幸福《しあわせ》の買物

昼時、ギブスで固定したせいか鎮痛剤の効果か、波留子の松葉杖を使う動きもスムーズで仙にはかなり楽になったように見えた。

「せっかくアメリカに来たのに彼方此方見て歩けないね。」

慎にそう言われると波留子は、

「なんで?松葉杖使えばとっとと歩けるし、以前と違って固定されてるからかそれほど疲れも感じないよ。だから何処でも行ける。行こうよ、連れて行ってよ。マコちゃんが案内してくれるのを楽しみにしてたんだから。」

「本当に大丈夫?また無理してない。無理して式挙げられなくなったらそれこそ俺、仙に殺されちゃうよ。」

「何言ってるの、仙も一緒なんだよ大丈夫。疲れたら疲れたって言うから。」

「分かった。じゃあ、ずは二人の式で着るドレスとタキシード見に行こうよ。本当は今朝行くつもりでいたんだ。それが終わった時間で何処かへ行くか考えようよ。どれくらい掛かるか分からないんだし。」

仙も波留子も慎の提案に同意、ホテルのカフェで軽くランチを済ませると慎が目を付けていたウェディングコスチュームの店へとタクシーで向かった。

三人は先ず、仙のタキシード選びから始めた。白、グレー、黒、色だけでなくデザインや生地の種類も豊富で仙は自分が気になったデザインのタキシードを次々に試着して行った。その中で、仙は白いシルクのタキシードが気に入り、再度試着してみた。試着した仙の姿を見た波留子は、

「仙、カッコいい。モデルみたい、素敵。綺麗なモデルさん横に置いても見劣りしない、ううん、きっと絵になるよ。」

「ハル、怒るよ。誰と誰の結婚式? 俺と式挙げたくないの。」

「えっ、あ、違う、違うよ。あんまり素敵だから、…。」

「仙、意地悪言うなよ。ハルコは仙の事本当にモデルみたいに見えたって言いたかったんだよ。そうでしょハルコ。」

慎の問い掛けに応え大きく何度も頷いてみせる波留子に仙も苦笑いするしかなかった。

「ハルにカッコいいって思われるのは嬉しいけど俺の隣にハル以外の女性を置いてみようなんてバカな想像はしないでくれよ。俺の格好良さが台無しになっちゃうだろう。うん、まあこれで良いかな。袖を少し伸ばして、ズボンはどうかなぁ…。」

「靴も選んで履いてみたら。多分直しは不要だと思うけど。」

慎の助言に従い靴を選んで履いて合わせてみると丈はピッタリで直す必要はなかった。

「仙、脚長いんだ。マコちゃんも長くてカッコいいのはお父さん譲りなんだね。感謝しなくちゃね。それにしても、なんてカッコ良いんだろう。」

「何言ってるの。仙のが決まったんだから今度はハルコの番だよ。あゝ仙、ハルコの試着は仙は見ちゃダメだからね。」

「えっ、何で。俺が見ないで誰が見るんだよ。」

「俺。式の前に花嫁姿を新郎に見せちゃうと幸せが逃げちゃうって聞いたよ。仙はハルコと幸せになりたいんでしょう。だったらドレス選びはしても試着したとこは見ちゃダメだよ、分かった。」

「そんなあ。ちらっとならいいだろう。」

「ハルコとの幸せな結婚を自ら逃してもいいって言うなら構わないけど。でもハルコはなんて思うだろうね。」

慎の意地悪な言葉に仙は、

「分かった、分かったよ、見なきゃいいんだろう。我慢するよ。その代わり、慎、お前しっかりチェックしてハルがうんと引き立つようなドレス、見極めなかったら教会の墓地に埋めるぞ。」

「分かってますよ。俺のセンスの良さは知ってるだろう、任せなさい。」

試着を終えた仙も加わり三人でドレスを彼是と選んでは波留子に当てて見た。三人三様でそれぞれ自分の選んだドレスが一番似合うと主張したものだから、波留子は三着全て試着する事になってしまった。いくら固定してあるとはいえ、脚の不自由な波留子にはかなりの負担となるのだが今回ばかりは誰も譲らず波留子が踏ん張るしかないようだった。

先ず波留子が試着したのは慎が選んだドレスで全体的にはシックな印象だが片方の肩が露出している事に気付いた波留子が、いくら室内で着るとは言え風邪をひいてしまいそうだと言い敢えなく却下となった。次に仙が選んだドレスを試着した波留子は鏡に映る自分の姿に暫し見入ってしまった。➖これが私⁉︎私ってこんなだったっけ?➖

「ハルコ、良いよ。ハルコのイメージにピッタリって言うか、シックなデザインが大人の女性って感じで、綺麗でカッコいい。うん、キレカッコ良い。これって仙が選んだドレス⁉︎ さすがは仙、ちゃんとハルコに似合う物が分かるんだなあ。ハルコはどう思う、このドレス。」

「うん、…。」

「ハルコ、見入っちゃって。未だ自分で選んだドレス残ってるよ、そっちも着てみたら。」

「うん、そうだね。」

三着目、波留子自身が選んだドレスは上部を総てレースで仕立てられたそれは質素だが品があった。そしてドレスの裾は長めに作られていて長いレースのヴェールと合わせるととても美しいシルエットを描いた。

「わあ、凄く似合ってる、綺麗だよ。どっちも捨て難いなあ。どうする、ハルコはどっちが良いと思う。」

「えっ私、…そうねえ、仙のタキシード、シルクだったでしょ。だったら仙が選んでくれたドレスにしようかな。あのドレスもシルクだったからタキシードとも合いそうだし。どうかな。」

「うん、そうか、そうだね。ちょっとこれ見て。写真撮ったから。」

「へえ、こんな風に見えるんだ。マコちゃんが選んでくれたドレス、左肩が出るデザインだったから、ごめんね。未だ左肩の痛みが残ってるから露出するのはちょっと、ね。」

「いいのいいの、気にしないで。確かに、さっき試着した時も未だ薄っすら青痣が残ってたね。肩、未だ痛むんだ。」

「うん。重たい物持ったり、投げるような動作をしなければそんなに酷い痛みはないけど、左肩動かすのは未だちょっと辛いね。」

「そう、ちょっと位になったのならいいけど。でも仙ってホントによく見てるんだね。ほら、この写真見て。ハルコ、軽いメイクしかしてないのに、こんなに綺麗。これは、当日の仙の顔が見ものだよ。」

そんな話をしながら靴やヴェール、手袋といった小物類をドレスに合わせて選ぶともう一度仙の選んでくれたドレスを試着し、それらも合わせて全体的なチェックをした。幾つか慎の意見で小物を替えたり止めたりして、これならいいんじゃない、と慎に言われ鏡の中の自分を見た波留子は思わず自分の目を疑った。➖あゝ神様、私、本当にこのドレス着ていいんでしょうか➖気恥ずかしくなった波留子はじっくり眺める事もなくそそくさとドレスを脱ごうとしたのだが、慎が前だけじゃなく横や後ろからも写真を撮るから少し待ってて、と何とか脱ぎたがる波留子を押し留めた。

仙は一人、波留子の試着姿も見られぬまま店内をうろうろと見て回っていた。ウェディングドレスだけではなく、パーティドレスやカクテルドレス、男性用のスーツ等数多くの品が扱われているようだった。それらを眺めながら波留子にはどんなドレスが似合うだろうか、一緒にいる自分はどんな物が良いだろうか、とあれこれ頭の中で組み合わせたりしていた。そんな事を考えていた仙に、

「お待たせ、終わりました。さあ、行きましょうか。」

波留子と慎がにこやかに声を掛けて来た。もっと時間が掛かるものと思っていた仙は、

「もう終わったって、もしかして全部気に入らなかったとか。」

「えゝ、何でそう思うの。ううん、ちゃんとドレスもドレスに合わせて靴や小物類も全部決めたよ。」

「本当、なんか早くない。もっと時間が掛かるものかと思ってたけど。」

「ハルコね、仙が選んだドレスに決めたんだよ。さすがは仙、ハルコにドンピシャだったよ。ドレスは殆ど直さなくても良さそうだけど、丈とかはちょっと直さないとね。ドレスが決まったら後の小物類はさっさと決まった。ハルコは彼是あんまり悩まないんだ。試着したドレスと合わせてみてちょっと変更したぐらいで完璧なコーデイネイトが出来たよ。仙が見たら驚くよ、きっと。って言うか、他の誰かが見たらハルコを奪いたくなっちゃうかもよ。キレカッコ良いんだ。後はブーケか、そしたらブーケは俺があのスタイルに似合うような色合いで注文しておくよ、いい仙。」

「あゝ、じゃあブーケは慎に頼んだ。ねえ、波留子、此処にはウェディングドレスだけじゃなくてイブニングやカクテルドレスなんかも沢山あるみたいだからそういうドレスも幾つか買っておかない。これからはパーテイや何かのイベントには夫婦で出席する事になるからさ。」

「えゝ、いいよ。それでなくてもウェディングドレスやタキシードだって買うんでしょ。両方ともシルクだからかなり高いんじゃない。勿体無いよ。」

「何が勿体無いんだよ。ウェディングドレスやタキシードはシルクだから染めに出せばイブニングとして着られるんだよ。それか、染めずに慎の結婚式用にとっておいてもいいんだし。ドレスなんてり用になってから慌てて探したって仲々気に入る物なんか見つからないよ、して日本じゃ。もし気に入った物がなければ買わなくても構わないから、見るだけでも見てごらん。此処、結構良いデザインのドレス置いてるよ。」

仙の熱心な説得に根負けした波留子は、じゃあ見るだけ見てみましょう、と店内のドレスを見て回った。仙は波留子の脇で彼女が目に留めたドレスが彼女に合うかどうか品定めしながら黙って側に付いて歩いていた。そんな二人の様子を眺めながら慎はほくそ笑んでいた。まるで小さな子が親には内緒で手に入れたゲームを楽しむように。

「ハルコ、気に入ったドレス有った。」

慎が波留子のそばに来て尋ねた。

「ううん、デザインは気に入っても色が欲しい物じゃなかったりして、コレっていうのはないかな。」

「えっ、どのデザインが気に入ったの。此処の店はデザインサンプルとして商品を置いてるんだよ。もし気に入ったデザインがあればカラーは自分の好きな色で作って貰えるんだ。さっきの波留子のドレスも試着して直す所に目印付けてたでしょ。そこの部分の寸法を変えて縫製してくれるんだよ。大丈夫、式までには間に合うから。さっきのドレス、あのままだとほんの少し寂しい気がしたからちょっとだけアレンジ加えさせて貰ったよ。」

「ええ、マコちゃんデザイン出来るの。って言うか、これから縫製って。仙、一体あのドレス幾らするの、どうしよう高そうだし。」

「えっ、俺のタキシードも同じだよ。一生に一度の服をまさか吊るし、って事はないでしょう。」

「えゝ、でもそしたら一体幾ら掛かるの。仙、支払いは、支払いはどうするの。カードで、って言っても‥」

仙が取り出したカードの色は黒、ブラックカードだった。それを見た波留子は驚きのあまり松葉杖から手を放してしまいフラついた。➖私、とんでもない人と結婚しちゃったんだ、どうしよう➖現実を直視出来ずに項垂うなだれている波留子に仙が、

「どうしたの、ハル。」

「ブ、ブラック、カード。」

「あゝ、うん。ゴールドもあるよ。ブラックだけだとそれはそれで不便な時もあるからね。波留子の家族カードも依頼してあるから、日本に帰ったら届いてるんじゃないかな。会社の方へ送ってくれるよう手配しておいた。」

「へ、家族カード?」

「そうだよ。買い物するのにないと困るでしょ。」

「あゝ持ってるよ。会社に入って収入が出来たから作った。」

「それは普通のクレジットカードでしょ。それはキャンセルして。波留子が働いて得たお金は大切に貯めておかなきゃ。使うなら家族カードで使えば限度額を気にする必要もないから楽だよ。」

「いやいや、そんな訳ない。何に幾ら使ったのか説明しなきゃならないでしょ。」

「ハル、、今までそういう生活だったの。俺はそんな説明求めたりしないよ、自由に使えば良いよ。」

「ううん、それじゃダメ。だったらカードは要らない。だって家族カードで使うお金は貴方が一生懸命働いて得たお金でしょ。そんなお金の使い道位しっかり管理出来ないと早晩お金がなくなって生活に困る事になるよ。」

波留子の言葉を聞いた仙と慎は実に楽しそうに笑い出した。

「何、私何か変な事言った。」

波留子の問いに、

「ううん、至極しごくもっともな事言ってるよ。ハルは経済観念がしっかりしてるね、嬉しいよ。でもね、カードの引き落としに使ってる口座は投資の配当や役員報酬を受け取っている口座なんだ。俺の給料は別の口座に振り込まれててそっちには手をつけてない。老後の生活に困らないようにちゃんと貯めてあるよ。だから、心配しないで波留子も会社から貰う給料は貯めておけばいいよ。」

「投資や役員報酬って、だってブラックカード使える程の収入があるって事⁉︎」

「うん、まあね。投資は株に限らず彼是分散投資してて賃貸マンションの収入とかもあるし、役員報酬って言ったのはうちの会社以外の関連企業の役員や俺が自分で立ち上げた会社の報酬もあるから結構毎月入ってくるんだよ。」

そんな話を聞いた波留子の頭の中は真っ白になってしまった。暫くして、

「あの、今更こんな質問していいのかどうか分からないんだけど、」

「うん何、なんでも聞いて。」

「仙って毎月幾ら位、ううん、年収はどれ位あるの。」

「年収⁉︎ さて、どれくらいかなあ。」

「ざっくりでいいんだけど。」

「ざっくり、ねえ。ううん、多分、五億弱位じゃないかな。但し、毎月の給料は別ね。」

「五、五億、って、…ダメだ。私、相手選び間違えた。」

「えっ、波留子。今なんて言った、相手選び間違えた、って。それって、俺に愛想尽かしたって事?」

「あ、ごめん、そう言う意味じゃなくて、…」

波留子はパニクっていた。波留子が仙を愛している、という事実に変わりはない。だが、その愛する男は波留子の想像を遥かに越えた大金持ちだったのだ。➖いくら何でも違い過ぎる。身分違いってこう言うのを言うんだ➖どう言ったら仙を傷付けずに自分の気持ちを分かって貰えるのか、波留子には全く思い浮かばなかった。そんな困り果てた波留子の様子とがっくり落ち込んでいる仙の様子に吹き出したいのを堪えながら慎が言った。

「仙、ハルコは普通のサラリーマンと結婚して主婦をやってたんだよ。多分、元の御主人の年収は何百万か、良くて一千万ちょっと、って言うところでしょ。そんな人がいきなり年収五億って言われたらピンと来ない、って言うより違い過ぎて怖くなるんじゃないの。仙、今まで一度もハルコにそういう話、しなかったの。だとしたらそれは仙の落度だね。」

そう言われた仙は青褪あおざめた。自分が収入の事をきちんと波留子に話していなかったばかりに愛想を尽かされてしまうのか、茫然自失のていでいる仙を見た波留子。

「私が愛した男はとてつもない金持ちで、その癖そんな財力には頓着しないで私のようなバツイチの中年女に恥ずかし気もなく愛してるなんて誰憚はばかる事なく言っちゃうような大胆な男なのよね、仙。分かりました。じゃあ、遠慮なく家族カード作って頂きます。でもその代わり、カードを使った時はカードの使用明細か領収書を渡します。だからちゃんと明細をチェックして下さい。私がどんな物をカードで買ったか知って欲しいし、もし無駄遣いだと思ったら言って欲しいから。約束してくれる、仙。」

「あ、うん、約束する。波留子を知る為なら全部ちゃんとチェックする。でも俺はいちいち説明は求めないし、無駄遣いでも構わない。だってストレス溜まった時とか買い物で発散する事だってあるでしょう。それが悪いとは思わないし、俺もやる時あるから。ハルも言う必要ないからね。

あゝ良かった。ハル、俺の事嫌いになってないよね。愛想尽かされたんじゃないかと思ったよ、良かった。愛してるよ、波留子。」

「うん、有難う仙。」

波留子は暫し仙の顔をジッと見つめた後、何かを吹っ切ったように笑顔になると、

「じゃあ、せっかくなので仙が選んで、私に似合うと思うドレス。」

「えっ、いいの。選ばせてくれるの。」

頷く波留子。仙は再び、今度は猛然としかし慎重に店内のドレスを見て回り始めた。先刻待っている間に目をつけたドレスはどうだろう、そういえばあっちにも似合いそうなのが有ったよな、などと考えながら店中のドレスを見て回った。そんな仙の様子を波留子は椅子に座り見ていた。

「ハルコ、疲れたでしょ、大丈夫。飲み物貰おうか。」

慎が波留子を気遣って世話をやいてくれた。仙はというと、これはと思うドレスをなんとか十着にまで絞り込んでいた。が、仙の目にはどのドレスも波留子にはピッタリに思えてそれ以上絞る事が出来なかった。そこで仙は、

「波留子、波留子にはこの十着全部似合う。これ以上は絞れないからこの十着全部買おうよ。」

「私は一着のつもりで選んでって言ったの。パーティなんかそうしょっちゅうあるもんじゃないし、一度に十着も買う必要なんかありません。それこそ意味のない無駄遣い。」

すっぱり波留子に切り捨てられ、がっくり項垂れる仙。

「じゃあ、その中からハルコが気に入ったドレスを選んだら。それでもし何着か気に入ったのならそれを買って貰えばいいじゃない。」

「なるほど、慎、良いこと言うな。そうだよ、ハルが自分で選べば間違いない、うん。で、気に入ったのを買えば良いよ。」

「えゝ、私が選ぶの。でも、気に入ったからって似合うとは限らないでしょう。」

「じゃあ、ハルが気に入ったのを試着して、それで決めれば良いんじゃない。」

「えゝ、また試着。脚が保つかなあ。」

「そうだった、ごめん。じゃあやっぱりハルが気に入ったのを買おうよ。」

「ダメ、そんなのダメ。いいよ、私試着するよ。」

そう言うと波留子はドレスを一着ずつハンガーに掛け吊るして貰い前後を返してじっくりと見ていった。

「どう、どれが気に入った。」

「そうねえ、良いなあって思ったのは三着。因みにマコちゃんはどれが似合うと思う。」

「俺? うーん、俺も三着かな。」

「もしかしてマコちゃんが良いと思った三着ってこれとこれと此れ⁉︎」

「うんそう。えっ、ハルコも同じ⁈」

「うん。わあ、やっぱりマコちゃんとはセンス合うね。あっ、仙、どうおこの三着。」

「うん、良いと思う。でもハルは俺より慎の意見を取るんだ。」

「はあ? 何拗ねてるの、いい加減にして。仙は私にプレゼントしたいって想いが強いから彼是数が増えちゃうのよ。でも、私が気に入って、似合う物でなかったら着ないでタンスの肥やしになっちゃうだけでしょ。そんなドブにお金を捨てるような事しちゃ駄目だよ。マコちゃんは冷静に、私に似合うかどうか見定めてくれただけ。私自身が気に入って、自分に似合ってる物なら何度も着るだろうし、着る物を選ぶのが楽しみにもなるでしょう。それに、そんなに沢山買ったら持って帰るのに苦労するよ。」

「荷物が増えたら送っちゃうからそういう心配は要らないよ。でも分かった。波留子が気に入ったのがその三着ならそれを買おう。」

「えっ、私試着してないよ。仙、言ったでしょ。気に入っても似合わなくちゃ何にもならないでしょ。」

「そうか、そうだった。じゃあハル、大変だけど試着してみて。」

波留子は店員に手伝って貰いながら三着のドレスを次々に着て行った。

「デザインだけじゃなくて、色もチェックしてね。マコちゃん、出来たら布地の質感も見てくれると嬉しい。」

「オッケー。ハルコは俺の目利きを信じてくれてるんだあ。」

「ハル、どうして俺じゃないの。」

「ん?ファッションについてはマコちゃんのセンスって私と似てるからね。仙には出来上がりを楽しみにして欲しいしさ。」

「何だ、そんなに気を遣わなくてもいいのに。でもハルの気持ちは分かった。」

「ハルコ、グーッ!」

慎は波留子の意図をんでウィンクしながら親指を立てた。

試着中、波留子は真剣に鏡の中の自分とドレスを見つめていた。➖やっぱりどれか一着に絞るのは難しいなあ。二着は色も質感もそのままで良いかなあ。あの一着だけは色変えた方が良いなあ。うーん、質感もちょっと、なあ➖波留子が思案している表情を慎はしっかり見ていた。

「ハルコ、もしかしてこのドレスで悩んでるでしょう。」

そう言って慎が手にしたドレスは鮮やかなグリーンのドレスだった。

「そう、どうして分かったの?。私このデザインなら青紫の方が、淡い青紫が合うんじゃないかって思ったんだけど。唯思ったような色目があるかどうか…。」

「あると思うよ。聞いてみようか。」

慎が店員にドレスを示しカラーを見たいと言うと、カラーと布地のサンプルを持って来てくれた。カラーと布地、両方が同時に見られるようになっているサンプルをめくり、メロウカラーの青からのグラデーションに丁度欲しいと思っていたカラーと質感の布地を見つける事が出来た。波留子は慎にそのサンプルを指し示し、慎が頷くのを見て、そのサンプルを仙に見せた。

「どう、このドレスならこっちの色でこういう布地で作った方が私には合うんじゃないかと思うんだけど、仙はどう思う。」

と尋ねた。仙はカラーサンプルをじっくり眺めると店員に生地のサンプルを持って来させそれを波留子に当ててみて束の間考えると、

「うん、いいと思う。波留子らしいドレスになるね。あの結婚指輪を塡めてピアスを着けたら引き立つよ、きっと。」

波留子が嬉しそうに大きく頷くのを見て仙だけでなく慎も嬉しそうに笑った。

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