第47話 「手の空いているものは、各々のやり方で死者を悼め!」


「パットナム反乱軍、投降を拒否。残存反乱軍艦隊、なおも我が艦隊へ接近中です!」


「反乱軍艦隊構成判明。リヴァプール級軽巡洋艦五。ほか宙雷艇十五!!」


 その報告に男は呻くようにつぶやいた。


「リヴァプール軽巡、ヒルデガルド帝の軍制改革時代の代物か。よくもまぁそんな骨董品が残っていたものだ……」


 無理もない。リヴァプール級軽巡洋艦は、シュトラウス王朝中興の祖ともされる女帝ヒルデガルド時代に、基本設計がなされたもの。恐らく艦齢は百年を軽く越えるだろう。大型の要塞艦ならば幾度も改修を繰り返して使い続けられるが、軽巡洋艦ともなればある程度の艦齢が越えると、新造した方が安上がりなのだ。


「殿下。お聞きの通りです。パットナム反乱軍は殿下の降伏勧告を無視。さらに進撃を続けております」


 振り返りそう報告してきたのは、この艦隊の指揮官であるバレンタイン提督だ。階級は帝国宇宙海軍准将。


「無用な殺生は好まん」


 そう言いながら男は座っていた椅子から立ち上がった。その身長は2メートル近くもあり、赤い髪と髭、そして広い肩幅も相まって、バイキングの英雄を彷彿とさせる。


 ガイウス・グランダール・ベンディット。それが男の名だ。


 帝国宇宙海軍戦艦ボナヴェンチャーのブリッジに、砲声のようなガイの声が響き渡る。


「しかし彼らが己が理想に殉じようとするのならばそれに応えねばなるまい。提督。砲に火は入っているか!?」


「はい、ガイ皇子殿下。各レーザー重砲艦、いずれも発振体は臨界です」


「ならば良し! ブロッケンシステム解除! レーザー重砲艦に寄る砲撃を許可する!」


「了解いたしました!」


 バレンタイン提督は敬礼すると部下に命じた。


「一番から三番のレーザー重砲艦。砲撃用意!」


              ◆ ◆ ◆


 パットナム恒星系は長らく自治権として繁栄を謳歌してきた。皇帝グレゴールによる自治権の剥奪にも激しく抵抗。各所から武器を調達して実力で自治権を維持し続けてきたのである。自治権剥奪に抵抗を続ける他の惑星自治権とも同盟、その象徴的な存在と見なされるようになっていた。


 ここに至り皇帝グレゴールは息子で第一皇子であるガイの指揮になる艦隊の派遣を決定。皇位継承者の中でも屈指の武闘派とされるガイ指揮下の艦隊は、パットナム自治政権軍を瞬く間に蹴散らした。


 自治政権軍は最後の戦力を惑星パットナムIII軌道上に集結。最後の決戦を挑もうとしていた。軌道上に曳航した小惑星の影から、接近する帝国艦隊へ奇襲を掛けるつもりだったが、指揮を執るガイ皇子とバレンタイン提督には見え透いた作戦だった。


 逆に小惑星の影からレーザー重砲艦の射程へと引きずり出されたのである。


 銃床を取り外した巨大なマスケット銃を思わせるレーザー重砲艦は、接近してくる五隻のリヴァプール級軽巡洋艦と護衛の宙雷艇を照準に捕らえた。


 そしてその砲門から位相が揃った光を怒濤のごとく吐き出す。それは瞬時にリヴァプール軽巡洋艦に到達。次の瞬間、艦隊は氷の彫像が熱湯に放り込まれたように溶解、そして爆発四散した。


              ◆ ◆ ◆


「着弾、敵艦隊の全喪失を確認! 生存しているものはないかと思われます」


 乗員の報告にガイ皇子は言った。


「安全を確認した後、念の為、救難艇を出せ。パットナムの反乱指導者にこの件を通達。再度、降伏を勧告せよ!」


 そしてバレンタイン提督に尋ねる。


「ここまでのパットナム星系鎮圧で生じた被害は如何ほどか?」


「は。戦死者五名。重傷者二十名。戦闘機、攻撃機撃墜各一。宙雷艇撃沈三、大破二、小破十一。巡洋艦スラバヤに軽微な被害。我がボナベンチャーは無傷です」


「敵側の被害は?」


 重ねて尋ねるが、バレンタイン提督は困惑するだけだ。


「それはまだ正確な数は把握できておりません。今回の被害を含めても、旧式の戦艦三、巡洋艦十。宙雷艇、戦闘機、攻撃機はそれぞれ三十から五十ほど撃破しております」


「……直接的な戦闘だけでも、最低二千人は死んだか。被害を出し過ぎた。無用な殺生は好まぬなど、自分で言っておいて自分で呆れるほどだ」


 ガイは憤懣やるかたない表情で唇を噛み、そして続けた。


「弟に後れを取るとはな。やはりこのガイウス・グランダール・ベンディット。皇帝の器ではない」


「そんな事はありません。殿下。あのパットナム星系をこの短期間で制圧なさるなど、他の方には無理でございます」


 取り繕うバレンタイン提督にガイは厳しい顔つきで言った。


「しかしあやつはかつてフィネガン星系を無血制圧したのだぞ。それも初陣でだ」


 ガイの指摘にバレンタイン提督は口ごもりながらも応えた。


「あの御方は……。あの御方は普通ではありません。それにあのやり方は、戦術としては正解かも知れませんが、人としては失格です」


「口は慎んだ方が良いぞ、提督」


「これは失礼いたしました」


 バレンタイン提督は姿勢を正して敬礼した。ガイはまだ何か言いたそうだったが、口を開く前に通信手からの声が届いた。


「パットナム反乱軍指導者より返信あり。まだ現場が混乱しているようですが、全面降伏の方針で動いているようです。抵抗しないので、さらなる攻撃は避けて欲しいと懇願しております」


「よろしい」


 ガイは戦艦ボナヴェンチャーのブリッジを見回して言った。


「手の空いているものは、各々のやり方で死者を悼め! 戦いは終わった。家に帰れることに感謝し、帰れなかったものがいたことを記憶に刻め!」


 ある者は十字を切り、ある者は跪き、またある者は手を合わせる。仏教徒のバレンタイン提督は経を唱えていたが、無神論者で無宗教のガイは、敵艦があったはずの空間を映すモニターディスプレイを無言で見つめるだけだった。

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