第59話
闘技場から戻った竜人を出迎えたのは、ラビアたち三人とミロとマリアナであった。
「竜人、すげえ技だったな! なんだありゃ? 素手で剣を受け止めようなんて普通しないぞ。」
ミロは、白刃取りを見せた竜人に興奮ぎみに話し掛けてくる。
「そんな大したものじゃない。剣の刃は潰れているし、相手があの程度だったからな。実戦ではまず使えない技だしな。」
相手の武器にどんな仕掛けがあるかわからない状況では、間違いなく使おうとは思わない一種の魅せるための技であった。
「たが相当の技量を要するものだろう? か~っ! みなぎって来たぜ!」
ミロは落ち着かない様子を見せるが、竜人は無視をするとティーナに話しかける。
「ティーナあまり無理はせずにな。」
「はい、ありがとうございます。」
ティーナは棍棒を持つと、出番に備えていた。
「ティーナ、怪我には気を付けてね。」
ラビアたちもティーナとそれぞれ話し合っていた。
そして、第三ブロックの試合の番が回ってくる。
「それでは行ってきます。」
ティーナはそう言うと、マリアナと共に闘技場へと上がっていった。
「ティーナお姉ちゃーん! 頑張ってー!」
「ティーナさん、頑張って下さい。」
観客席からは、ティーナを応援するミーナとエリスの声が聞こえてくる。
ティーナは手を上げそれに応えると、マリアナと対峙する。
「これより予選二回戦第三ブロック第一試合を始めます。両者とも準備はいいですか?」
審判が両者に問い掛け、問題がないことを確認する。
「それでは始め!」
試合開始の合図と共に、先に仕掛けたのはティーナからであった。
「ハァ!」
ティーナは棍棒を使い、相手の剣の間合いの外からマリアナに連続の突き攻撃をする。
マリアナは棍棒の突き攻撃を躱すと、間合いを詰めて剣を振り下ろしてくる。
ティーナは、敢えて真正面からは受け止めず棍棒で剣筋を斜めに逸らすと、今度は凪ぎ払いを仕掛ける。
ガキン!
マリアナは、凪ぎ払い攻撃を剣で受け止める。
急かさずティーナは、連続の凪ぎ払いを打ち込み相手を防戦に持ち込ませようとする。
しかし、攻撃が緩んだ僅かな隙に間合いを詰められてしまう。
ティーナは、棍棒を剣のように持つと鍔迫り合いのようになり両者の動きが止まる。
「なかなかやりますね。本当に弓士なのですか?」
「それはどうも。すべて竜人様の指導の賜物です。」
二人は、一旦息を整えるように話をしていた。
「ティーナの姉ちゃんはなかなかやるねえ。あのマリアナとまともに打ち合えるとは、とても弓使いのものとは思えないぜ。」
ミロが二人の戦いの様子を見て、そんな感想を漏らした。
「棒術の持ち味は、なんと言っても変幻自在の型にこそある。扱い方次第で、槍、薙刀、剣といった特性を持つ。そして、得物の軽さは誰にでも扱いやすいからな。しかし・・・。」
再び二人が距離を取ると、ティーナは突き攻撃の動作に入る。
しかし、完全には突きをせずにすぐさま棍棒を引くと下段払いをマリアナに仕掛ける。
マリアナが下段払いをジャンプして躱すと、上段から打ち込んできた。
ガキン!
ティーナは棍棒を一文字にして上段受けをする。
しかし、マリアナは力付くで押し通そうとしてきたため、力の差でティーナが段々と圧されていく。
「くっ!」
ティーナはマリアナに蹴りを仕掛ける。それを察知したマリアナは、剣を引くとティーナの蹴りを躱した。
『さあこの試合、女性同士でありながらもなかなか激しいぶつかり合いになってきました。まさに、両者共に息をつかせぬ戦いとなってきました。』
解説者の言葉に、観客席からも歓声や応援の声が飛ぶ。
「さて、そろそろ決着を着けましょうか?」
「簡単にはやられるわけにはいきません。竜人様やお嬢様方も観ておりますし。」
マリアナの言葉にそう答えたティーナ。
今度はマリアナからの攻撃に、ティーナは防戦一方に追い込まれていく。
ティーナも、必死に攻撃を逸らすと懸命な粘りを見せるが、マリアナの連続攻撃を受けて棍棒を弾き飛ばされてしまう。
眼前に迫ったマリアナの剣に、ティーナは降参のジェスチャーを取る。
「勝負あり! 勝者マリアナ選手。」
健闘を讃える観客からの歓声と拍手を背に、ティーナとマリアナは闘技場を後にした。
「お疲れ様ティーナ。」
「なかなかいい戦いだったよ。」
ラビアとリジィーの言葉に出迎えられたティーナ。
「申し訳ありませんでした竜人様。」
「謝ることはないよ。ティーナはよく頑張ったじゃないか。メインの武器じゃない上、鍛練を始めてからまだ一ヶ月がたった位だしな。今回は練度の差が出てしまったな。」
竜人は、ティーナを慰めるようにそう語った。
棒術は確かに変幻自在の型をもつが、同じ型なら専用の武器には及ばない。相手の実力と、ティーナの棒術の型の熟練度では明確な差が出てしまった。
元々棒術は、防衛戦をメインに教えたことも影響したのだろう。
竜人は、今後の課題について模索することにした。
「マリアナ、結構手間取ってたみたいだな。」
「ええ、弓士に接近戦でここまでやられるとはね。ミロ、あんた油断していると竜人さんと当たる前に、彼女たちに足元掬われるかも知れないわよ?」
マリアナはミロへと忠告をしていた。
ミロは不敵な笑みを浮かべると、己の試合の番を待つことにした。
そして、ミロの予選第二回戦の試合が始まる。
闘技場の中央で対戦相手と睨み合う二人。
「私を相手に素手とは舐められたものだな。」
「俺の戦闘スタイルは格闘戦だ。それに、あんたに手甲を使っちゃ虐めになって仕舞いそうだしな。」
ミロは本心から語ったのだが、相手にとっては挑発行為以外のなにものでもなかった。
「その減らず口が最後まで叩けると良いがな。」
相手はそう言うと、槍を構える。
「始め!」
審判の開始の合図と共に、槍使いは連続の突き攻撃を繰り出す。
ミロはそのすべての軌跡を把握すると、紙一重に躱していく。
「くそっ!」
相手は頭に血が上っているのか、動きに無駄な力が入っているように竜人には見えた。
凪ぎ払い、打ち下ろし、石突きでの攻撃を繰り出していく。練度で言えば、ティーナのそれよりも遥かに高いものであったが、ミロはことごとくを躱す。
息つく暇もなく繰り出した攻撃だったが、相手の疲労が濃くなって行くにしたがい打ち込んできた動きが鈍くなっていく。
ミロは、その隙を逃さず一気に間合いを詰めると鳩尾に強烈な一撃を繰り出した。
「ぐあぁ!」
その一撃に耐えられなかった相手は、意識を手放すと闘技場に倒れ伏した。
「それまで! 勝者ミロ選手。」
終わってみれば圧倒的な戦いであった。
相手も、もう少し冷静なら違った流れになったかもしれないが、ミロの明らかに手加減したそれを見るとやはり難しいか。
そう竜人は、先程の戦いを分析していた。
絶対に負けるわけにはいかない対戦相手に、竜人は情報収集に余念がない。
だが、それは相手も同じだった。まさかの妹の発言に、ミロの方も決して竜人に負けるわけにはいかなくなってしまったのだ。
戦いが終わりミロが闘技場から戻ると、竜人と視線がぶつかり合っていた。
お互いに本選での戦いを想定して、力量を正確に測ろうと躍起になっていたのだ。
ここに、互いの
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