第46話 「所詮は『訓練』か」

「白色艦隊、突っ込んできます。我が黄色艦隊と緑色艦隊の間を抜けるつもりです」


「迂回すると反転したミロの艦隊に追いつかれるからな。よし、このまま……」


 カミンスキーの言葉を遮ってエドワーズが叫んだ。


「ミサイル、全弾ありったけたたき込むんだ!!」


 そんなエドワーズにカミンスキーとキャンベルは呆れた顔で言った。


「もう残弾は少ない。慎重にいかないとね」


 キャンベルの言葉にエドワーズは我に返り、カミンスキーは首肯した。


「そうだな。足を止めず、慎重に狙いを付けて……」


 そこで言い淀むカミンスキーをエドワーズがからかう。

「それはさっきミロが言ったのと同じ事じゃないか」


              ◆ ◆ ◆


「そうだな。ミロが言った通りにやればいい。何も難しい話じゃない。足を止めずに、よく狙って撃て。残弾は少ないが、慎重にやれば充分な数はあるはずだ」


 緑色艦隊の旗艦ブリッジでは、タナカがそう指示を出していた。


「チッ! なんかミロの思うがままになってるようでいけすかねえな!」


 その横ではメイヤーがそう吐き捨てていた。


「だったら降りるか? 今からでも遅くないぞ」


 そうからかうトムソンにメイヤーはにやりと笑った。


「いけすかねえ、いけすかねえが……。悪くはねえよ。あいつのおかげでお高くとまった貴族連中に一泡吹かせてやれるんならな!」


「面白い事をいうな。ミロも貴族だぜ。それも公爵閣下の御嫡男だ」


「そう言われてみれば、そうだな。だけどよ、何か違うんだよな。何か……」


 首を傾げるメイヤーにタナカが言った。


「私語は慎め。さぁこれから面白くなるぞ!」


「チッ! いい気なもんだ」


 舌打ちするメイヤーだが、言葉とは裏腹に表情は晴れやかだった。


              ◆ ◆ ◆


「そろそろ次の授業だな」


 時計も見ずにアーシュラはそう言うと、艦隊戦訓練の様子を映していたモニターディスプレイを消した。


「まだ終わってないぞ、アーシュラ?」


 キースはそう言うが、アーシュラは無言のまま部屋から出て行ってしまった。残されたキースはどうしたものかとしばし迷い、そしてディスプレイのスイッチに伸ばしかけた手を戻した。


「どうすればいいんだよ」


 誰へともなく吐き捨てるようにつぶやくと、キースも部屋から出て行った。


              ◆ ◆ ◆


『前方は黄色艦隊と緑色艦隊に任せておいていいのか?』


 心配したスカーレットがそう尋ねてきた。


「なまじ適度に混乱していた方が、突破する方もやりにくいだろうからな」


『しかしミサイルの残弾も少ないぞ。撃ち尽くしたりしたら、あっという間に突破される』


「なに、連中もそれほど馬鹿ではあるまい」


 事実、周辺状況を表示するモニターディスプレイではミロの思惑通りに進んでいた。黄色、緑色両艦隊は稚拙ながらも足を止めずそして狙いを定めて、白色艦隊を攻撃していた。


 一方の白色艦隊は包囲の突破と、後方から迫るミロの黒色艦隊から逃げる事で精一杯。いっそ分散して各艦各々勝手に逃走すれば、全体としては逃げ切れる可能性が高いかも知れない。


 ミロもそうなると厄介だと分かっていたが、一方でフェルプスがそこまで踏ん切れないだろうと予想していた。


『ポテト』と『ローカスト』の騒動は誰かが仕組んだ事でフェルプスも一枚噛んでいる。そして帝国惑星陸軍のハッカビー中佐が観閲している。フェルプスは無様に逃げ出す事は無い踏んでいたのだ。


 そしてその予想は当たった。当たったもののミロの胸中は晴れない。


「所詮は『訓練』か」


『何か言ったか?」


 ミロのつぶやきは通信機を通してスカーレットにも届いたようだ。訝しげに尋ねてきた。


「いや、何でも無い。おい、マエストリ。そろそろ時間じゃないのか?」


 スカーレットの問いを軽く躱してミロはマエストリに声を掛けた。


「そうだね。あと一分間もかからないかな」


 レーザー重砲艦が照準を定め、発振体を励起させるまでは数分がかかる。実際に撃つわけではないが、その時間だけ、目標である白色艦隊を障害物の影に入らぬようにしておけばいい。それだけでミロたちの勝利なのだ。


「黒色艦隊全艦へ通達。少々、減速だ。余り敵を追い詰めると必死に抵抗する。少しくらい油断させる程度でいい」


 ミロがそう命じた。


 所詮は訓練だ。必死と言っても実戦とはその度合いが違う。成績、面子がかかっているとはいえ死ぬわけではない。タイムリミットが迫り、その一方で手綱を緩めてやれば、冷静さを取り戻しこう考える。


 まあいいさ。次、頑張ろう。


 油断、弛緩、あるいは閑却。


 次があるから出来る思考。そして彼らはそれに馴れてしまっている。こちらが意図的に見せたわずかに隙を、本当の意味で必死に狙ってくることはないだろう。


 ミロはそう考えていた。そしてその考えは的中していた。白色艦隊も呼応するかのように速度を落とした。その中でフェルプスの乗る旗艦だけが必死に突破を図ろうとしている。


「レーザー重砲艦より発射カウントダウン。10秒前。全艦退避通達です!」


 マエストリの報告と同時にミロは叫んだ。


「攻撃側全艦隊、攻撃中止! 全速退避!」


 そして次の瞬間、モニタースクリーンの中で白色艦隊の全ての艦に『LOST』の文字が表示された。


「友軍レーザー重砲艦斎射完了。敵艦隊撃沈。戦闘訓練終了。学園より通達がありました」


 マエストリがそう報告する。艦隊戦訓練は終了した。


              ◆ ◆ ◆


 レーザーというものは厄介だ。質量も電荷もなく、最短距離を文字通りの光速度で直進する。それが兵器として利用された場合、完全に防御する事は不可能に近い。


 それでも防御する手段は色々と考案されていた。水や氷、炭素、鉄の微粒子を散布する。磨き上げた鏡面で反射させる。熱容量の極めて大きい特殊物質に吸収させる。表面をフラクタル構造にして拡散させる。


 地球外知的生命体の遺物『ドーヌム』を得てからは、その技術的遺産の応用で、空間に負荷を掛けて電磁波の全反射現象を起こす等の超技術も考案された。


 しかしそれらの防御技術も、レーザーの出力を上げるという極めて単純な方法で突破できた。


 二一世紀に兵器としてのレーザーが人類の歴史に現れてからの千年余り。防御手段と出力の増加はイタチごっこを繰り返し、やがてレーザー重砲艦という兵器が登場した。


 単純に言ってしまえば専用の動力炉を持った全長数百メートルの移動式巨大レーザー砲である。無人もしくは極少人数で運用されるのが常で、およそ艦という言葉にはそぐわない。個々の艦名もなくただ記号と数字で表されるだけだ。


 それでも敵艦隊や天体に立てこもった敵を一掃するには、実に理に適った兵器なのである。

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