第61話

 昨日の疲れ(ちなみに予選のことではない)も何とか取れ、竜人たちは食堂で朝食を頂いていた。

「いや、昨日はすみませんでしたな。ついつい飲みすぎてしまったようです。」

「気にしないで下さい。昨日は美味しい料理と楽しい時間が過ごせました。」

 竜人がジェイスにそう伝える。


 ジェイスは、「そう言っていただけると助かります。また本選が終わりましたら、お祝いさせてください。」と言って仕事に戻っていった。


「俺たちは今日は帝都を散策するけど、ラビアたちはどうする?」

「私達も帝都を見て回ってみます。もしかしたら知り合いに会えるかもしれませんし。」

「そうか、アイテム袋に入っているお金は好きに使ってもらって構わないから。」

 竜人の言葉に皆が『ありがとうございます。』と伝えてきた。


「それじゃ俺たちは行くから、なにか美味しいものがあったら後で教えてくれ。食料の買いだめもしておきたいし。」

「はい、わかりました。お気をつけて。」

「行ってきまーす。」

 ラビアたちに見送られ、竜人、エリス、ミーナは出掛けていく。


「ほらミーナ、こっちにおいで。」

 竜人はミーナを呼ぶと、肩車をする。

「うわぁー、たかーい! 向こうまで見えるよ!」

 ミーナは肩車におおはしゃぎしていた。


 エリスはその様子を微笑ましく見ていた。

 竜人は、最近ミーナやエリスに余り構って上げられていなかったことを気にしていた。

 今日は、休日のお父さん張りに家族サービスをしようと決めていた。


「さあ二人とも、どこか行きたいところはあるかい?」

「どこか楽しいところがいい!」

「私は二人と一緒ならどこでもいいです。」

 二人とも特に希望がなかったので、宿屋で情報収集して当たりをつけておいた劇場での演劇を観に行くことにした。


 演劇の演目が勇者とその仲間たちの話を題材にしたもので、帝都でも高い人気を誇っていた。

 チケット(一番高い一スペース貸しきりの席)を金板一枚で購入した。

 アルたちも入れるようにと、家族サービスに金に糸目をつけない竜人。


 食べ物と飲み物を買って席へと向かう竜人たち。

「兄さん、さすがにこの席は高すぎませんか?」

「まあまあ、ここなら遠慮なくアルたちも居られるし、ミーナもみんなと傍に居られた方がいいだろう?」

「うん! お兄ちゃんありがとう。みんな一緒に観ようね。」


 ミーナはアルたちに抱き着きながら、劇の始まるのを待っていた。

 その様子を見て、顔を崩して嬉しそうに見ている竜人。

 そんな二人を見て、しょうがないんだからと苦笑しているエリス。

 そんなゆったりと過ごす久し振りの時間に幸福を噛み締めていた。


 やがて上映が始まる。

 ストーリーは、勇者が戦いを通して仲間を集めていき魔王に挑むというオーソドックスなものだった。

 一緒に冒険した仲間たちと悲しい別れを経験したりして、魔王城へとたどり着く。


 仲間たちは勇者を先に行かせるため、自らが敵の足止めを買ってでる。

 そして、勇者と聖女は魔王のもとへとたどり着いた。


「たかが人間風情が!」

「来い! 決着を着けてやる。」

 勇者と魔王が激しく戦い、聖女は勇者を魔法で援護する。

 そして、魔王は勇者に破れると聖女の魔法で封印されることになった。


 魔王を倒した勇者は、もと来た世界へと戻ることになる。

「戻ってしまわれるのですか、勇者様?」

「すまないエリー。私には成さねばならぬ使命が待っているのだ。」

 勇者と聖女は抱き締め合うと、その場でキスをする。


 エリスは顔を赤らめながら、ミーナの目を両手で塞いだ。

「お姉ちゃん見えないよ。」

「ミーナにはまだ早いからダメ。」


 キスシーンが終わり解放されたミーナ。

 二人はお互いに涙を流しながら見つめ合い、勇者は光の中へと消えていく。


「勇者様、私はいつまでもあなたのことを愛しております。」

 そう言ってシーンは暗転する。


「エリー・・・。」

 その言葉を残して、勇者は次なる世界で再び戦いへと赴くことになる。


 上映が終わると、観客席からは盛大な拍手と声援が送られ役者たちは舞台上で挨拶をする。

 エリスやミーナも満足そうに拍手をしていた。


(う~ん。世界は変わってもこういう話が好まれるのは変わらないのか。まあ、俺はどっちかというとハッピーエンドが好きなんだがな。)

 竜人はそう思いながらも、みんなと一緒に拍手をする。


 そして、劇場を後にした三人は昼食を取ることにする。

「面白かったね、お姉ちゃん!」

「そうね。最後は少し悲しかったけど、それが人気の秘密なのかもね。他の観客たちも涙ぐんでいた人が多かったから。」

 二人が満足した様子に、笑顔になる竜人。


 昼は劇場で食べ物をつまんでいたので、屋台にすることにした。

 屋台のひとつに、ケバブによく似た料理をパンにはさんで売っていたので、一つ購入して皆で分けあって食べることにする。


 エリスが一口大に切ったものをミーナに分ける。

「はい、ミーナ。」

「アーン。」

 ミーナに食べさせると「美味しい!」と笑顔になる。


「はい、兄さんも。」

「アーン。」

 竜人もエリスに食べさせてもらうことになった。周囲の目が気になってはいたが、まあいいかとだんだん流されていく竜人。


 結局、いくつかの屋台の料理を一つずつ買っては分け合うという、「ラブラブカップルでもそこまでしねーぞ!」という友人の幻聴が聞こえそうな光景が繰り広げられていた。


 そして、竜人たちは「そう言えば最近服とか買ってなかったな。季節も変わってくるしそろそろ買いたさないとな。」と竜人の提案で、服屋へと向かった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか?」

「この二人に似合う可愛い服を頼みます。予算は特に気にしなくて良いので。」

 竜人は一般の店より高級なお店を探して、雰囲気の良さそうな店にはいると店員にそう告げた。


「こちらは、今年の新作になっております。当店オススメの品です。」

 そう言って、店員は何着か持ってくると台の上に並べていく。

 二人が思い思いに服を手に試着室へ向かうと、竜人に感想を求めてくる。


 しばらくファッションショーが続き、竜人はその度に感想を述べていく。

「二人とも可愛いから、何を着ても似合ってしまうなぁ。すみません、これ全部ください。」


 竜人は、かなりのシスコンバカになってしまっていた。

 その後は、竜人も服を何着かエリスとミーナに見てもらって、結局金板二枚ほど払うことになった。

 かなり金銭感覚が狂ってきているようだが、竜人にとっては二人の笑顔は金には変えられないものなので全然気づいていなかった。


 ミーナは、アルたちに買った服を見せて感想を聞いているようだった。

 三匹がそれぞれ鳴き声をあげて答えており、それに嬉しそうにしているところを見ると、多分可愛いや似合っていると告げられているのだろうと竜人は思った。


 不意に、エリスが竜人に体を預けてくる。

「兄さん、今日はありがとうございます。とっても楽しかったです。」

「よかったよ。二人には迷惑をかけてばかりだから、少しでもそう思ってくれたなら俺も嬉しいよ。」

 竜人はエリスの頭を撫でながらそう答えた。


「あーっ! お姉ちゃんばっかりズルい!」

 ミーナはそう言うと竜人に飛び付いてきて、エリスと共に一緒に抱き締めていた。


 エリスは苦笑して、竜人は「ごめんごめん。」と言ってミーナの頭も撫で始める。

 こうして、久し振りの三人の時間は幸せなまま過ぎていった。


 そして、竜人は次なる戦いの舞台へと備えていくのだった。

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