過去との対峙《たいじ》

午前八時、波留子が仙に手伝って貰って着替えを済ませ、仙と二人でキッチンに立ち朝食の用意を始めると慎が起きてきた。

「おはよう、マコちゃん。」

「おふぁよう、ハルコ。ふぁああ、おはよう、仙。二人とも早いね。」

「おはよう。着替えて顔洗って来いよ。」

「うん。」

いつものように三人揃っての朝食。だが、何故か会話が少なくはずまない。三人が三人とも互いを気遣い、気遣い過ぎるあまり会話が弾まないのだ。波留子が悪い流れを断ち切るように、

「ねえ、マコちゃんがアメリカに戻る前に三人で一泊旅行でもしない。温泉とかさ。」

「山は。」

と慎。

「無理だよ。この脚じゃ山なんて登れないよ。」

「そうお⁉︎」

「あゝ何その言い方。なんで否定しないかなあ。全くこの親子は。」

やっとなごやかな雰囲気が戻っていた。

慎が朝食の片付けをしているかたわらで波留子がお茶の用意をしていると波留子の携帯が鳴った。波留子は自分で思っていた以上に緊張していたのか電話の音に驚いて急須の蓋を落としてしまった。ハッとして顔を上げて見やると仙や慎も緊張しているのが分かった。波留子は電話を取り上げ画面表示を確認すると、深呼吸をしてから電話に出た。

「はい、もしもし。」

「もしもし波留子、俺。」

「はい。」

「何だよ、つれない返事だなぁ。」

「用件は何? 昨日も言ったけど離婚の時に今後一切会わない、っていう条件が付いてたでしょ。私はこうやって電話番号を調べられて、しかもだなし討ちみたいなり方で凛の御主人から聞き出すなんて卑怯な真似して。電話される事自体凄く不愉快なの。私と貴方はもう全然別の道を行くアカの他人なんだから。」

「赤の他人って、娘二人も作った仲じゃないか。そうツンケンしなくても良いだろう。」

「彼女は?もう子ども産まれたんでしょう。御祝いでも贈りましょうか、男の子、女の子、どっちだったの。」

「それがね、死産だったんだ。」

「えっ、そんな、…彼女はどうしてる?大丈夫なの。」

「あゝ、彼女は問題ない。死んだ子は男の子だった。」

「男の子欲しかったんでしょ、残念だったね。」

「あゝ、まあな。」

「仕事で来てるんでしょ、終わったらさっさと彼女の所に帰って上げなきゃダメだよ。子ども亡くして辛い時なんだから。」

「あいつとは別れた。」

「えっ、別れた?」

「死産した二日後に消えたんだ。」

「実家に戻ってるんじゃないの⁉︎ 確かめた。」

「あゝ、戻ってない。籍は未だ入れてなかったから問題って問題はないんだけどな。」

「そう、それは残念だったね。でも、もう私には関係ない事だし、貴方が自身で対処する問題だからね。」

「なあ、やり直さないか、もう一度。」

「バカ言わないで。そんな話する為に電話して来たのなら二度と貴方からの電話は取らないから。」

「頼むよ。じゃあせめて、せめて最後に一度会ってくれないか。離婚協議も弁護士だけでお前会ってくれなかったし。」

「貴方が暴力振るったからでしょ。それに、私はもう新しい人生始めてるの。もう二度と貴方とは関わりたくないの。お願いだから、私のこの後の人生に入って来ないで。」

「お前、好きな奴がいるんだな。俺を見棄てて新しい男と宜しくやろうって言うんだな。」

「貴方に関係ないでしょ。」

「俺は娘達の父親だ。」

「だから何? とうに二十歳過ぎてそれぞれパートナーもいる娘達を盾に取ったって無駄だから。そんなくっだらない事言ってないで貴方は貴方の人生、自分で行きたい、住みたいって言ったあの国で続けていけば良いじゃない。とっとと帰ってよ。」

「波留子。なあ頼む。一度だけ、一度だけでいいから会ってくれないか。会ったらそれであきらめる。二度とお前に電話しないし、現れない。約束する。」

「あゝもう、ホントにしつこい。分かった。じゃあ一度だけ、今回一度きり会ってあげるわよ。その代わりこれでホントに最後だからね。で、何処へ行けばいいの。」

「有難う、恩にきるよ。ホントは俺達の家が、」

「あそこは今、私の家で貴方は関係ないし、それに怜が住んでるの。だから他の場所、何処かお店とか公共の場にして頂戴。また暴力なんて振るわれたらたまらないから。」

「もう、あんな事しないから。…じゃあ、スカイツリーなんかどう?」

「スカイツリー⁉︎ スカイツリーの何処。」

「スカイツリーの上に上がるチケット売場、あそこなら間違えないだろ。あそこにしよう。」

「分かった。展望台にのぼるチケットの売場だよね。そこに何時?」

「じゃあ十一時でどうかな。」

「十一時、チケット売場の建物前ね分かった。じゃあ後で。」

波留子はそれ以上向こうに何も言わせず電話を切った。

「仙、十一時にスカイツリー展望チケット売場前。」

「うん、分かった。今の会話録音した?」

頷く波留子。

「OK! じゃあ、弁護士さんに連絡して。」

「凛と怜にも来て貰う。昨日二人とももし呼び出されたら一緒に行くって言ってくれたから。」

「分かった。勿論、俺も一緒に行くよ。御挨拶しないとね、かつて波留子をドン底にとした酷い男にさ。」

「仙たら。」

「ハルコ、仙が俺は行っちゃダメだって言ったから家で待ってるね。話ついたら直ぐ電話してよ。」

慎の手が震えているのに気付いた波留子は慎をしっかり抱きしめた。

「大丈夫よ、マコちゃん。姉さん達も一緒なんだし、仙もいるんだから心配しないで。夜は美味しいもの食べに行きましょ、ね。」

「うん。」

「じゃあ、電話して、支度しないと。」

「うん、じゃあ娘達に電話してくる。」

波留子が電話を掛けに寝室へ入って行くと、仙も悠介の所に電話を掛け事情を話した。悠介から自分と快斗は名乗らずに近くで様子を見ているから、と言ってくれた。落ち着きを取り戻した仙は、波留子の着替えを手伝ってくる、と寝室に向かった。寝室に入って行くと、波留子が丁度電話を終えたところだったので、

「弁護士さんに連絡した?」

「あ、忘れてた。ちょっと待ってね。」

そう言うと急いで弁護士に電話を掛け今回の事を話した。弁護士からは会わない方が良いのだが、と言われたが娘達も夫も同席してくれると言うので会うだけ会ってくる、と告げた。弁護士には会話は録音してある旨伝えたので、それはしっかり保存しておくよう忠告を受け電話を切った。

「弁護士さん何て?」

「会わない方が良いのに、って。けどこれで全部終わりに出来るのなら私はその方が良いから。仙も居てくれるなら怖くない。」

「そうだね。波留子は強い。」

「うん、仙のお陰。さあ、着替えなくちゃ。あ、やだ仙、うん、意地悪なんだから。」

「ハル、綺麗だよ。」

「有難う。仙はすっごく素敵よ。」

仙は波留子の肩が痛くないように服を脱がせ、波留子が着ると決めた服に着替えさせてやった。

十時過ぎにやって来た凛や怜も一緒に車に乗って四人でスカイツリーに向かった。

「お母さんごめんね、うちのが上手い事乗せられちゃってつい番号教えた、なんて言うから昨日うんと叱ってやった。」

「しょうがないよ。彼にしてみればしゅうとからの頼みだもん無碍むげには出来ないでしょ。」

「けどさ、今頃会ったって無駄な事ぐらいガキでも分かるっつうのに父さんもバカだよね。自分の価値を自分で下げてる。」

「ホント!昔っからちょっと意固地なとこあったからね。」

「仙さんには嫌な思いさせちゃって申し訳ないです。」

「凛さんや怜さんに謝って貰う事じゃありませんよ。それに波留子はケジメをつける為に会うって決めたんだから俺は彼女をサポートするだけです。」

「そこが違うんだなあ。ねえ、お母さんそうでしょう。お母さんが仙さん選んだ気持ち、分かるなあ。」

「怜、一応別れたって言っても父さんは私達の父親なんだから。あんまりぼろ糞に言わないの。」

「だってホントの事だもん。」

女三人揃うとやかましい、とは言うけれど、波留子が殆ど喋らずに聞いているだけだと言うのに凛と怜、二人だけでこんなににぎやかだとは正直仙はちょっとたじろいだ。そんな賑やかな娘達を同乗させた車はさして渋滞に巻き込まれる事なくスカイツリーに到着した。駐車場に入れた車から降りると、

「お母さんその服いいじゃん、カッコいいよ。何だか若返ったみたい。お母さんって呼ばなきゃ私達と姉妹で通るかもよ。」

「んな訳ないでしょ、寝ぼけてるんじゃないわよ。さあ、何階だっけチケット売場って。行こうか。仙、あ、有難う。」

松葉杖が取れたとはいえ、未だ普通に歩ける程治ってはいない足をかばうように仙の腕につかまって歩く波留子。仙がそんな波留子の耳元で、

「さっき怜ちゃんが言ってた事、あながち冗談でもないよ。なんかハル初めて会った頃より若返ったもん。」

「やだ仙までそんな事言って。もしも、もしも本当にそう見えるんならそれは仙のお陰じゃない。」

「俺? 何で?」

「仙がエッチだから。」

「あゝ、此奴。ハルだって同じだろ。」

「何イチャイチャしてんの、二人とも。全く熱いったらありゃしない。」

「はあい、ごめんなさい。」

と凛に謝る波留子。と仙に、

「怒られちゃったでしょ、ダメ!余計なこと言わないの。」

「余計な事じゃない、ホントの事だよ。」

「ふふっ、分かったよ、仙。」

四人は十一時五分前にチケット売場の前に到着した。土曜日の昼近い時刻とあって周囲は観光客でごった返していた。周りを見回していた怜が、

「あっ、お父さん。」

と言ったのでそちらへ目をやると波留子の元夫、高瀬和也たかせかずやが此方へ向かって歩いていた。怜が見つけたのに前後して彼の方でも此方に気付いたようで、波留子の姿に一瞬笑顔になったように見えた顔が波留子の隣に立っている仙を見て直ぐさま強張った表情に変わった。

「やあ、お前達も来たのか。波留子、暫く会わない間に綺麗になったな。‥その人は?」

「初めまして。私、九龍 仙 と申します。波留子とはこの元旦に婚姻届を提出して正式に夫婦になりました。」

「えっ、夫婦? 波留子?」

「そう、私、再婚したの。」

「はっ、嘘をつくならもっと信憑性しんぴょうせいのある嘘をつけよ。こんな若い男がお前みたいな中年女相手にする訳ないだろう。」

「うん、私自身が一番驚いたよ。でも再婚したことも相手が彼だって事も嘘偽りない真実だよ。ちなみに彼は私の家なんか狙ってないからね。彼の方がよほど金持ちだから。」

「う、嘘、だろう。凛、怜、お前達が企んだのか。」

「何言ってるの。そんな訳ないでしょ。悔しいけどお母さんに先越されちゃったのよ、私。」

と怜が冗談半分になげいてみせた。

「父さん、母さんがどんなに辛い思いしてきたか父さんは知らないでしょ。母さんが自殺未遂した事もさ。でも母さん死なないでくれて、こうやって仙さんみたいない人に巡り会って、彼は母さんより十八歳下だけど、父さんの数十倍も母さんを大事にしてくれて、愛してくれてるの。父さんがボロボロにした母さんをこんなに綺麗にしてくれたのは仙さんの愛情なんだよ。だからもう、お母さんにまとわりついたりしないで!」

凛が絞り出すように静かな声で父親にそう投げつけた。娘からそう言葉を投げつけられた和也は言い返せず体を強張こわばらせていた。が、波留子に向かって見下げたように、

「波留子、お前本気でそんな十八も下の男と結婚生活が続くと思ってるのか。捨てられるのがオチだぞ。」

口を開きかけた仙を押し留め波留子は言った。

「私達の結婚生活が続くか続かないかはこれからやってみなきゃ分からない。でも三十年以上連れ添ってて相手の事見ようともしないで自分の好き勝手ばっかりやって来た男にどうこう言われる筋合いの事じゃないと思う。例え私達の結婚生活が五年や十年で終わったとしてもそれは結果論で今ここでどうこう言ったって分かるもんじゃないの。それにもしそうなったとしても私は彼との結婚を後悔してない。貴方と結婚した事も後悔しなかった、それと同じ。でも一つ違いがある。それは貴方との苦い経験をした後で、仙の与えてくれる温かい優しさが本物だって確信が持てる事。もういいでしょう。貴方が必要としてるのは何でも言う事を聞いてくれて自分の性欲の捌け口になってくれる便利な女でしょ。私、もうそんな役割に疲れたのよ。私だって感情がある人間だから、女だから。」

「父さん、父さんは海外に行きたい、生活したい、って言って家族の事やその他一切合切を全部母さんに預けて自分だけ出て行った、その時点でもう家族を捨てたのよ。だから貴方に今更元の家族を取り戻すすべはないの、分かった。母さんの幸せ壊すような真似したら承知しないからね。」

怜が吐き捨てるように言い放った。

「お前達、散々俺が食わしてやったのに。」

「あゝ、それ言っちゃう? 父さん、あんた最低。親が未成年の子ども食わすのは当たり前でしょ。私達二人とも大学入ってからは自分の出費はなるべく親に負担かけないようにバイトもしてた。母さんは父さんが投げ出した彼是全部引き受けてやってたじゃない。それこそ父さんの親の世話まで父さんの代わりにしてたし。それでも父さんはそれを妻なら当たり前、位にしか考えてなかったんでしょ。母さん嫌味な事沢山言われて、それでも聞かないふりしたり、右から左へ流すようにしてた。見てる私達の方が辛かったよ。私達はもうそれぞれパートナー見つけてそれなりにやってるし、母さんが離婚して一人ぼっちで寂しい思いしてるより仙さんと結婚して楽しくやってくれてる方が何倍も何十倍も嬉しいよ。」

と凛。

「そうか。」

和也がぼそっと呟いた。

「これで貴方と会う事はもう二度とないと思う。貴方と結婚した事も、離婚した事も、私は後悔してない。全部その時々で自分が考え悩んで出した答えだから。でも過ぎた事はどんな事だろうと全部、思い出の一つとして取っておきたいだけ。今の生活や今の私とシンクロさせたい訳じゃない。分かって貰えた。

これでお別れしましょ、さよなら。」

そう言うと波留子は痛む左手を敢えて和也に差し出した。和也は波留子の差し出した手をジッと見つめたまま暫し動かずにいたが、ふっと笑い波留子の顔を見て、

「もうやり直す事は出来ないんだな、分かった。もう二度と電話する事も会う事もしない。お前の人生に割り込んだりしないよ。」

「有難う。じゃあ、此処で私の電話番号消して頂戴。」

「分かった。…消したぞ。」

「じゃあ、さようなら。元気でね。」

「あゝ、お前もな。」

「父さん、せっかくだから私達とお昼食べに行こうよ。どうせタイへ戻っちゃったら会えなくなっちゃうんだから。」

「あゝそうだな。じゃあ一緒に食べに行くか。」

凛と怜が波留子にウインクして高瀬の腕を取り人混みの中へと消えて行った。三人の姿が見えなくなると波留子は脚の力が抜けてへなへなとその場に座り込んでしまった。仙が慌てて波留子の腕を取り支えようとしていた時悠介と快斗が現れた。

「終わったか。」

その声で悠介達に気付いた波留子は仙が悠介や快斗に援護を頼んでいたとこの時初めて知った。

「悠介さん、快斗君。お二人にまでご迷惑掛けてしまってごめんなさい。」

仙に支えられながら立ち上がった波留子はそう言って二人に頭を下げた。

「いいの、いいの、気にしないで。どうせ親父も俺も暇だったから丁度いい暇潰ひまつぶしさせて貰ったよ。あの人がハルさんの元旦那ね。話の内容までは聞こえなかったからよく分からないけど凛ちゃんや怜ちゃんにも彼是言われてたみたいでちょっと可哀想に見えた。」

「可哀想、彼が⁉︎ それは何も知らないから言えるんだよ。波留子も彼女達も随分耐えて来たんだ。それを一気に吐き出したって言うか彼の前にさらしただけだよ。全て彼自身がして来た事の結果だよ。ハル、大丈夫⁉︎ 疲れたよね。」

「大丈夫。それより心配してるだろうからマコちゃんに電話してあげて。」

そうだったと仙が電話を掛けると直ぐに慎が出た。どうだったのかと尋ねる慎に無事に全部済んで、彼はもう二度と波留子や自分達の生活に入ってくるような事はないと締め括った。すると慎がそうだったのか、良かった、と口にしたので仙が、

「慎、お前今何処にいる?」

と尋ねた。

「えっ⁉︎」

波留子が驚いた顔をして仙を見ている。

「母さんの驚いた顔が見える所。」

そう言いながら近づいて来る慎の姿を波留子は眼ざとく捉えていた。

「マコちゃん。」

「ハルコ。」

波留子の元へ走り寄るとしっかりハグして波留子の無事を確かめる慎に仙が一言、

「なんでここに居るんだ。」

「だって、ハルコが心配でジッとしてられなかったから散歩に出て、そしたら足が勝手に此処に向かったんだ。」

「マコちゃんの足は持ち主とは別に勝手に動くんだ、そりゃ大変だ。」

波留子が吹き出し、可笑しそうにゲラゲラ笑い出したので悠介や快斗が釣られて笑い出し、慎も照れ笑いすると仙まで笑い出し、

「ったく、しょうがない奴だな。」

「せっかくスカイツリーに来たんだ、展望台に上ってみないか。」

と悠介が提案した。喜んだのは慎で、未だ上ったことがないから上りたいとせがんだ。悠介がチケットを購入し皆んなで展望台へと上がって行った。

「凄おい!六百三十四メートルは伊達だてじゃないね。本当に関東一円が見渡せるんだ。こんな空気が澄んでると富士山もはっきりくっきり見えるんだね。うわあ、ハルコ、ねえねえ此処来て。ほら、下が丸見え。」

大喜びしている慎とは逆に、

「俺はいいわ。」「俺もいいや。」

と九龍家の三人ともガラスの床から身を引いた。

「ウソ!マジで⁉︎ もしかして高所恐怖症なの、三人共。」

強張った笑顔で波留子を見る三人に呆れながら慎を振り返り、

「じゃあマコちゃんはお母さん似なんだ。高い所怖くないんだね。」

「うーん、本当はちょっと怖い。でもあの三人ほどではないと思うよ。」

「そうなの。じゃあジェットコースターとかは平気。」

「うん、そういうのは好きかな。」

「わあ良かった。じゃあ絶叫マシーンとか一緒に楽しめるね。」

「何、ハルはジェットコースターとか絶叫マシーン好きなの。」

仙がまさかというような表情で尋ねた。

「うん、大好きだよ。」

「仙、慎がいてくれて良かったな。」

快斗が同情するように言っている。

「そうだね。乗りたい時はマコちゃんと乗れるし、昔ほどそればっかりに乗るって事はしないから心配しないでいいよ。」

「そればっかりって、どれだけ乗ってたんだよ。」

と呆れたように尋ねる仙。

「遊園地なら一回行くとジェットコースターは全種類少なくても三回ずつは乗ってた。でもコースターの数が少ない所だと他の絶叫系マシーンに同じだけ乗るしかなかったけど。」

「へえ、ハルコ凄いね。ジェットコースターってどんなのに乗ったことある。」

「色々。大抵の物は乗ってると思うよ。斜度六十度のコースターに乗った時は飛び降り自殺する気分みたいだった。螺旋らせんになってたり一周したりは勿論、足がブラブラしたままのは踏ん張れないから結構怖かったよ。」

「おお、楽しそう。アメリカにはいっぱい遊園地あるよ。」

「知ってるよ。ユニバーサルスタジオ・ハリウッドとデイズニーランドは行った事あるよ。日本みたいに長時間並ばずに乗れるのがいいね。」

「あのさ、話はお昼でも食べながらにしない?」

「えゝ、せっかく上がって来たのにもう下りちゃうの、勿体無いよ。ねえ、マコちゃん。」

「うん、未だ一番上まで行ってないじゃん。」

「じゃあ一番上まで行ったら下りて昼食にしよう。」

「じゃあ、男四人であがっておいで、私は此処で休憩してるから。斜面を上るのは未だちょっと無理だからね。」

「そうか、じゃあ止めようか。ハルコが行かないんじゃ楽しくないもん。」

「行っておいでよ。上りながら写真でも動画でも撮ってきて見せてよ。それとヘタレ三人組の様子も。」

波留子に背中を押された慎は波留子の依頼だからと三人の尻を叩いて上って行った。波留子はそんな四人の後ろ姿を見送りながら感慨にふけった。

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