話は聞かせてもらった!(叶 良辰)

「王子、オーダーです」

「玉子料理とか言うなよ?」

「残念ながらその通りです」

「そうか……」


 そんな王子とのやりとりも慣れてきた今日この頃です。


「王子、オーダーです。『チキン南蛮もいいけど、もう少しボリュームがある物が食べたいな~。ダイエット中だけど……和牛ステーキ400gとタンシチューとローストビーフもいっちゃおっか!』だそうです」

「あのなサト、人の気持ちを読んでそのまま伝えるのは仕事じゃねーよ! 最後だけでいいからさ。それとこいつの近くなんだから少しは空気読んでやれよ」

「ふんもぉ……」


 いろいろと同情する日もあります。


「王子、1.出し巻き玉子 2.温泉玉子 3.チーズオムレツ。さあ、どれでしょう?」

「あのなろく、箇条書きもいいんだけどよ、別にクイズにしなくてもよくねーか? っていうか、レストランで温泉玉子だけオーダーする客なんかいねーから!」


 王子……そろそろ怒ってもいいんじゃないでしょうか?

 っていうか、私、この中じゃ意外とまともじゃないですか?


 そんなことを考えながら楽しくやっていたある春の日の事でした。



 キュウさんが貧血で倒れたのです。


 ヴァンパイアが貧血、というのもどうかと思いますが、キュウさんは毎年同じ日に倒れるらしいのです。もちろん私はその日までそのことを知らなかったのですが、ToTメンバーの誰もが倒れる理由を知りたがっていたらしく、彼をベッドに運ぶと、夢魔のむっちゃんがキュウさんの夢をのぞき見たんですね。そして私は知ってしまったのです。亡くなられたキュウさんの最愛の人の名前を、そしてそれは王子のお姉さん、というか……


いずれにせよ、その人の名は『シャ・クーラ』だったんです。



 手紙の文面を思い出しながら私は一人、ドキドキしていました。もし、あの夜怪我をした女性がその人の生まれ変わりだったとしたら……



――私が心を寄せていた方にすでにお相手がいらっしゃる事がわかり、思わず動揺してしまったところ、粗相をしでかしてしまいました――


 ひょっとしてキュウさんが女性のお客さんに囲まれていたところを見て……



――怖いの……あのひとのことが怖いのよ……――


 魔王の家系を裏切ることになった彼女は魔王王子の父のことを恐れていた?



 いやいやいや……


 生まれ変わったところで、同じ名前ってわけないだろうし、関係ないよ、きっと。キュウさんには、言えるわけないし……



 と思っていたら私の行く手を阻む、二つの影。


「話は聞かせてもらった!」


 いや、何も言ってないですし! ってサトリンさん、勝手に私の心を読まないでよ!


「ああ、あの人は違うよ~」


 だからむっちゃん、私を勝手に触っちゃ……って、え? 知ってたの?


「「もちろん!」」

「いつから?」


「「バックヤードの隣の部屋で二人がしっぽりしてた時から!」」

「なんで知ってんだよ!!」


「僕~らは~なんでも~」

「知って~いる~♪」


「いやいや、知らなくていいから! っていうか、あの人は違うの? 本当に?」


「何もそんなにキョドらなくても……」

「違うにきまってるじゃん」

「ふんもお」


「人数増えてるんですけど」


「だって、あの人の生まれ変わりだったとしたら、キュウちゃんは絶対気づくよ」

「王子もね」

「ふんもお」


「緊張感がない! っていうか、じゃあなんでおんなじ名前だったんですか?」


「だって、イスラム圏ではよくある名前だし~」

「この店に来るお客さんの中でも美人で前からみんな気になってたし~」

「ふんもお」


「うっしーも知ってたのかよ! 知らなかったのは私だけ?」


「「うん」」

「……ふんもお」


 orz


「だけどこれで話は終わりじゃない。あのシャ・クーラさんは今、好きでもない男との結婚を受け入れようとしているんだ!」

「これを救えるのは」

「ふんもお」


「待て待て待て待て! この無理やりな恋愛展開はいったいなんなんすか!」


「ウソのような」

「本当の話~」

「ふんふんふんもっ!」


「なに楽しんでるんですかっ! っていうか私にどうしろと?」


「君の『時空を超える力』っていうのは相手の気持ちに沿えなければ使えないんだろ?」

「その力、もう一度彼女のために使ってみないか?」

「ふモーッ!」


「わかりましたよ! で、あの人は今、どこにいるんです?」


「店の裏手のひまわり教会だ!」

「今まさに、誓いの言葉を交わす、30分前だ!」

「ふモーッ!」


「めちゃくちゃ近い! 時空を超える必要ないがな! っていうか盛り上がるところじゃないから! 『ふモーッ!』じゃないから!」



 なんていうやりとりがあったとかなかったとか、本当のところはともかくとして、彼女がつらい思いをしている、という話を聞いてしまった私は、いてもたってもいられず、新しい包帯を身体に巻き、部屋の掃除を済ませると、ほこりで汚れた包帯を再び新しいものに巻き直してから自分の『時空を超える力』を使わずに歩いてひまわり教会に馳せ参じたのでした。



「……健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富める ときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り 、真心を尽くすことを誓いますか?」


「ちょっと待ったーっ!」


 そう言ってその場に飛び込むと、これまで人外を見たことのなかった結婚式の参列者、及び新郎、神父さん、つまりそこにいたシャ・クーラさん以外の人は私を見て気絶しました。

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