戦慄! ミイラ男のミィちゃん(叶 良辰)

「とりあえずこいつ新入りだからよろしくね」


 キュウさんが私の事をお客様に紹介してくれました。3人とも女性。海さん、壱華さん、良子さんだそうです。


「ミィちゃんって、以前はどこにいたの?」

「斎藤工務店ってところに勤めてました」


「へ~どんな仕事してたの?」

「特に大したことは……ガキの使いみたいなもんでしたね」


「そうそう、ミィは暗いし何もできねーからさ、あんまり期待しないでくれよ」


 そう言ってキュウさんは3人の前で私をいじろうとするけど、彼に悪意がないことはよくわかっていました。お客さんの前で人をこき下ろして悪い人ぶってるけど、私が暗くて何もできないことは事実ですし。


「だけどこのお店に来たってことは、何か特技があるんじゃないの?」


「あーそれ聞いてやらないで。こいつ料理できるって話だったんだけどさ、玉子割ったら包帯にべとべとつきまくってパニくって大変だったんだよ」


「いえ、私自身はパニくってませんし。玉子を無駄にしちゃったのは事実ですが……」


「ワインとかにも包帯浸すしさ〜」


「というか、なんで包帯巻いてるんですか~?」


「こいつ、人からの視線を集めるのが嫌で、普段は絶対包帯を外さないんだよ」


「それ……客商売として大丈夫なの?」


「それがですね、まったく大丈夫じゃないんです」


「だから僕がこうして無理やり表に引っ張り出そうとしてるわけで……」


 とキュウさんが言いかけた時でした。


 ガッシャーン!


 別のテーブルでワインのボトルが落ちた音がしたのです。広がる甘い香りの中にかすかに漂う血の匂い。ガラスの破片がお客様の足に刺さったようです。


「ちょっと行ってきます」


「え? ちょ……」


 キュウさんの呼び止める声を最後まで聞かず、私は姿を消しました。



***


「動かないで」


 怪我した女性を瞬間移動で控室に運び、足からガラスの破片を取り除くと、私は消毒して包帯を巻き始めました。


「え……っと、あなた……誰?」

「ここの従業員です。そこまで傷が深くなくて良かった」


 彼女の足首に包帯を巻き終わったとき、私の露出した顔が翡翠のような目に見つめられていたことに気づきました。


「ご、ごめんなさい! 近かったですよね?」

「いいえ……こちらこそ、ありがとうございます」


 そう言って微笑まれ、ドキッとしました。いやいや、ダメだよ、お客様と恋に落ちるなんて……


 暗がりの控室の中でもワインに酔った彼女の顔は赤くほてって見えました。女性らしい丸みを帯びた肩のラインが紺のドレスのシルエットとともに柔らかくゆっくりと上下しています。


「お連れ様が心配されていらっしゃると思うので、すぐに……」

「待って……あなたの顔を、もう少し見せて」


 彼女はそう言うと立膝をつく私の肩に手をかけ、ポニーテールで強調された丸顔を近づけてきました。


「あの人のことは気にしないで、大事な話はもう終わったから」

「えっ?」


 とろんとした彼女の目が吐息とともに近づいてきました。そして


「目を閉じて」


 そう囁かれました。言われた通りに目をつぶると、彼女は私の立膝をゆっくりと崩しながら身体を預けてきました。


「お、お客様……いけません」


 彼女に肩を抱かれ、私はそう言うのが精いっぱいでした。しかし


「お願い……もう少し、このままで居させて」


 そう言った彼女の肩は震えていました。まるで何かに怯えているかのように。


「怖いの……本当はあのひとのことが怖いのよ……」


 私の肩の包帯がじっと湿っていきました。気がつくと私は、いつの間にか彼女の肩を抱き返していました。



***



「で、その後どうしたんだ?」

「いえ、特になにも」


「「「はあー?!」」」


 キュウさんとわびすけさんとフラさんにあきれられました。


「お前、あほ? あのひと、めちゃくちゃ美人じゃなかった?」

「え? なんでですか? というか確かに美人でしたけど、キュウさん、仕事でもいつもそこが基準なの?」


「そこまで行っておきながら、次の約束とか取り付けなかったの?」

「はい。彼女言ってましたし。ありがとう、もう大丈夫って」


「あんた、本当にアホなの?」


 今度はシルフさんに全否定されました。


「いちおう店員としての役目は果たしたかな、と思ったんですが……」


「違う違う、そうじゃなくてさ、あんただって店員である前に、男なわけでしょ? もう少し彼女をロマンチックな流れに誘導してさ、そこで一発決めておけば、こんなところに縛られなくたって良かったわけじゃん!」


「いえいえ、そんな、人の弱みに付け込むなんて、できませんから……」


「ふんもおー!!」


 うっしーの言うことはよくわからなかったです。


「『あんな男の事、俺が忘れさせてやるよ』ぐらい言えばよかったのに、だってさ」


 サトリンさんが言ってるけど、かなりあやしい。うっしーがそんなキザなセリフを思いつけるとはとても考えられないよ……


 みんなになじられながらも結局、どうすればよかったのかわからないまま、私はその晩眠りにつきました。



 翌日、出勤するとシルフさんに


「あんた宛に荷物が届いてるわよ」


 って言われました。


 なんだろう?


 女性が作った物らしい包みを開けてみると、そこには一巻の包帯と手紙が入っていたのです。


「うわぁ! うれしいなぁ!」


 喜びながら手紙を開くと……


――親愛なる ミィ様


 昨日はお恥ずかしいところをお見せし、申し訳ございませんでした。

 私が心を寄せていた方にすでにお相手がいらっしゃる事がわかり、思わず動揺してしまったところ、粗相をしでかしてしまいました。


 その後の事は忘れてください。ただ、ミィ様の優しさに一瞬甘えてしまいました。

 

 今後そちらのお店に伺うことはできませんが、今後のミィ様のご多幸をお祈りしております。


       シャ・クーラ ――


 へー、シャ・クーラさんっていう人だったんだー。キュウさんに見せたらまた何か言われそうだからやめとこっと。

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