第35話
酒場を出た竜人はジャックと別れることになった。
「今日はありがとうな。まあ、にーちゃんも元気を出せ!」
ジャックは竜人の肩を叩くとその場を後にした。
竜人はあれから結構な時間が過ぎたことを確認すると、エリスたちと別れた場所まで戻ることにした。
やがてエリスたちの幼馴染の店まで戻ってきた竜人は、店の前にいるエリスとコルビーが何やら言い争いをしている場面に遭遇した。
「だから、エリスは騙されているかも知れないだろ。いきなり会った人間の兄妹になって、危険な旅にまで付き合わされてるなんて!」
エリスがコルビーを睨み付けるように言う。
「何で何も知らないコルビーに兄さんのことを悪く言われないといけないの。兄さんは私やミーナを奴隷から解放してくれて、いつも危険なときに命を張って助けてくれたのよ!」
エリスの言葉にミーナやラビアたちも、コルビーを睨み付けるように同意していた。
コルビーは気圧されながらも、なお反論する。
「それでもなにか目的があってしているだけかもしれないじゃないか。俺はただエリスやミーナが心配なだけなんだよ。ここに居ればもう危険な目に遇うこともないし、生活だって俺が面倒見てやるから。」
エリスはコルビーに拒絶するように告げる。
「私もミーナも兄さんからは離れません。それにコルビーに面倒を見てもらう気もありません。」
竜人はエリスたちのもとに行くと、どうしたんだと聞いた。
「貴方が竜人さんですね。エリスたちのことを助けてくれたことには感謝していますが、もうこれ以上エリスたちを危険なことに巻き込むのは止めてもらえませんか?」
コルビーは竜人を見るとそう告げてくる。
「コルビー!」
エリスはコルビーに怒ったように言う。
竜人はコルビーの言わんとしてる事を察して、コルビーの方を向くと答えた。
「俺は別にエリスたちの行動を制限するつもりはないよ。エリスたちが王都に残ることを望んだのなら、俺にはそれを止めるつもりはない。もともとこの旅は俺の都合でしているものだから。」
そう言うとエリスたちの方を向く竜人。
「ほら、竜人さんもこう言っているじゃないか。エリスはもう危険なことをしなくてもいいんだよ。」
コルビーは我が意を得たりと言うようにエリスに言う。
しかし、エリスはコルビーの言葉を聞いていなかった。ただ竜人の方を向くと涙を浮かべて言った。
「何でそんな事を言うんですか? あの時約束したじゃないですか。私やミーナを置いていったりしないって! 何でコルビーに何も言い返してくれないんですか。」
竜人はエリスの言葉に何も答えられなかった。
「エリス、俺は・・・・・・。」
「兄さんなんかもう知りません!」
エリスはそう叫ぶと一人町中へと走って行ってしまった。
ドン!
竜人は後ろからの衝撃に振り返ると、そこにはミーナが泣きながら竜人の背中を叩いていた。
「お兄ちゃんのバカ! どうしてお姉ちゃんや私の気持ちが分からないの? そんな意気地無しなお兄ちゃんなんか大キライ!」
ミーナの言葉に何も言葉は出てこなかった。ミーナは泣きながら竜人を見つめ、動物たちは怒ったように竜人に向かって鳴いていた。
やがてティーナが竜人のもとまでやって来ると、ミーナを抱き締めるとあやしながら竜人に話しかけた。
「竜人様、僭越ながら言わせてもらいます。今すぐにエリスお嬢様を追って下さい。ここで動かないのは男が廃ると言うものですよ。」
ティーナの得も言われぬ迫力に若干気圧された竜人は、エリスの走っていった方を見つめる。
「ミーナお嬢様は私たちに任せてください。」
「竜人様はお早く。」
リジィーとラビアも竜人に迫ってきた。
「ミーナの事を頼む!」
竜人は意を決して走り出す。
(エリス、何処だ!何処にいる?)
竜人は懸命に走り続けエリスを探し続ける。
すると何かに引き寄せられるように、竜人の足は勝手に中央の噴水のある広場の方へと向かっていった。
やがて広場にたどり着いた竜人は、ベンチに座りうつ向いているエリスの姿を確認する。
竜人は速度を落とすと、ゆっくりと歩きながらエリスの傍まで行き隣へと座った。
しばらく何も言えなかった竜人だったが、意を決したようにエリスへと語りかけた。
「エリスごめんな。別に俺はエリスたちと別れたい訳じゃないんだ。ただ、このまま俺と一緒に居たらこの間のゲイルードの時のような事がまたあるかもしれない。あの時は姉さんが助けに入ってくれたから結果的に助かったが、今度また同じ事が起きたときには命の保証はない。俺にはエリスたちを護りきれるだけの力がまだないんだ。」
竜人は空を見上げると言葉を選びながら告げた。
「でも俺が間違っていたよ。それは結局エリスやミーナに対する責任からただ逃げるための言い訳にすぎないと。ある人から言われたよ、何から逃げるためにした判断はいつか後悔するって。エリス、俺は・・・・・・。」
竜人が続きを話そうとしてエリスの方を向こうとすると、突然エリスの唇が竜人の唇と重なり合った。
竜人は思わず目を見開く。しばらくするとエリスは竜人から唇を離すと、今度は恥ずかしそうにうつ向いてしまう。
「これは兄さんに対する罰です!約束を破って私やミーナから離れようとしたんですから。」
竜人は思考停止したままエリスを見つめていた。
「兄さんの気持ちは分かっているつもりです。私やミーナのことを護るために離れようとしたことも。兄さんが死にそうなとき私には何も出来なかった。本当は自分の無力さが一番許せなかった。兄さんのことを責める資格なんか私にないことも分かってます。」
エリスの目からはまた涙が溢れてきた。
「違う。エリスは悪くない。俺がエリスたちから逃げようとしたのが悪かったんだ。」
竜人はエリスを優しく抱き締めながらそう告げた。
しばらくの間そうしていると、漸く落ち着いたエリスからは涙が止まっていた。
「兄さん。今度こそ約束します。私も兄さんを支えられるように強くなります。」
「ああ、俺もだ。誰であっても皆を護れるくらい強くなる。そしてエリスたちを二度と置いていったりしないと。」
二人は抱き締め合いながら、やがて自然と顔が近づいていった。
もう少しで唇がくっつく寸前で竜人は背中に悪寒が走った。
「いっ!」
素早く振り向き周囲を確認するも、特に怪しい人は確認できなかった。
「に、兄さん行きなりどうしたんですか?」
エリスは行きなりの竜人の行動に驚きの表情を浮かべた。
「いや、何でもない。少し寒気がしたんだ。」
「そうですか。」
エリスは少しがっかりしたような、ホッとしたような表情で答えた。
「兄さん。そろそろ戻りましょう。ミーナたちも心配してると思いますし。」
エリスは立ち上がり竜人の手を取る。
「ああ、そうだな。」
エリスに笑顔を向けると竜人は立ち上がり、ミーナたちのところへ戻っていった。
その様子を少し離れたところから観察していた少女がいた。
(ふう~、エリスもなかなかやるわね。いきなりキスをしたのには流石に驚いたわ。でも、竜人も雰囲気に流され過ぎじゃないの。いくら血が繋がらないとは言え、妹にキスしようとするなんて不純異性交遊は未成年の間はお姉ちゃんが許しませんからね。)
しばらく様子を見ていたが、流石に二度目のキスしようとしたところで思わず殺気を飛ばしてしまった。
神メーナスは、恐らく諦めた様子で舞の様子を見ているだろう。
こうして、舞の活躍(?)により竜人の不純異性交遊は阻止されたのだった。(柳舞・談)
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