第41話 「構わん、続けさせろ」

「お前、何をしてる!?」


 黄色艦隊の旗艦となってる練習艦のブリッヂ。その異変に気付いた時には遅かった。火器管制担当の生徒は訓練用模擬弾の発射スイッチを入れていた。しかもその目標は味方となってるはずの緑色艦隊だ。


「ああ、ちょっと手が滑った」


 にやにやと笑いながらそう言う生徒に、カミンスキーは不安を感じてコンソールをチェックした。いつの間にか安全装置を外した訓練用模擬弾が何発か積み込まれていたではないか。


 これではレーザーを照射されたり、あるいは艦に近づいても自動的に分解することはない。狙いと誘導が正確ならば、艦に直撃するはずだ。


「おい、正気か!? ペイント弾じゃないんだ。訓練用模擬弾と言っても炸薬がないだけで、ミサイル本体は実弾と同じなんだぞ! 着弾した時の衝撃で艦に損傷が出る

のは確実だし、推進剤が残っていたら爆発する!」


 指揮官のカミンスキーは思わず怒鳴りつけるが、反論は横にいたエドワーズの砲か

ら来た。


「奴らも撃ってきてるんだ! 向こうからやったんだぞ! やられる前にやり返せ!! ローカストの連中はそうしないと分からないんだよ!!」


 エドワーズの支離滅裂な主張に、指揮官のカミンスキーは頭を抱える。そこへさらにレーダー手の報告が追い打ちを掛けた。


「確かにローカストの、いえ緑色艦隊からも訓練用模擬弾が発射されています。それにこちらの僚艦からも同様に訓練用模擬弾が……」


「なんだって……!? まず緑色艦隊へ連絡を……」


 そう言いかけてカミンスキーは思い直した。


「いや、ミロだ! 黒色艦隊の指揮を、いや我が艦隊の指揮を執っているミロへ連絡を!」


              ◆ ◆ ◆


「お前の差し金だろう、メイヤー! これ以上、事をややこしくするなとマクソンからも注意されたはずじゃないか!?」


 一方の緑色艦隊でも同じような騒動が起きていた。安全装置が外されているのも同じだ。


 緑色艦隊の旗艦となってる練習艦のブリッヂでは、やはり指揮官を務めてるタナカがメイヤーを叱責していた。


「俺はそんな話は聞いてないぜ。マクソンとはしばらく会ってないからな!」


 タナカに殴り倒されたメイヤーは、血の混じった唾を吐きながらそう答えた。


「大変です! 黄色艦隊からも訓練用模擬弾が発射されました。目標は我が艦隊です」


 レーダー手がそう報告すると、メイヤーはそれ見た事かと勝ち誇って言った。


「これで分かっただろう! こういう連中なんだ! 信用すると裏切られる!!」


「そんな事は後だ、後! 回避運動急げ!」


 指揮官のタナカはそう命じると付け加えた。


「黄色艦隊に事実確認の連絡……。いや、それよりもミロだ。黒色艦隊のミロに連絡

して指示を仰ごう」


「チッ、またミロか!」


 メイヤーは怒声を挙げたが、タナカは平然としたものだった。


「なに、こうしておけば後々なにがあっても俺たちの責任は軽くなる。問題はみんなミロが背負い込んでくれる」


「うまくいったらどうなる? おいしいところはみんなミロが持っていくぞ!?」


 そういうメイヤーを指揮官のタナカはじろりと睨み付けて言った。


「そういうお前はうまくいって欲しいのか、欲しくないのか? はっきり出来ないのならば黙っていろ!」


              ◆ ◆ ◆


 訓練に参加している練習艦は通信やレーダーの妨害を受けている設定になっているが、それはあくまでシミュレーション上の事。訓練の経過を監視、監督しなければいけない学園側には、各艦隊の行動や交わされている通信内容も逐一モニターされていた。


「な、なんだ。一体、悪ふざけも度が過ぎるぞ!」


 訓練空域の様子が映し出すディスプレイでは、丁度黄色、緑色両艦隊から訓練用模擬弾頭ミサイルが発射されたところだった。両艦隊はかなり混乱しているようで、すぐさま回避運動に移ることも出来ず、さらには黒色艦隊のミロへ指示を請う有様だ。


 その光景に教官は怒り心頭に発していた。


「ええい、こんな醜態を中佐のお目に掛けられるものか。訓練中止だ!」


「構わん、続けさせろ」


 ハッカビー中佐は淡々とした口調で教官を制した。


「予定通りに進む訓練の方がよほど退屈だ。訓練というのはこうでなくてはいかん。続けさせろ」


 教官は中佐の言葉に慌てて従った。


「は、はい。訓練中止は中止という事で……」


 その時だ。訓練空域をモニターしているディスプレイに異変があった。


「ほぉ。なるほどな」


 その光景にハッカビー中佐はにやりと笑みを浮かべた。


 黒色艦隊から発射されたミサイルが、黄色、緑色艦隊から発射されたミサイルへ襲いかかり破壊したのだ。炸薬は搭載されていないが、正面から衝突すれば、その運動量だけで双方のミサイルは破壊されてしまうわけである。


「しかしいつまでももつまい。相手は二倍だ。さて、どうする?」


 ハッカビー中佐の言うように、黄色、緑色両艦隊から第二陣のミサイルが発射された。


              ◆ ◆ ◆


「なるほど、やはりそうなるか」


 訓練空域の様子を映し出すディスプレイを見ながらアーシュラはそうつぶやいた。艦隊戦訓練の様子は一般の生徒、学生にも公開されている。


 キースとアーシュラは自治会棟にある部屋の一つでそれを見ているところだった。部屋にいるのは示し合わせた二人だけ。カスガは授業中だ。


「ミサイル同士なら安全装置は働かないからな。安全装置付きのミサイルをぶつけて、迎撃する事は充分に予想できた」


 平然としてそう解説するアーシュアに対して、キースは落ち着かぬ様子だ。


「こんなやり方でミサイルを落とすなんて……。この調子で全部落とされたらどうするつもりだ?」


 そんなキースにアーシュラは呆れたような顔をして見せた。


「黄色、緑色艦隊双方で本格的に撃ち合いを始めたら全て打ち落とすのは不可能だ」


「ポテトかローカストか、ミロはどちらかを選択しなければいけないわけか」


 納得したように首肯するキースにアーシュラは付け加えた。


「あるいはどちらも見捨てるか。いずれにせよ奴はこれで終わりだ」

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