第43話 「利用されたんだ。私たちが仕掛けた計略が!」

「探査ドローンから映像が来た。どうも様子がおかしい。『ポテト』と『ローカスト』……、じゃない黄色艦隊と緑色艦隊がやり合ってるぞ!!」


 白色艦隊旗艦のブリッジでは、その映像にざわめきが広がっていた。探査ドローンは白色艦隊が隠れている微惑星の影から出て、外部の様子を撮影してきている。そこでは確かにこちらに接近中の艦隊が、互いにミサイルを撃ち合ってるのが確認出来た。


「ルーキーラギングのつもりが、ちょっと本気出し過ぎたってところか?」


 白色艦隊に所属する生徒たちも、ミロへのルーキーラギングは小耳に挟んでいる。しかし詳しい話は聞いていない。


「『ポテト』や『ローカスト』の事だ。最初からやり合うつもりだったんだろう」


 ブリッジの生徒たちは口さがなくそう言い合っていた。


「黒色艦隊はどうしてる? どうして指揮官のミロが止めないんだ」


「ミサイルを迎撃してるらしいが、他にはこれと言って動きが見えないな。これは身を挺しても止めるべきだろう」


 確かにドローンからのデータでは黒色艦隊は、特段の動きは見せていない。ただミロの乗る旗艦だけが、性能の限界に挑むかのような恐るべき機動性で、飛び交うミサイルを迎撃しているようだが、それだけは到底焼け石に水だ。黄色、緑色両艦隊によるミサイルの撃ち合いは止みそうにない。


「みんな落ち着け。『ポテト』派と『ローカスト』派の和解なんてあり得ないと分かっていたはずだろう。しかしハッカビー中佐が観閲されてるこのようなもめ事を起こすなどヴィクトリー校の恥。学校側の手を煩わせてはいけない。僕たちで始末を付けよう」


 指揮官用シートからフェルプスは声を張り上げた。裏事情を知っているのはフェルプスだけ。白色艦隊の他の練習艦はもちろん、旗艦のブリッジにいる生徒たちも、フェルプスがアーシュラとキースから予め依頼を受けていた事は知らない。フェルプスも余計な話はしない方が良いと理解していた。


「始末を付けようって、どうするんだ?」


「もちろん、我々白色艦隊が、何も出来ない黒色艦隊に代わり、黄色艦隊と緑色艦隊の内輪もめを収める。我が艦隊を微惑星の影から出し、敵艦隊へ接近させる」


「ちょっと待て、フェルプス。俺たちがやっているのはあくまで艦隊戦訓練だ。そして敵に発見され、一定時間足止めされるとその時点でこちらの負けになる。隠れている場所か出るという事は、その時点で敗戦条件の一つが成立してしまうんだぞ」


 生徒の一人が慌てて反論した。しかしフェルプスはにべもなく言い返す。


「それがどうした。今の僕たちには訓練の結果よりももっと重要な事が有るじゃないか」


 さぁ、ここからが見せ場だ。よく見てろよ、ハッカビー中佐。僕が父や祖父の七光り頼みじゃないところを証明してやる。


 フェルプスは自分をそう鼓舞すると指揮官用シートから立ち上がり言った。


「よく考えてみろ。帝国学園は帝国の社会そのもの縮図だ! 無知蒙昧な市民と傲慢な小貴族がぶつかったら、我々大貴族がそれを止めなければならない。それは帝国学園内でも同じだ。我々は帝国貴族の誇りに掛けて、この混乱を止めるのだ!」


 よし、いいぞ!


 ブリッジ内の反応にフェルプスは気をよくした。ブリッジの生徒たちはみな感銘を受けているようだ。


「微惑星の影から出て、黄色、緑色両艦隊および無策な黒色艦隊を制圧する!」

 どうだ、ミロ。勝つのは僕だ!


 命令一下、動き出す白色艦隊にフェルプスはすでに勝利を確信していた。


              ◆ ◆ ◆


 その様子にアーシュラは血相を変えて立ち上がっていた。一方のキースはその理由がわからぬようで、ぽかんとアーシュラを見上げるだけだ。


「フェルプス、調子に乗りすぎた。よく戦況を見てみろ。黄色艦隊、緑色艦隊の、互いへの攻撃はほとんど当たってないぞ!」


 アーシュラのその言葉でようやくキースも理解した。慄然として呻いた。


「まさか、これは……。ミロが目標の白色艦隊を誘き出すために……」


「利用されたんだ。私たちが仕掛けた計略が!」


 アーシュラは唇を噛んだ。


              ◆ ◆ ◆


「くそ、ちょこまかと逃げやがって! 本当にイナゴか! 良く狙って撃てと言われてもこれじゃあ……。おい、艦を動かすな! 狙いが付けられないだろう!!」


「そんな事を言われても、回避を忘れるなと言われてるし……」


 黄色艦隊旗艦のブリッジは徐々に殺気立ち始めていた。指揮官のカミンスキーも動揺を隠せない。


「おい、落ち着け! 一体なにがどうなってるんだ! ミロにもう一度連絡を……」


「構わない、撃ちまくれ!」


 エドワーズがそう怒鳴りつけたその時だ。光学レーダーを睨んでいたレーダー手が報告した。


「微惑星の影から目標の白色艦隊が出てきました!」


 その報告にカミンスキーは我に返った。ミロへのルーキーラギングと、その後の騒動ですっかり忘れていたが、そもそも自分たちは白色艦隊を目標として艦隊戦訓練の真っ最中だったのである。


「まずいぞ。同士討ちをしているこの状況で攻めてこられたら……」


 そのカミンスキーに続けざまに報告が飛んだ。


「黒色艦隊、白色艦隊へ突撃します!」


「何だって!?」


              ◆ ◆ ◆


「当たれ、当たれ!! 黄色いポテト野郎に目に物見せてやるぜ!」


「ミロがいいと言ったんだ。何があっても俺たちには責任がねえからな!」


 緑色艦隊旗艦のブリッジでも怒号が飛び交っていた。


「ええい、何がどうしたって言うんだ! 俺はもう知らんぞ!!」


 その中で指揮官のタナカは頭を抱えるだけだ。


「はははは! これはいい、面白いじゃないか!! 撃て撃て、撃ちまくれ! 貴族共に目に物見せてやれ!!」


 一方のメイヤーはハイテンションでそうまくし立てていた。その時、妨害されていない光学式レーダーを確認していた生徒が声を挙げた。


「白色艦隊が隠れていた微惑星の影から出てきたぞ! 23=02の方向!」


「知るか、そんな事!」


 メイヤーは即座に怒鳴り返す。しかしタナカはその言葉で我に返った。


「おい、待て。俺たちは艦隊戦の訓練中だ。白色艦隊がこちらを狙ってくるぞ!!」


「そうだったら、あちらのお偉い貴族さんたちにもミサイルをぶち込んでやればいい! 残ってるのはもう安全装置付きの訓練用模擬弾だけだ。最初からの作戦通りじゃないか」


 作戦通り? 作戦? つい先程も誰かが、そうだミロが同じ事を言っていた。

 タナカはようやくそこである可能性に思い至った。


「おい、黒色艦隊はどうして……」


 言い終える前に近距離光学レーダーを睨んでいた生徒が叫んだ。


「黒色艦隊、目標の白色艦隊へ向けて突撃を始めました!」


「なかなか見所があるじゃないか、そのミロって奴はよ! そいつだけにいい格好させてはおけねえな。おい、タナカ。俺たちもお高くとまった貴族連中の鼻先にぶっ放してやろうぜ!!」


 そうだ、これだ。これでいいんだ。ひょっとしてミロは最初から、メイヤーのよう

な反応を期待して……。


 いや、今はまだそんな事は考えなくてもいい。


「緑色艦隊、目標の白色艦隊へ向けて突撃! 黒色艦隊へ、ミロへ続け!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!