第64話 59
恐竜人類とは何か。
そう問われたサギは少しだけ怪訝そうな表情を見せた。
「それが私たちの呼称なのですね?」
「……ああ。サギは自分たちのことを何て呼んでるんだ?」
「『ヒト』です」
「……」
人類は自分たちのことを『ヒト』と呼ぶ。
彼女達も自分たちのことを『ヒト』と呼ぶ。
――おかしな話だ。
「もう一つ、私たちを示す『名』があります」
サギは神妙な顔をした。
そして密書を懐から取り出す密偵さながらに、その名を口にする。
「私たちは『アルケオ』」
「アルケオ……」
「私たちが自分たち全体を語る時は、その名を使います」
それが俺たちの言う『恐竜人類』。
あるいは『鳥女』。
「何からお話ししましょうか、ワカツさん」
「……」
「個体の情報と社会の情報を分けて聞くべきです、ワカツ」
シアが助け舟を出す。
「まずは生物としての『アルケオ』について聞きましょう。社会の成り立ちや、アキ達の目的はその後に聞いた方が良いと思います」
「そうだな。……」
恐竜人類『アルケオ』について、俺が知っていることは少ない。
最優先で聞いておくべきことは――――
「全員で何人いる?」
「1200人ぐらいだったと思います」
「1200……?!」
多い。
いや、あの広大な冒涜大陸全土でたった1200なら、むしろ少ないか。
だがその一人一人がアキやヨルと同格と考えると危険だ。
「姦しいどころの騒ぎじゃないな。1200人もアキやらヨルやら女が……」
「……ワカツさん。私たちにも性別がありますよ」
「! そうなのか」
「当たり前でしょう。女だけでどうやって繁殖するんですか」
「シアさん。皆さんが出逢ったのは……」
「全員、女でした」
「そうですか。そうでしょうね……」
「?」
「いえ。男性は私たちより身体が小さくて、戦闘能力も低いんです。彼らは基本的に……あ、いえ。生物としての能力から、ですね」
見ればシアとルーヴェも前のめりになっている。
「お前たちは人間よりどれぐらい強い?」
「どれぐらい……どれぐらい……」
サギは返答に窮しているようだった。
確かに俺も犬に「お前は犬よりどれほど強い」と問われたらこうなるだろう。
「五感はどうだ? 俺たちよりどれぐらい鋭い?」
「全体的にワカツさんたちより上のはずです。特に鋭いのは聴覚でしょうか」
「遠くの音を拾えるのか?」
「いえ、細かく聞き分けることに長けています。
そう言えば、アキやヨルがやっていた。
こいつらはラプトルやティラノの声を真似、呼び寄せることができる。
あれは人間には再現不能だろう。
――もしかすると、肺や気道の造りが違うのかも知れない。
そこはあの老婆の解剖報告を待つべきだろうか。
「身体能力は……『秋の赤い甘い懐かしい風』がちょうど軍の平均程度です。私のような立場の人間はそれに少し劣ります」
弓兵の目でかろうじて捕捉できるほどの高い敏捷性が、奴らの『平均』。
ただならぬ胆力の持ち主であり、高い素養を持つルーヴェがかろうじて反応できるほどの運動能力が、奴らの『平均』。
非戦闘員であるサギとて一般的な成人男性より遥かに強いだろう。
俺は手の平の汗を拭い、筆を墨壺に入れる。
「身体能力と感覚については分かった。――」
それ以外の部分――例えば、顔の造りや頭蓋骨の形、髪色に変わった点は見受けられない。
瞳が緑色である点が異質だが、それぐらいだ。
「顔の造りはエーデルホルンやザムジャハル系ですね」
「サギ。俺みたいな顔の奴を知ってるか? もしくは、肌が少し褐色寄りの人間とか」
「いえ。見たことがないです」
重要な点だった。
筆を走らせた俺は、昂ぶる心を鎮めるために一度茶を点てる。
「あんた達も成長は早いのか?」
「はい。男性は生後8年程度、女性は12年程度で生殖適齢期を迎えます」
「……まだ子供だ」
「そうですね。あくまでも適齢期に差し掛かる、というだけです。成人とみなされるのはそこから更に3年から5年ほど経ってからです。それまで男女の交わりは許していません」
俺はサギに近づき、その手を取った。
鱗に覆われた、鳥類の脚を思わせる手。
「ものを握る力も強いのか?」
「はい。筋肉の量……と言うか、質そのものが違います」
「骨もですか?」
「そう……だと思います」
俺は指で鱗を撫でた。
翼と同じ緑色で、ごつごつしている。
手の甲も、手の平も、この鱗に覆われている。
サギの爪はアキほど長くはないが、鋭利な武器であることに違いはない。
「羽を見せてくれ」
「……はい」
サギは座ったまま黒衣の裾を持ち上げた。
膝まで鱗に覆われた脚が露わになり、脂の乗った白い腿が露わになり、下腹部を覆う黒布が露わになった。
どこか清涼な、薄く甘い匂いが漂う。
確かにアキやヨルに比べ、サギは肉付きが良い。
ただそれは、ごく一般的な女性相応ということであって、太っているわけではない。
アキとヨルが絞りすぎなのだ。
サギはすっぽりと衣服を脱ぎ去った。
日に当たらない生活をしているのか、全体的に色白だ。
黒布に覆われた胸元をじっと見ていると、サギは申し訳なさそうに我が身を抱いた。
「あの。あまりじっと見ないでいただけると……」
「分かってる。……」
分かってはいるが、観察せざるを得なかった。
両腕から背中にかけて肢体を覆う、緑色の翼。
短距離ではあったが、アキやヨルはこれを使って滑空して見せた。
その翼は何のためにあるんだ、と聞きかけた俺は気付く。
サギの柔らかそうな腹には
――――
(……)
以前、アキが言っていた。
自分たちは『卵を産む』のだと。
だったら
臍は確か、胎児が母親から栄養を受け取るために生えているはず。
それに卵生だったら不思議なことがもう一つ。
「サギ」
「はい?」
「それ、何に使うんだ……?」
俺が示したのは彼女の胸、乳房だった。
鳥やトカゲ、それに蛇。
卵で産まれる生物、いわゆる『卵生』の生物は授乳など行わないはずだ。
だがサギには胸がある。
アキやヨル、ユリもそうだった。
肥大化した胸筋ではなく、明らかに『女性の乳房』が黒布を内側から突き上げている。
「すまん。話の途中で悪いが……あんた達はどうやって増えるんだ?」
増える、という言い方は礼を失していたかも知れない。
だがサギは気を悪くした風でもなく、首を振る。
「ワカツさん達と同じです」
「待て。前にアキに聞いた。あんた達は卵で増えるんだろ? だったら俺たちと一緒じゃない」
「いえ、少し違います。……確かに男性は卵で産まれます。でも女性は牛や豚のようにお腹に抱えられて、それから生まれるんです」
「……! 雌雄で生まれ方が違う……?」
「はい。もちろん育て方も違います」
サギはそこから話すべきだと判断したのか、一つ咳払いする。
「順番が前後するかも知れませんが、許してください。……私たちの社会では女性の方が強く、体も大きくなります。逆に男性は弱く、戦闘行動に向きません。家畜の世話や農耕、子育てや繕い物は男性の仕事です」
「男だけ卵で産まれるのもそのせいか?」
「いえ、それは身体の造りがそうなっているとしか……。男性は鳥のように卵で三、四人同時に生まれますが、女性は母親のお腹の中で大きくなり、基本的に一人ずつ生まれます。そこだけはワカツさん達と同じですね」
「だから臍と胸があるのか……。……待て。男が生まれたら胸が足りないだろ? 母乳はどうやって分け与えるんだ?」
サギは首を振った。
「男の子に母乳は与えません」
「は?」
「そもそも、育てないんです。産んだ卵は巣だけ作って、そこに放置します」
「え」
「なぜ抱卵しないんですか」
シアが困惑したように問う。
「以前は卵も大事に育てる習慣があったのですが、奇形や『黒羽』ばかりが生まれたそうです。それに仰る通り、孵化した男児全員に母乳を与えようとしたら胸が足りなくなります」
だから、とサギは続ける。
「卵は枝や葉で造った『巣』に入れて、外に放置します。生まれた男の子は自力で木の芽や虫などを食べ、雨水を飲んで育ちます。ある程度育ち切った個体を私たちが回収して育てるんです」
「孵った後も放置するのか……?! 手をかけてやればいいだろう」
「手が足りないんです。男児は三人から四人同時に生まれます。全員の世話をしようとしたら母親だけでは足りません。アキやヨルのような軍人の手も借りないと」
「でもそれは嫌がられる……」
シアの呟きにサギが頷く。
「成長しきっても男性は弱いままです。そんな彼らのために軍の人間が手を貸すことはありません」
「だから意図的に減らすのか」
「『強い個体だけを残す』という表現が適切です、ワカツ」
「物は言いようだな。ただの口減らしだろう」
俺は『口減らし』という言葉を使ったが、彼女達は特段貧しいわけではない。
冒涜大陸全土を餌場としているのだから、食料が不足するなんてことはない。
――『母親』が足りない。
ただそれだけの理由で男児が捨てられ、見殺しにされる。
一方。女児は臍の緒で母親と結ばれ、母乳と温もりの中で健やかに育つ。
「ワカツ?」
「……」
俺は捨て子だ。
原初の記憶は、枯れ井戸の底から見える空。
俺を抱いてくれたのは優しい母親ではなく腐った
二位に拾われたおかげで俺は死を免れた。
それどころか、一般的な子供より遥かに恵まれた暮らしを享受することができた。
生みの親を恨んだことなどない――とは言わない。
ただ、顔も知らぬ親に恨み言を言うぐらいなら、二位に感謝の言葉を連ねた方がマシだ。
――だが。
だが、だからと言って同じことをする親を見過ごすことはできない。
子を捨てる親など、許されていいわけがない。
たとえそれが人ならざる生き物であったとしても。
「
でも、とサギは続ける。
名に負う通りの悲哀を滲ませて。
「残念ですが、男の子をいくら育ててもアルケオ全体に恵みをもたらすことはないのです」
「……」
「かつてのアルケオは男女の数がほぼ同じだったそうです。でも――」
「サギ。一旦そこまでにしましょう。ワカツ。いいですね?」
「ああ」
「分かりました」
サギは淡白に告げ、目を伏せる。
「男女は成長するに従って名をつけられます。既にご存知かも知れませんが女性の方が長く、男性は短いです」
秋の赤い甘い懐かしい風。
夜の青い暗い鋭い星。
百合の黄色い清い熱い蜜。
鷺の黒い柔い哀しい翅。
命名には法則性があるのだろう。
「で、適齢期になったら子供を作る。そして次の世代を――」
ぞわっと悪寒が背を走る。
「サギ」
「はい。……食べるものですか?」
「ああ」
「基本的にはお肉です。規模は小さいですが男性が農業に携わりますから、野菜を食べることもあります。魚や果物を食べる機会もあります」
俺は筆を止め、ゆっくりと唇を開いた。
「その『肉』には人間も含まれる。そうだな?」
「はい。専用の牧場もあります」
「……」
「とは言え、人の肉は基本的に軍の皆さんのものです。男性や私のような『
気休めにもならなかった。
機会さえあれば食う、という意味にしか聞こえない。
「ワカツさん。私からも一つ良いですか?」
「ああ」
「もしかして、ですけど。『秋の赤い甘い懐かしい風』に何か言われませんでしたか?」
「何か、とは?」
「いい匂いがするとか、そんなことです」
「……言われた」
そうだ。
確かアキの奴も肉を食わないのだ。
だが俺に出会った時、奴はなぜか俺に強い興味を示した。
卵を作っても良いだの、肉を食っても良いだのと、おぞましいほど嬉しそうに仲間たちとはしゃいでいた。
「ワカツさんの体からは甘い匂いがします」
「……?」
ルーヴェを見るが、首を振られる。
「ワカはいつもいい匂いするから、どれのことかわからない」
「?」
「ルーヴェのことは気にするな」
彼女は五感全体が統合されている。
極端な話、俺の一言一句、一挙手一投足が別々の『味』として認知されるのだ。
ひと口に「甘い匂い」と言われても、ルーヴェには日々受け取る刺激のどれを指すのか分からないに違いない。
「私も何も感じませんが」
シアに告げられ、サギは首を振る。
「体臭に近いのですが、普通の感覚では分からないのかも知れません」
「どういうことだ……?」
「ワカツさん、もしかして何か特別なものを食べられていませんか? すごく……その」
「美味しそうに見える?」
シアが冷淡に告げると、サギは慌てて手を振る。
「いえ、美味しそうと言うか……その……。……はい……」
サギは申し訳なさそうにうな垂れた。
「美味しそう、とはまた違う気がします。お肉なのに、お肉ではない香りがするんです。芳醇な……甘く熟れた果物のような香りのするお肉、とでも言うんでしょうか」
「……。もしかして、俺が肉を食わないからか?」
「! そうなのですか。道理で……」
(アキが俺に食いついてたのはそういうことか……)
俺は獣の肉はもちろん、魚すら食わない。
野菜と豆、果物が主食だ。それに時々、卵。
その生活を長く続けるうちに、全身の肉が何か特別な匂いを発するようになったのだろう。
例えるなら、穀物ではなく極上の水蜜桃だけを食べ続けた豚。
あるいは、清酒を浸した田で育った稲。
一見すると同じ人間でも、俺の肉からは何か異様な匂いが漂っているらしい。
だが葦原の人間にそんなことを指摘されたことはない。
つまりこれは、人間の肉を食う恐竜人類にのみ分かる『魅力』。
――はなはだ不名誉な話だ。
「わかのお肉? お肉はいい匂いするよ」
ルーヴェがすんすんと鼻を鳴らす。
「あまいにおいする。私、最初にそれ
「確かに……そんなことを言ってた気がするな」
そこまで深い意味だとは思っていなかった。
単に当時のルーヴェより清潔なので、相対的に「いい匂いがする」のだろうと理解していた。
落雁を口に放り、気持ちを切り替える。
「食事のことに話を戻しますね。私たちは肉を主食にしています。でも決して食べない肉が二つあります」
「それは?」
「まず鳥の肉です」
「同類だからか」
「ええ。シソ様が含まれますから。……それに、鳥盤類や竜脚類の肉も食べません」
「鳥盤類と竜脚類ってことは……。……草食恐竜の肉か?」
そこで気づく。
先ほどサギは「獣脚類を家畜にしている」と言っていた。
だが草食性の恐竜を従えている、あるいは食糧にしているとは言っていない。
ここだ。
ここに俺は違和感を覚えたのだ。
サギ達はティラノやアロを従え、その肉は食うが、いかにも家畜らしい姿の草食恐竜は従えず、その肉も食べないらしい。
「草をたべる恐竜、なんでたべないの?」
「危険だからです」
「危険?」
「草食性の恐竜は身体が大きいものがほとんどです。暴れられたら怪我をしてしまいます」
「それに彼らは普段から肉食性の恐竜を警戒している。加えて群れで行動するから索敵能力も高い。襲いづらく、仕留めたところで見返りは小さい。……そんなところですか」
「はい。シアさんの言う通りです」
サギが深く頷いた。
「肉食性の恐竜は単独で行動するものがほとんどですし、いざとなった時の対処も容易です。なので私たちは彼らを襲い、飼いならし、その肉を食べます」
「……檻を作れるんだったな」
俺は冒涜大陸の洞穴で見た光景を思い出していた。
サギ達は骨で檻を作ることができる。
「多少であれば。でも檻に恐竜を入れることはありません」
(……)
恐竜を入れることはない。
そこに入るのは――
「道具の話を少ししますね。基本的に私たちは爪を使うだけで問題なく暮らせますが、政治を司る方々のために調度品をこしらえたり、装飾品を作ることがあります」
「脂で灯りを取ったり、香水を作ることもできるようですね」
「はい。それぐらいであれば。……ただ、それ以上のものは私たちには必要ありません」
「遅かれ早かれ大型の恐竜に壊されるから、ですね?」
「はい。それから――」
しばし無言で筆を走らせる。
聞くべきことはある程度聞いたが、まだまだ足りない。
「生殖について聞きたい」
「基本的な部分はワカツさん達と同じです」
「何で知ってる……って、人間を飼ってるのか」
「はい。人間の飼育は私たちの仕事の一部に含まれます」
「……」
「サギ。あなた方は人間をどのように飼うのですか」
「檻に入れて、後は何もしません。水と食事を与えるだけです」
「手入れなどは?」
「体毛は伸ばすに任せます。爪は放っておいても自分たちで削るようです。たまに湯浴みをさせると、とても喜んでくれます」
「意思疎通はどうするんです? 言葉を教えるんですか?」
「いえ。彼らは言葉を知りませんし、私たちからも教えません。仕草と唸り声から意図を汲み取るしかないです」
俺は無言で筆を走らせる。
うっかりすると聞く方に注力し、手を止めてしまいそうだった。
「身二つになったら母親を隔離して、子育てに専念させます」
「その間、男は?」
「放置します。……身ぎれいな個体は軍が見繕って持っていく場合もあります」
「食べるために?」
「いえ。繁殖用です」
「……?!」
アキの言葉が蘇る。
そうだ。
あの言葉が真実ならこいつらは――
「サギ。お前たちは……」
「はい。ワカツさん達との間にも子を設けることができます」
「!」
「ただし、産まれる子はすべてアルケオになります。人間の子が生まれたという話は聞きません」
「『半分』はどうだ?」
「半分?」
「人間とアルケオの特徴を半分ずつ継承した子供だ」
「いえ。それは聞いたことがありません」
俺はシアに目を向けなかった。
シアもまた俺に目を向けない。
ルーヴェは柄杓の湯を碗に入れ、見様見真似でじゃかじゃかと乱暴に茶を点てている。
「これはアルケオ側の女性次第ですが……もし繁殖に使った人間の男を気に入るようであれば、そのまま召し抱えることもあるようです」
「同種の男より人間の男を好むのですか?」
シアが呆れたように問う。
「アルケオの男性は女性の前だと委縮しがちですので、その……交尾もひと苦労だと聞きます。一方、人間の男性は非常に発情しやすいそうです」
「言葉や物を教えないんでしたね。それなら生物としての自然な欲求に従うでしょう」
「はい。その……ヨルたちの言葉を借りれば『獣のように盛る』ので、一人飼っておくと何かと具合が良いそうです」
「産まれるのがアルケオの子なら確かにそれでも良いのでしょうが……」
「え、ええ。正直、どうかと思います……」
ちらりとサギがルーヴェを見る。
「愛玩用として気に入られた人間は時に言葉を教わり、様々な作法を教わるそうです。着飾らせ、アルケオ同士で見せ合うこともあります」
「奴隷か」
「はい。……時として彼らは脱走することがあります」
「!」
「首尾よく逃げ切った彼らは自分たちの集落を作り、独自の暮らしを営むそうです」
「! !」
ルーヴェがぐんと身を乗り出す。
「追わないのですか?」
「ええ。むしろ積極的に野生の人間を育てようとする動きすらあります。彼らは狩猟の対象になりますから」
「……」
「サギ。奴隷たちの目の色は……」
「ええ。以前ワカツさんとルーヴェさんにはお教えしましたが……彼らの目は茶色です」
「さぎ。わたし――」
「ちょっとだけ待ってくれ、ルーヴェ。……その前に、サギ。一つ聞きたい」
「はい」
「……前から気になってたんだが、何でお前たちは俺たちと同じ言葉を使ってるんだ?」
「……」
「霧の中の人間は言葉を知らないんだろう? だったらお前たちは誰に言葉を習ったんだ?」
「……」
「霧の外から来た人間がお前たちの先祖に言葉を教えて……いつの間にか立場が逆転して食われる側に成り下がった、ってことか?」
「……」
ワカツ、とシアが呟く。
少しだけ憐れみを含んだ声で。
「逆です」
「逆?」
「『私たちが』、『彼女達の言葉』を使っているんですよ」
「……」
それはごく単純な事実を示していた。
「私たちは、彼女達の家畜の末裔です」
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