第11話

「タイプ?うーん、どうかな。好きになった人がタイプかな」


 隼人くんの返事を聞いたゆりかは、残念そうに「そうなんだ」とつぶやいた。ゆりかの気持ちを無駄にしたくなくて、私は同じ質問を悠くんに向けた。

 遊園地の中にある小さな喫茶店は小さな子どもで賑わっていたが、悠くんの声はまっすぐに私たちに聞こえた。


「ショートカットでおとなしくて、ミステリアスな感じの女の子」


 真正面に座る男の子から射抜くように見据えられる。不器用な私はその視線の意味がわからないような子どもみたいに振舞うことができず、今すぐここから逃げたいという衝動に駆られる。口にしているカフェラテが舌と絡んでねばついたので、右手の近くにあったコップの水を飲み干すようにして口に含んだ。


「きえちゃんは、どんな子がタイプなの?」

「私は…」


 私は、と言いかけてゆりかの方を向いた。


「私は、ゆりかみたいな子が好きだよ」


 能面のようだったゆりかの顔に、少しだけ赤みが差した。シンとしたテーブルに一拍おいて笑い声が上がり、「えー私レズじゃないよ!」とゆりかの高い声が店内に大きく響く。ゆりかのアイスティーに刺さっているストローの上部は噛まれて細くなっていた。よく知ってる、イライラしたときのゆりかの癖。その子供っぽすぎる振る舞いを、私は嫌いになることはできなかった。

 その日はお互いの連絡先を交換し合ってから、駅のホームで解散することになった。ゆりかは男の子ふたりの背中をいつまでも眺めながら大きく手を振っていた。悠くんの着ていたグレーのパーカーが改札に消えてからやっと、ゆりかは私に向き直った。


「きえちゃん。一緒に帰ろうか」


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