第52話
ギルド内のざわめきから逃げるようにして、竜人たちはギルド長室へと案内されていた。
「失礼します。竜人様とパーティーメンバーの方たちをお連れしました。」
「入れ。」
竜人たちはギルドマスター室に入る。
「ようこそ、私はここのギルドマスターをしているダーレンと言う。お主たちがクラーケンを討伐したものたちか。先程のギルド内でのことは申し分けない。お主たちには迷惑をかけたな。」
中にいたのは五十代と思われる男性であった。帝国の本部のギルドマスターにしては、比較的若いように竜人には感じられた。
それも、どちらかと言えば冒険者上がりではなく、事務方のように思われた。
「いえ。それにクラーケン討伐は、みんなの協力があってのものですので私たちだけの手柄ではありませんが。」
竜人はダーレンへと答えた。
「クラーケン討伐の詳細報告については聞いている。お主たちのランクアップについてはすでに協議済みだ。後程、サリー君に手続きをしてもらってくれ。」
「ありがとうございます。」
ダーレンの説明に承諾した竜人。
「ところで、竜人君は武闘技大会に出場するために帝国に来たと聞いているのだが、間違いはないのかな。」
「ええ、私とこちらの三人が出場する予定です。」
竜人はラビアたちを示してダーレンへと紹介する。
ダーレンはリビアたちに視線を移すと、再び竜人に向き直る。
「もしよければ、クラーケン討伐の功績により予選出場を免除し本選からの出場も可能だがどうする?」
竜人はダーレンの言葉に、ラビアたちを一度見てから答えた。
「いえ、私たちの目的は経験を積むことにあります。できるだけ多くの人と戦う機会があった方が、実力もついていくと思いますので予選から参加したいと思います。」
「そうか、お主たちがそれでよいならそうしておこう。サリー君、後でこの者たちの大会参加の手続きをしておいてくれ。」
ダーレンは、横に控えていたサリーに指示をする。
「ご配慮、ありがとうございます。」
「別に構わない。これくらいは大した事じゃない。それでは、サリー君にギルドカードの手続きをしてもらっている間は、応接室を使っていてくれ。ギルドを出るときは裏口からが良いだろう。サリー君、あとを頼む。」
サリーはダーレンの言葉に了承すると、竜人たちを応接室へと案内する。
しばらくお茶を飲んで過ごしていると、サリーがやって来た。
「お待たせしました。こちらが皆様のギルドカードになります。」
竜人たちはギルドカードを手に取ると、確認をする。
ランクはそれぞれ、Aランクが竜人、Bランクがエリス、Cランクに残りのみんなというようになった。
ミーナはクラーケン戦には参加をして居なかったからとして、エリスはおそらく回復魔法による治療の功績だろう。
ラビアたちは、今日まで奴隷の身分だったことから上限のCランクになったのだろう。
それにしても、竜人たちのランク上昇スピードは異例のことだった。
「それと竜人様たちの大会出場のカードです。大会は五日後になりますのでお忘れなく。」
「サリーさん、ありがとうございます。」
竜人たちはそう言うと、ギルドの裏口より出ていくことにした。
「竜人様、これからどういたしますか?」
御者を務めるラビアより声がかかる。
「先ずは宿を探すとしよう。宿が集まる通りまで頼む。」
「了解しました。」
そう答えるとラビアは馬車を走らせた。
竜人たちが宿の集まる通りに馬車を走らせていると、竜人の視界にはトラブルの様子が写った。
すぐさま馬車を飛び降りると、その場所へと駆け付ける。
「んだよばばあ。どこに目をつけてんだ。」
ドン!
そう言うと大柄な男は、年老いた女性の身体を突き飛ばす。
竜人は突き飛ばされた女性の身体を受け止める。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、すまないねぇ。」
女性の声にとりあえず大丈夫そうだと一安心した竜人は、怒りの籠った目で男を睨み付ける。
「なんだお前は! なんか文句でもあるのか?」
「これがお年寄りに対してやることか!」
竜人が怒鳴り付けると、男たちの仲間も集まってくる。
「俺たちに喧嘩を売るとは良い度胸だ。どうやら俺様を知らないようだな。俺様は、前回の武闘技大会本選出場をした冒険者ランクCのゴードリー様だ。今謝るのなら痛い目には会わなくてすむぞ。」
ゴードリーは竜人にそう言うと、嗤っていた。
「なんだその面は!」
しかし、それを聞いても特に反応を示さない竜人に、苛立ちをつのらせたゴードリーは拳を振り上げて来た。
竜人は女性を後ろに庇うと、ゴードリーの攻撃に反撃をしようとする。
「おっと、そいつはいただけねえな!」
突然竜人とゴードリーの間に飛び込んできた男は、そう言うとゴードリーの拳を受け止める。
(速い!)
竜人は、気付かぬ内に自分の間合いに入ってきた男を見て瞬時に警戒をする。
竜人の目の前に現れたのは、狼獣人の男であった。
「おいおっさん、なんだこの拳は。軽すぎて話しになんねーよ。大体、その年でCランクなんて全然自慢にならねーぞ。」
「なに!」
「パンチってのはこうするんだよ!」
獣人の男はそう言うと、ゴードリーのみぞおちに拳を打ち込む。
「ぐへぇ。」
それを見たゴードリーの仲間の男たちも、戦いに加わろうとしていた。
しかし、それを阻止したのはラビアとリジィーであった。
「ぐわぁ。」
ゴードリーの仲間たちは行動不能に陥った。
「おう、姉ちゃんたちありがとうよ。さて、お前のお仲間はおねんねしたが、お前はどうする?」
「くっ、くそ! 覚えてやがれ。」
ゴードリーはそう言うと、倒れている仲間たちを起こして逃げ出していった。
その様子を見送ったミロは竜人たちに話し掛けてくる。
「俺はミロって言うんだ、よろしくな。いやぁ、姉ちゃんたち見かけによらず強いね。」
「手助けに感謝するよ。」
竜人はミロに庇ってもらったお礼をする。
「いやぁ、余計なお世話ともおもったんだけどあいつらの行動が見てられなくてね。弱者をいたぶるなんざ、男のやることじゃねえからな。」
「竜人様、大丈夫ですか?」
ラビアとリジィーが竜人の元に来る。
「ああ、二人ともありがとう。」
竜人にお礼を言われて笑顔になる二人。
「それにしても、随分と強い仲間がいるんだな。流石はクラーケンを倒したパーティーだけはあるな。」
そう言ったミロに、竜人たちは警戒感を顕にする。
「おっと、別にあんたたちに何かをしようってんじゃないからそう身構えないでくれ。さっきギルドでのやり取りを見ていただけだ。」
ミロはそう説明する。
「ミロ、一人で勝手に飛び出していかないでよ。」
「お兄ちゃん、人様に迷惑はかけちゃ駄目だよ。」
「勝手に行ったのは悪かったよマリアナ。それとコーリー、少しは兄ちゃんを信用してくれ。」
どうやら、ミロの仲間たちがやって来たようだと竜人は思った。
「あっ、あなたたちは!」
マリアナが竜人たちを見て驚いた様子を見せた。どうやら、彼女たちも竜人たちを知っているのだと理解した。
(これは予想以上に俺たちの事が知られているのか。エリスやミーナのことは何時もより気を付けないとだな。)
「兄さん、お婆さんが少し身体を痛めていましたので治療の方をしました。」
竜人が一人考えていると、そう言ってエリスが竜人の元へとやって来た。
「美しい・・・。」
何やら不吉な単語が聞こえた竜人は、ミロの方を見る。
「お嬢さん、もしよければ私と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
片膝を着いて、エリスに声かけをするミロ。
『はぁ~!』
何やら一波乱ありそうな予感がする竜人であった。
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