第39話
王都を出立してから三週間程が経過した竜人たちは、その間魔物たちの襲撃などもあったが、特に負傷することもなく順調な旅が続いていた。
「ティーナ、奥からキラービーの一団がやってくる。こちらに来る前に数を減らしてくれ。」
「了解しました。」
竜人の指示に、ティーナは馬車の屋根に上ると『遠矢射る』と『簡易魔造矢』を発動すると次々と敵を撃ち落としていく。
竜人たちは現在、何度目かの魔物の襲撃を受けていた。
馬車を囲むように竜人・エリス・ラビア・リジィー・アルが陣形を取ると、接近してくるゴブリンやフォレストウルフたちを撃退していく。
エリスは身体能力の上昇と鍛練により、ランクCまでの魔物なら魔法なしでも棒術のみで討伐可能になっていた。
ピピは遊撃として、上空より接近してくる敵の殲滅を引き受けていた。
ミーナもゴブリン程度なら撃退は可能なのだが、念のためクーと共に馬たちの護衛に入ってもらっていた。
「竜人様、こちらの敵は片付きました。」
「分かった、エリスの方の援護に行ってくれ。」
リジィーの報告に指示を出す竜人。
やがて全ての魔物を殲滅し終えた竜人たちは、魔石の回収と死体の後始末をして再び馬車を走らせた。
「それにしても、魔物たちの襲撃回数もだが襲撃数自体も多くなっているな。」
「そうですね。そのせいで町で売っているものの値段も、以前よりも高くなってきているようです。」
ラビアが答える。
(これも魔王復活が近づいている影響なのか。)
竜人は一人考えていると、御者をしているティーナから声がかかる。
「竜人様、もう少しで分かれ道になります。港町のパールロイ方面でよろしいですね。」
「ああ、頼む。」
南のメルクヌス大陸から西のネクベティー大陸へと進むには、二通りの方法がある。
一つは、話にあった港町パールロイより船にのり渡る方法。そして、もう一つがメルクヌス大陸を大回りをして山脈を越えて行くという方法であった。
後者については、地続きで行けるのだが山脈を越えるのは時間、体力、魔物の襲撃と様々な困難がありこのルートは余程のことがなければ選択はされない。
前者のルートについては、金銭面がネックにはなるが比較的に安全なルートとされている。
今回、竜人たちは時間的な制約から前者を選択することとなった。
「お兄ちゃん、もうすぐ船に乗れるの?」
ミーナが竜人に尋ねてきた。
「そうだな、あと二、三日中にはパールロイに着くと思うから、そうしたら乗れるよ。」
ミーナは竜人の言葉に目を輝かせる。
「わぁ、船に乗るなんて初めてだから楽しみだね。」
ミーナはアルたちに話し掛けると、鳴き声を上げてミーナに同意を示していた。
「でも、船に何かあったら・・・。」
エリスは船に乗るのに少し不安を感じているは様子だった。
「大丈夫だよ。滅多なことは起こってないし、できるだけ大きくて丈夫な船を選ぶようにするからさ。」
竜人はエリスを安心させるように告げる。
竜人は、船については妥協をするつもりはなかった。馬車を載せなければならないため、もともとある程度の大きさは必要だったし、何かあったときには海の上では対処が限られてしまうため、金に糸目はつけないつもりであった。
竜人の言葉に少し落ち着いたのか、エリスの表情から緊張が軽減される。
「竜人様は船に乗ったことはあるのですか?」
リジィーが竜人に質問をしてきた。
「そうだな。こっちでは無いが、向こうの世界ではフェリーというものには乗ったことはある。せいぜい1、2時間くらいの間だから、今回のように数日船の上ということはないが。」
竜人は向こうの世界での様子も交えて説明をする。
メーナスの船の場合は、小さい船は人力等だが大きな船になると動力に魔石を使ったりしているらしい。動力の違いはあるが、ここら辺は向こうの世界とさほど違いはないらしい。
大きさも大きいものでは、フェリー位の大きさを誇っているとのことだ。
「でも、初めての船となると船酔いが心配だな。」
「そうですね。初めての経験で、長時間の乗船は辛いですね。」
ラビアが頷く。
「そう言えば、エリスのキュアは船酔いにも効くのかな?」
「どうでしょう。使ったことがないのでわかりませんが、いざとなったら試してみます。」
「まあ、念のために酔い止め薬は買っておくか。」
竜人は船酔いの経験はなかったのだが、親友が昔船酔いで大変なことになった経験上、予防はしておこうと考えていた。
そうして、数日が経ちようやく港町パールロイに到着した。
港町だけあり人、特に行商人が多く見られた。
「まだ昼までに時間があるから、先に船の予約と宿を確保しようと思う。それでいいかな?」
竜人がみんなに確認すると、特に異議がなかったことから船の管轄をしている商業ギルドへと向かった。
商業ギルドに入ると、商人はもとより竜人たちのように船でネクベティー大陸へと渡ろうとする人たちもおり、なかなかの賑わいを見せていた。
とりあえず船の予約をする窓口へと並ぶこと三十分、ようやく竜人立の番になった。
「大変お待たせしました。ご用件は船の予約でよろしいでしょうか。」
「はい。人数は六人で、あと馬車を載せていきたいのでなるべく大きくて丈夫な船をお願いしたいのですが。それとペットに動物もいるのですがそちらも乗船可能なものをお願いします。」
竜人が要望を伝えると、要望を書き込んだ用紙と船の情報を見比べていき一隻の船を紹介される。
「現在航海中で、到着予定は二日後となっております。こちらでよろしいでしょうか?」
竜人は船の情報を確認し、エリスたちにも用紙を渡して見てもらった。
乗船可能な人数が百人と、なかなかの大きさを持つものでネクベティー大陸までは四日間とのことだった。
料金は、一人金貨五枚と馬車が金板二枚の料金だった。
竜人たちはその船の予約をすると、その場で料金を支払った。
「はい。ありがとうございます。こちらがチケットになります。無くされますと再発行が出来ませんのでお気をつけください。また、出航は三日後の十時となっております。乗り遅れの無いようにお願いします。」
「どうもありがとうございました。」
竜人はそう言うと、商業ギルドを出て宿屋を探すことにした。
運良く一件目で予約がとれると、丁度昼食の時間になる。
折角なので外で食べようという話になったので、店を探しがてら海の方へと向かった。
「うわー、すごく大きいねー。」
ミーナが海を初めて見て、アルたちに興奮するように話し掛ける。
エリスも海を見て思わず目を奪われるように見ていた。
初めて海を見る時のリアクションは、世界が変わっても同じということかと竜人は思った。
竜人も海のないところで育ち、初めて見たのが小学生の頃に両親に連れられてだった。
あのとき見た景色や潮の匂いは、今でも脳裏に焼き付いていた。
そんな事を考えていると、リジィーが海の魚に目が釘付けになっていることにきづいた。
「ひょっとしてリジィーは魚が好物なのか?」
声をかけられたリジィーは、竜人の方を見ると顔を赤くして「はい。」と頷く。
なるほど、流石は猫獣人。などと竜人は思ったが、顔には出さずに昼は海の幸をたっぷりと堪能することにした。
リジィーの喜んだ顔を見て、竜人は魚介類を大量に買い込むことにした。
(イカやタコみたいなものもあったし、これでたこ焼きやお好み焼きなんかも作れるかもな。)
みんなの喜んでくれる顔を思い浮かべながら、竜人はどんな料理ができるか思案をしながら買い物を続けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます