第33話

 翌朝、報告のために王都冒険者ギルド南支部に訪れた竜人たちはギルドマスターの部屋へ通された。

 部屋に入るとレクシーが竜人に話し掛けてきた。

「竜人、調査の話は聞いている。いろいろとすまなかったな。まさか魔族が絡んでいたとは思わなかったが、よく無事に戻ってきてくれた。」


「いえ、仲間たちの協力がなかったら危ないところでした。」

「そういえば見慣れない者たちがいるが、新しい仲間なのか?」

 レクシーが竜人に問い掛けてきたので、仲間になった経緯を説明することにした。


「そうか、お主はよくよくトラブルに遭遇するな。」

 レクシーは思わず竜人にツッコミを入れていた。竜人は苦笑いしながら、今回の調査についての本題にはいることにした。


「それで、レクシーさん。実は話しておきたいことがあるのですが。」

「改まってどうした? 気にせず話してみろ。」

「はい、今回の調査の件ですが実はまだ話していないことがあります。」


 思わず眉を潜めたレクシーだったが、竜人に先を促した。

「実は私たちが倒した魔族以外にも、もう一人魔族の存在がありました。そいつは自分のことを六魔将軍の一人、魔導師ゲイルードと言っていました。」

「何!六魔将軍だと!それは本当か?」


 驚愕の表情を浮かべながらレクシーが確認をして来た。

「恐らくは。私たちがやっとの思いで倒したキマイラよりも圧倒的に強く、そのキマイラすらも捨て駒扱いしていましたから。」

「しかし、それが本当ならよくお主ら生きて帰ってこられたな。」


 当然の疑問を浮かべたレクシーに竜人が説明をした。

「はい、実は殺られる寸前まで追い詰められたのですが、私の姉が撃退してくれたのです。」

「お主の姉が見つかったのか? しかし、六魔将軍を撃退するほどの力の持ち主とは、一度会ってみたいものだが今は何処にいるのだ?」


「それが、六魔将軍を撃退したのち転移魔法で何処かに行ってしまいました。姉の話では魔族に対抗するために行動しているそうです。実は私が倒したザルモの目的は、魔王の封印を解くために各地に隠されている八つの宝玉を集めることだったようです。宝玉はゲイルードに回収されてしまったので、証拠となるようなものはないのですが。」


 竜人は、ベレノス迷宮の町のギルドでは話さなかった真実をレクシーに告げた。

「お主は姉とともに行動しなかったのか?」

「ええ、今私が着いていったとしても足手まといになるのが落ちですからね。」


 レクシーは溜め息を着くとしばし考え事に浸っていた。

「事は予想を遥かに越えて最悪の事態というわけだな。しかし、お主の証言だけでは周りを動かすには説得力が弱いな。」

「ええ、ただのCランク冒険者の話では、そもそも六魔将軍に遭遇して生きの延びていることが可笑しいと思われるでしょう。ザルモのほうは死体が残っていたのでまだ良かったですが、ゲイルードの件を話せば私たちに何らかの疑惑が掛けられかねないですからね。」


「それでゲイルードの件については報告をしなかったわけだな。確かにお主のことをよく知らなければ、世迷い言だと言う輩も居るだろうな。」

「信じていただけるのですか。」

 竜人はレクシーに問う。


「お主がそんなしょうもない嘘をつくとは思っていないよ。」

「ありがとうございます。」

「この件は私の方で、伝を頼って少し調べさせるとしよう。」

「それではよろしくお願いいたします。」


 竜人はレクシーに頭を下げると、部屋の外へと向かう。

「うむ、ご苦労だった。帰りにカーラの所へ行ってくれ。報酬の件は伝えてあるのでな。」

「はい、では失礼します。」


 ギルドマスター室を後にした竜人たちは、カーラに会いに行くと報酬として白金貨二枚を受け取る。

「皆さん無事でよかったです。まさか魔族が関わっていたとは、こんな大事になるなんて思いませんでした。」

「ええ、新しい仲間たちも居ましたのでなんとか生き延びられました。」


 竜人はラビアたちの紹介をすると、今日のところは休みを取ることにして久々に孤児院でステラやケイミーに会いに行くことを提案した。

「久しぶりにケイミーちゃんと遊べるね。」

 ミーナがアルたちに言うと皆嬉しそうに鳴いていた。


 折角だからと差し入れにケーキを人数分購入すると、孤児院に向かった。

 道中でラビアたちに、孤児院のステラやケイミーに出会った経緯などを説明をしていると孤児院に到着する。


 孤児院の庭では、ケイミーや小さな子達が遊んでいる姿があった。よく見ると孤児たちが来ている服は、以前のくたびれたものではなく町の人が着ている普通の服に変わっていた。

 竜人が声をかけると、それに気づいたケイミーは笑顔で竜人たちの元にやって来た。


「竜人お兄ちゃん、エリスお姉ちゃん、ミーナお姉ちゃん久しぶり。何処かに行ってたの?」

「ああ、依頼で王都から離れていたんだよ。それにしても見違えたな。」

 竜人はケイミーに答えながら孤児院を見ると、新しくペンキを塗り直したのか建物が以前とは見違えてきれいになっていた。


「うん!中のほうも直されててまるで新築みたいだよ。竜人お兄ちゃんありがとう。」

 ケイミーにどういたしましてと伝えると、頭を撫でた竜人はケイミーに聞く。

「ステラさんは中に居るかい?」

「居るよ。竜人お兄ちゃん中に行こう。」


 ケイミーに手を引かれながら竜人たちは孤児院の中に入ることにした。

「竜人さん、皆さんもよく来て下さいました。」

 中に入ると内装もかなり良くなっており、普通の家と遜色のない様子だった。


「ご無沙汰してました。少し依頼を受けて王都の方から離れていましたので。ステラさん、その後孤児院のほうはどうですか?」

 竜人は孤児院の内情について聞くことにした。


「はい、お陰さまで子どもたちはエーマンさんからオセロ作成の手伝いという事で仕事をもらえ、孤児院のほうも改装していただきました。エーマンさんには困ったときには相談に乗っていただけることも約束してくださいました。全て竜人さんのお陰です。」


「いえ、俺に出来ることをしただけです。それに何時までも王都には居ることはできませんから。」

 竜人はミーナやエリスたちと楽しく話しているケイミーの方を見ていた。


「皆、少し子どもたちと一緒に遊んでてもらえるかな。」

 竜人はエリスやラビアたちに言うと、ケイミーに手を引かれて外で他の子どもたちと一緒に遊びにいった。


「そうですよね。竜人さんは冒険者なのですから何れはここを離れるときが来ますよね。ケイミーも寂しがりますね。」

「ええ、すみません。俺にはやらなくてはいけないことがありますので。」


 竜人は外の様子を眺める。そこには子どもたちと楽しそうに遊んでいるエリスやミーナたちの笑顔があった。

(ねーちゃんに会うことは出来た。後はおれ自身が強くなってねーちゃんに追い付くことだけ。でも、エリスやミーナたちをそれに付き合わせることはないんじゃないか? ここにいればもう命の危機に合うこともなく幸せなんじゃないか?)


 竜人が外を眺めて少し暗い表情を浮かべていると、ステラが話し掛けてきた。

「竜人さん、何かあったのですか?」

 竜人はステラの方を向くと話始めた。


「いや、エリスたちが楽しそうだなと思いまして。このままここに居れば幸せに過ごせるんじゃないかと思いまして。」

 ステラは少し考えると口を開いた。


「確かに楽しそうにしています。でもそれは竜人さん、貴方がそばに居るからなんだと思いますよ。私には冒険者のことは分かりませんが、それでも好きな人の傍に居たいと思う気持ちは理解できます。」


「それが命を落とす危険があってもですか?」

 竜人はステラに尋ねる。

「ええ、例え命を落とすと分かっていてもです。一番辛いのは好きな人と離ればなれになって、その人が辛いときに一緒に傍にいてあげられないことですから。」


 竜人はエリスたちの笑顔をずっと見つめていた。

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