気で!」

「あ、あの……」


 未練を断ち切るように彼女の呼び止める声を最後まで聞かず、私は姿を消し……あれ?


「ひょっとして、ミィ様の『力』は相手の思いに沿えないと発動しないのではありませんか?」

「そうなんです……けど……おかしいな」


「申し訳ありません。私の想いがそのお相手の想いを上回ったのかもしれません」

「え、そんな……人間の想いが魔族の力を上回るなんてありえない! のですが……」



――その頃、ToTの厨房では



「あれ? タマちゃーん、ミィはまだ来てないの?」

「ああ、あいつならさっきクビにしたよ。バカで役に立たねーからな。かっこつけてないで、祖国に帰って幸せになりやがれってんだ」


「ちょ! せっかくいい感じで僕の子分になってきたのに!」

「おいおい、お前意外と見えてねーんだな。その子分に尻拭いしてもらってたのにさ」


「え? どういうこと?」

「あらあら、ヴァンパイアのキュウ様も、まだまだ青いね~」

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