第25話
「皆そろそろ出発するよ。なんとか今日中に迷宮から脱出したいからね。」
「は~い。」「分かりました。」「はい。」
それぞれ返事を返してきて立ち上がる。
「ラビアたちはまだ病み上がりだから無理をせずに防御に専念してくれ。陣形は今までと変わらずに行く。エリスとミーナの後ろにラビアたちは付いて来てくれ。周囲の警戒だけはしてくれ。」
そう言うと上の階層を目指して最短ルートで移動を開始した。その後、何度か戦闘を行ったが特に異常も見られず進むことができた。
「竜人様、足手まといでごめんなさい。」
リジィーが竜人に話し掛けてきた。
「気にするな。戦闘経験が余りないんだからしょうがないさ。町に戻ったら皆に少し稽古をつけてやる。ステータス能力は高いから三人ともコツさえつかめばすぐに強くなれるよ。」
竜人が優しく話しかけると三人は安堵した様子だった。
そして、漸く十階層まで戻ってきた竜人たちは転移装置を使い迷宮から脱出することができた。
外にでると日が暮れており、時間は18時を回っていた。
「夕食は何処か店で食べていくか。」
「お兄ちゃん、あそこから美味しそうな匂いがするよ。」
ミーナに言われてそちらを見ると何やら麺にソースをかけて焼いており、何とも言えない香りが漂ってきていた。
「あれは焼きそばみたいなものか? 皆夕食はあそこでいいかな?」
「美味しそうですね。私も食べてみたいです。」
エリスが言うと、ラビアたちも賛成してくれたので店の中に入ることにした。
「おー、味付けが少し違うが焼きそばを食べれるなんて感激だ。」
竜人は久々の焼きそばを堪能していた。
「兄さんはこの料理食べたことがあるんですか?」
エリスが尋ねてくる。
「俺の故郷では祭りの時によく食べられていたな。家はご飯は基本的に和食だったから、麺類は外で食べるとき以外は余り食べる機会がなかったんだ。」
竜人たちはそれぞれ夕食を堪能すると、宿に戻る前に別行動することにした。
「エリス、悪いんだけどラビアたちの着る新しい服を買ってきてくれないか。俺はこれからギルドで状況を説明してくるから、ここで別行動したいんだけど。」
そう言うと金板を二枚エリスに渡す。
「分かりました。買い物が終わったら先に戻って居ますね。」
「ああ、それで頼む。アル、ピピ、クー皆のことを頼むな。」
そう言うと、「ワンワン」「キューキュー」「ピー」と竜人に任せろと訴えるように答えた。
ラビアたちは服など買って貰わなくてもと遠慮していた。
「ダメですよ。女の子なんだからおしゃれもしなくちゃ。」
「ミーナが皆の服選んであげるね。」
二人に説得されると「ありがとうございますお嬢様。」と言って、服屋のある方へと向かっていった。
竜人は皆と別れると一人冒険者ギルドへと向かう。ギルドに着き中へと入ると窓口は少し込み合っていただけだったが、二階のレストラン兼酒場はかなり賑わっていた。
窓口の列に並び三十分ほど過ぎ、竜人の番が回ってくる。
「お待たせしました。受け付け担当のベラです。ご用件はなんでしょう。」
竜人はギルドカードを見せると以来内容について説明する。
「私は柳竜人と言います。実は王都の冒険者ギルド南支部ギルドマスターの依頼を受けて、ベレノス迷宮の異変について調査していたのです。十三階層まで調査をしていたのですが、魔物の大群に襲われまして、その場にいた他の冒険者グループか全滅していました。さらに、ベレノス迷宮には居るはずのないサイクロプスにも遭遇しました。」
「竜人様、今ギルドマスターに報告してきますので少々お待ち下さい。」
そう言い、ベラはギルドマスターの部屋へと消えていった。やがて戻ったベラにギルドマスターに直接報告をするように頼まれた。
ギルドマスターの部屋に入った竜人は、迷宮内で起こったことをすべて説明すると、証拠としてマジックバックに入ったサイクロプスの頭と上半身を取り出す。
すぐに鑑定が行われたが、通常とは異なった異常種であることが分かりギルドの方で買い取りとして金板五枚の報酬を得ることになった。
調査の方は引き続き行ってほしいと頼まれたため、快諾すると部屋を後にしてベラのところへと向かう。
「竜人様、お疲れさまでした。引き続き調査の件よろしくお願いします。しかし、サイクロプスを倒してしまわれるとは、Cランクとはとても思えないですね。」
「いや、それほどでもないですよ。ところで迷宮の方は何か対応はしないのですか? このまま異常事態が続けば冒険者たちの被害も大きくなるのでは。」
「はい。その件については調査依頼を高ランク冒険者に新たに依頼して、今調査をしているグループには報酬が支払われて依頼終了となりました。竜人様はCランクですが実力者ですので、新たな依頼扱いとして引き続き受けていただいていますが。」
「迷宮を攻略している冒険者たちは大丈夫でしょうか?」
「一応今回のことは全冒険者に通達しますが、冒険者業はあくまで自己責任となります。攻略を続けるものをギルドで引き止めることは致しません。」
(まあ、こればかりはしょうがないか。判断を誤れば命を落とす職業なのだから。)
「そうですか。では私はこれで失礼します。」
竜人はギルドを出ると宿へと帰っていった。
「ただいま~。」
竜人が部屋へと入ると中では全員が揃っており、オセロゲームで遊んでいた。
「お帰りなさい、兄さん。」
「おかえり~、お兄ちゃん」
「お帰りなさいませ、竜人様」
オセロを中断すると皆で竜人を出迎えてくれる。
よく見ると全員が新しい服を着ていることに気がついた。
「皆、服とっても似合っているよ。」
竜人が笑顔で皆に言うと、エリスやラビアたちは少し照れ臭そうに、ミーナは大喜びしていた。
「兄さん、すみません。ラビアさんたちの服を選んでいたら、つい自分たちの分まで買うことになってしまって。」
「竜人様、エリスお嬢様は悪くありません。私たちがお勧めしたのです。」
そうラビアたちがエリスを庇って言った。
「なにも謝ることはないよ。むしろよくやった。みんな綺麗なんだからもっと着飾らなくちゃね。」
「そんな、綺麗だなんて。」
ラビアが竜人の言葉に顔を赤く染める。
「今度、竜人様も服を買いましょうよ。竜人様はカッコイイんだから周りの女性からもっと注目されますよ。」
「そうですね~、竜人様今度私たちに服を選ばせてください。」
リジィーとティーナは竜人にそう薦めてくる。
同年代や年上の女性からそんなことを言われたことのない竜人は、何だか照れ臭くなってそんな事ないと言いながらも今度一緒に服を買いに行く約束をする。
「ところでみんなオセロで遊んでたのか。」
「はい、このオセロと言うのは竜人様が考えたものなのですか? すごく面白いです。」
ラビアが竜人に聞いてきた。
「いや、これは俺の故郷にあったゲームなんだよ。こっちにはなかったから手作りしたけどね。」
そうしてしばらくは竜人も交えてオセロ大会が始まる。この手のゲームに強いのかティーナが勝ち進んできて、決勝で竜人と戦うことになる。
「ティーナ手加減は無用だからな。全力で来てくれ。」
「はい~、よろしくお願いします。」
そして、白熱の決勝は僅差で竜人が勝利することになる。
「さすが竜人様~。強いです。」
「いや、さっき知ったばかりのゲームでここまでやるとはティーナは才能あるよ。このままだとあっという間に追い越されてしまうな。」
その後もしばらくオセロや動物たちと戯れて待ったりと過ごした。
「ところでエリス、みんなの部屋はどうなっている?」
「三人には隣の部屋を取ってありますので、そちらで休んでもらおうと思います。」
「竜人様、お嬢様、部屋をわざわざ取っていただいてありがとうございます。」
「気にしなくていいよ。疲れを溜めておくことは命取りになるからみんな今日はゆっくり休んでくれ。」
そう告げると、今日はお開きにしてラビアたちは部屋へと帰っていく。
「エリス今日はありがとな。やっぱりこういうのは女性同士の方がリラックスできると思って頼んでしまって。」
「いえ、私も楽しかったですから。」
「ミーナも大勢で遊べて楽しかった。」
竜人はエリスとミーナの頭を撫でて、それじゃ寝ようかと言うとベッドへ入っていった。
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