第45話 「そんな事は分かってる!!」
「黒色艦隊、指揮官のミロより通信来ました。こちらの判断で引き続き白色艦隊との戦闘を継続しろとの事です」
「ははは、ミロの奴。案外、話が分かるじゃないか!」
メイヤーはすっかり上機嫌だ。
「ミサイルの残弾、少ないぞ。慎重に良く狙っていけ!」
タナカはそう指示するとレーダー手に尋ねた。
「ミロの黒色艦隊はどうしている?」
「そのまま白色艦隊へ向かって突撃を続けています。あ、いや。三方に分かれました!」
「これは、支援しろという事なのか?」
口に出して自問するタナカに、横からトムソンが口を挟んだ。
「ミロの事だから、やって欲しければやれと言うでしょ。だから好きにやってもいいんじゃないですかね」
その言葉にタナカは嘆息するとぼやいた。
「誰も彼もミロをよく知ってるような物言いだな。まあいい。俺もそう思う。じゃあそうさせてもらおうか」
◆ ◆ ◆
「独自に交戦を続けよか。少しは我々を慮っているのかな」
そう自問するカミンスキーにキャンベルは笑った。
「公爵家の御嫡男ですよ。そんな事を気に掛けるはずがないでしょう」
「それもそうか」
「いいじゃないか。俺たちは俺たちの好きにやらせて貰おう。ジャガイモの葉にも意地があるって所を、中身が空っぽのピーマン共に見せてやる!」
いきり立つエドワーズにキャンベルは呆れた。
「おいおい、エドワーズ。君の敵は誰なんだ」
「決まってるだろう! それは……」
勢いよく言いかけものの、エドワーズはそこで口ごもる。そして焦れたように頭を掻くと、八つ当たりのようにメインディスプレイを指さして叫んだ。
「そりゃあ、あいつ等に決まってるだろう! まず今はあいつらをぶっ叩くの最優先
さ!」
指さす先のディスプレイには白色艦隊の映像があった。
◆ ◆ ◆
「黄色、緑色両艦隊は連携が取れていない。両艦隊の間を突破する」
周辺状況を表示するモニターディスプレイを確認してフェルプスはそう命じた。
「いくらなんでも両艦隊の間を抜けるのは危険なのでは?」
一人の生徒がそう尋ねたが、フェルプスは余裕綽々だ。
「なに、あの混乱ぶりだ。間を突っ切った所で何もできっこない」
なんだ、慌てて損をしたな。
ディスプレイ上の表示にフェルプスは安堵した。
黄色、緑色両艦隊は全く連携が取れておらず、残弾数を気にしているのかミサイルも余り撃ってこない。
フェルプスが危惧していた、ミロ指揮下の黒色艦隊も白色艦隊を微惑星近くに押さえつけるどころか、その速度に着いてこれらないのだろう。この分では満足な戦闘も出来ないまま、高速ですれ違う事になりそうだ。
いいか、ミロ。僕たちは逃げ切れば勝ちなんだ。君は追いかけて来て、足止めしなければならない。そのままじゃ勝てないぞ。
勝利を確信したフェルプスは、心中でミロにそう呼びかけていた。
しかしその時、黒色艦隊は三手に分かれ、減速反転しつつ後方から白色艦隊へ接近してきたではないか。特にミロの乗る旗艦は、恐るべき機動性で旋回して白色艦隊に追いすがってきた。そしてそのままミサイル発射。
無弾頭の訓練用模擬弾で安全装置付き。最後尾に付ける艦の直前で自動的に分解したが、目標には命中と判断された。モニターディスプレイはその艦が『
いきなりの被害だ。一度は落ち着きを取り戻していたフェルプスは、これで再び狼狽えた。出来ればこのまま被害を出さずに切り抜けたかったのだ。
「おい、フェルプス。どうするんだ?」
「どうするって、何をだ?」
尋ねる生徒にフェルプスは棘のある口調で聞き返した。その生徒はうんざりとした顔で重ねて尋ねる。
「いや、だからさ。どちらを優先するのかって事だよ。お前、さっき黄色艦隊と緑色艦隊のいざこざを押さえるって息巻いていただろう。もう終わったみたいじゃないか。連携は取れていないが、仲違いもしていない。こちらだけを攻撃してきている」
「それは……」
絶句するフェルプスに追い打ちが掛けられる。他の生徒がつぶやいたのだ。
「こりゃあ艦隊を微惑星の影から出したのは失敗だったな」
「うるさい、黙れ! そんな事は分かってる!!」
その言葉が耳に入るなりフェルプスは怒鳴りつけた。いつもの如才ないフェルプスからは信じられない罵声だったので、ブリッジの生徒たちは呆気にとられるだけだ。
くそ、どうする? このままアーシュラから要請された通り、黄色艦隊と緑色艦隊を鎮圧するか? しかし両艦隊は現状トラブルを起こしていない。
鎮圧すべきもめ事がそもそも存在しないのだ。では予定通り艦隊戦訓練を続けるか?
それにしても自ら姿を出して、発見されてしまってるのだ。
『位置を確認して』『一定時間足止め』するのが敵艦隊、つまりミロの勝利条件。その第一段階は、すでにそれも自らの不手際で達成させてしまったのだ。
すでにミロから我が艦隊発見の連絡は行っているはず。残された時間はどれくらいだ?
「ミロの黒色艦隊が接近してきている!」
「どうする、予定通り黄色、緑色両艦隊の間を突っ切るか?」
他の生徒たちにも動揺が広がっていた。ここまで艦隊戦訓練では安定した成績を残していたフェルプスだ。自らの失態で追い込まれるとは誰も予想していなかったのだろう。
落ち着けフェルプス。状況は何も変わってない。敵に発見されたのは失策だったが、動き回っていればいいんだ。それにはまず包囲されつつあるこの状況を打開する。開けた空間に出ない事には逃げ回るわけにもいかない。
「予定通り黄色、緑色艦隊の間を突破する! 全艦、密集隊形を取れ!」
密集隊形を取れと命じたのは咄嗟の判断。フェルプス自身はさして深く思案して出した結論ではない。単に艦隊の間を抜けるには、密集隊形を取った方が被害が少ないだろうと考えての事。そして密集していた方が、いざという場合に指示を出しやすいと判断からだ。
しかしそれは無意識のうちにフェルプスがこれ以上の被害を嫌い、他の艦を指揮する生徒たちを信用していなかった証左でもある。
「黄色、緑色艦隊が応戦してきます!」
「そんな事は承知の上だ。こちらも攻撃、突破口を開け!!」
フェルプスはそう叫んだ。
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