第44話 「体のいい囮ではない。無自覚の陽動だ」

「黒色艦隊に続いて緑色艦隊も目標の白色艦隊へ向けて突撃を開始しました!」


「おい、俺たちは置いてけぼりかい」


 そうぼやくエドワーズを横目で睨み付けてからカミンスキーは尋ねた。


「緑色艦隊はこちらへの攻撃を続けているのか?」


「いえ、しかし目標の白色艦隊へ向けて攻撃を始めました」


 まずいな。このままだと我が黄色艦隊だけが取り残される。結果がどうなるにせよ、これではまるで内輪ゲンカをするために艦隊戦実習に参加したようなものだ。


「構わない、緑のイナゴローカスト野郎へミサイルを叩き込んでやろうじゃないか」


 エドワーズは乱暴な口調でそう言い放つが、友人のキャンベルは意見を異にするようだ。


「いや、もうこれで充分だろう。今ならまだごまかしが利く」


 そう言うとキャンベルはカミンスキーへ目配せをした。どうやらキャンベルもミロの意図には気付いき始めてるようだ。


「ごまかし? ごまかしとはどういう事だ。キャンベル!?」


 色を成してエドワーズはキャンベルに詰め寄った。まるでエドワーズがそんな行動に出ているのを見透かしていたかのように、突然、近距離通信回線からミロの声が響いた。


『さぁ、本当の敵が出てきたぞ! お前たちが戦うべき、本当の敵だ!』


 その言葉に誰もが手を止め聞き入る。


『今までお前たちが戦ってきたのは誰だ。お前たちが戦わなければならないのは、一体誰の為なのだ。そうだ、今になってのこのこ顔を出してきたあの連中が敵なのだ! お前たちの本当の敵だ!』


「……まぁ当たり前だけどね」


 にやりと笑ってキャンベルがつぶやき、そしてエドワーズに意味ありげな視線を送る。その視線の意味はエドワーズにも分かっていたが、すぐにそれに従う気にはなれなかた。舌打ちをして、そして吐き捨てるように言った。


「俺たちの敵は『ローカスト』だ! 同じ貴族を相手にするわけにはいかないだろう。今こそチャンスだ。『ローカスト』にミサイルを叩き込め!」


「向こうはそう思ってないようだぞ、エドワーズ」


 カミンスキーの言う通りだ。白色艦隊は速度を上げつつ接近してきており、その動きからして攻撃目標に黄色艦隊が含まれているのは確実。当然だ。彼らは現在、艦隊戦訓練を行っており、白色艦隊は黄色艦隊の敵と設定されているのである。


「このままだと白色艦隊の攻撃にさらされるぞ」


 カミンスキーのその指摘にエドワーズはモニターディスプレイを指さして反論した。


「ローカストとミロの艦隊が壁になってくれるじゃないか!」


「……お前はそれでいいのか? これは確かに訓練だが、貴族が市民を盾にしてもいいというのか。しかも公爵家の嫡男なるミロ指揮下の艦隊も先行している。それを黙ってみていろ、いや同士討ちを続けろと?」


「知ったことか!」


 そう吐き捨てて傍らの機材を蹴り飛ばすエドワーズだが、内心では迷っているのが見て取れる。そこに飛び込んできたミロからのさらなる通信がエドワーズの尻を蹴り飛ばした。


『敵は目前だ! これより我が黒色艦隊は敵に突撃する!! 志有る者は我に続け!!』


「黒色艦隊、白色艦隊へ突撃します! 緑色艦隊もそれに続きます!!」


「やれやれ、公爵のお坊ちゃまは相当無謀と見える。正面から突っ込んでは袋だたきになりかねないぞ。『ローカスト』連中

に護衛は務まらんだろうな」


 そんな事を言いながらカミンスキーはエドワーズの方を見やる。その視線にエドワーズは憤然として答えた。


「いちいち俺の顔色を窺うな! お前たちは貴族だろう! ならばその務めを果たせ!」


 そしてひと言、付け加えた。


「俺もそのつもりだ」


 その言葉にカミンスキーは力強く一つ首肯すると命じた。


「黄色艦隊、全艦突撃! 未来のシュライデン公爵閣下に続け! 市民共に遅れをとるんじゃあないぞ!!」


              ◆ ◆ ◆


「なんだ、何があった?」


 先程までの勢いはどこへやら。フェルプスは完全に浮き足立っていた。


「何があったもなにも、見ての通り敵艦隊が一斉に突撃してきています」


 報告してくる生徒はなぜフェルプスがここまで狼狽しているのか分からない。


 要請と違うぞ、アーシュラ! これは本当にカスガ会長や次期学生自治会会長と目されるキース・ハリントン副会長も承知した展開なのか!?


 そんな文句を口に出すわけにはいかない。他の生徒は事情を知らないのだ。


 これはあくまで艦隊戦訓練。なぜ黄色艦隊と緑色艦隊が戦っていたのかは分からないが、自分たち白色艦隊は彼らの目標。姿を現したら接近して攻撃してくるのは当然。それが他の生徒たちの認識だ。


 まあ、いい。ちょっと予定が狂ったようだが、むしろ好機だ。


 フェルプスはすぐに頭を切り換え、モニターディスプレイで周辺の状況を確認した。


 白色艦隊は隠れていた微惑星の影から出たばかり。このまま微惑星を背後に抱えていることは不利。そして敵は、ミロは自分たちをこの微惑星の側に釘付けにしておきたいはずだ。


 ミロ。君が何者だか知らないが、僕が戦いを教えてやる!


 そしてフェルプスは命じた。


「隠れていた微惑星から一刻も早く離れろ。敵艦隊は我々を微惑星近傍に押さえつけておきたいはずだ。ならば無理には接近してこない。急速に離脱運動を行いつつ、各個撃破していく。まずは生意気な『ローカスト』の緑色艦隊からだ!」


              ◆ ◆ ◆


「発光信号打電。これで『敵艦隊の位置確認』という最初の目標はクリアしました」


 マエストリの報告にミロは肯いた。


『このまま真正面から突っ込んでいくつもりではないだろうな。ミロ』


 通信機の向こうからそう言ってきたスカーレットの方へミロは向き直る。


「もちろんだ。白色艦隊は隠れていた微惑星から出てきたばかり。背中にその微惑星を背負い込んでいる状態だ」


『なるほど、そのまま微惑星を背に追い込むわけだな』


『そうすると三次元の一方向を完全に殺せるからね。向こうの動きにも制約が出る。障害物のある艦隊戦の基本だね』


 スカーレットとカスパーは通信機越しにそんな事を言っているがミロは頭を振った。


「いいや、違うな。向こうもそれが不利なのは分かっている。だから背後の微惑星からはすぐに離れようとするはずだ。押さえけようとすれば全力で反撃する。だから好きなようにさせておく」


『はぁ? 好きにさせておくだけでは敵は倒せんぞ』


 ミロの言葉にスカーレットは呆れたようだ。


「いいか、忘れるなスカーレット。それにカスパーや皆もだ。いま俺たちがやってるのは艦隊戦の訓練だ。決して実戦ではない。そして俺たちの勝利条件は敵艦隊の位置を確認して、一定時間、同じ場所に足止めしておくこと。それだけで充分なのだ」


『それは……。まぁ言われてみれば、その通りだが……』


 釈然としないながらもスカーレットは肯いた。


「次は足止めだが、俺とスカーレット、カスパーの三艦隊は三方に分かれて目標の背後へ回り込む」


『そうなると、我々が微惑星を背にしてしまうぞ』


 スカーレットの指摘にもミロは動じない。


「承知の上だ。確かに不利になるが、今の目標艦隊は一刻も早く微惑星から離れようとするだろう」


『根拠は?』


 カスパーがさらりと鋭い質問を投げかけた。


「指揮を取ってるフェルプスにとっては予想外の事態だからな」


 それ以上は説明しない。黄色艦隊と緑色艦隊がやり合っているこのタイミングで、フェルプス指揮下の白色艦隊が隠れていた微惑星の影から出てきたという事実。


 フェルプスは黄色艦隊と緑色艦隊の衝突を想定していた何者かから、密かにその制圧を依頼されていたのだ。それもミロよりも先にだ。依頼者は先日の『お茶会』の意趣返しを目論んでいるのだろうが、今のミロはその正体には興味が無い。


 しかし今、黄色艦隊と緑色艦隊は一致団結して白色艦隊へ向かっている。指揮を取ってるフェルプスにしてみれば想定外の出来事。さらに他の生徒たちに詳しい裏事情を話しているとは思えない以上、フェルプスは一人で切り抜けなければならない。


 自らのミスで姿を見せたところから始まり、他人に助言を求められない。さらに依頼者からの期待に応えなければならないのだから、フェルプスは相当のプレッシャーに晒されているだろう。


 ミロはそう予測していたのだ。


『なるほど。フェルプスくんはそういうタイプかも知れないな。「実戦」には弱いと聞いていたからね』


 にやりと笑ってそう言うカスパーだが、誰もそれがどういう意味なのかは詮索しない。最初きょとんとしていたスカーレットが、しばしの後にようやく意味を察して少し嫌な顔をしただけだ。


「黄色艦隊と緑色艦隊にはそのまま独自の判断で戦闘を継続して貰おう。残弾も少ないし、独自に行動して貰った方が白色艦隊も前に出やすい」


『体のいい囮か』


 スカーレットの皮肉をミロは訂正した。


「体のいい囮ではない。無自覚の陽動だ」

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