第40話 「有り難く頂戴するとしよう」


「予定通りだな。白色艦隊も空気を読んで出てこないようだ。よ~~し、それでは予定通りに13:40時にミロへのルーキーラギングを実行するぞ。公爵家のご嫡男に一泡吹かせてやれ」


 緑色艦隊の指揮を執ってる生徒はタナカという。そのタナカの言葉にブリッヂから笑い声が漏れた。


「それはいいけどよ、あの件はどうするんだよ?」


 食ってかかるメイヤーに指揮官のタナカはうんざりとした顔をする。


「またあの話か。貴族連中がルーキーラギングに紛れて俺たちを攻撃するって噂だろう? 放って置けよ。貴族がそんな事をするわけがない。なにしろ公爵家嫡男のルーキーラギングだ。恥をかかせたらただじゃすまない。貴族はそういう連中だ」


 そう言われてもメイヤーは食い下がる。


「あいつらもワインボウムから梯子を外されて不満が募ってるんだ。結果的にワインボウムたちにも影響が及べば願ってもない事じゃないか!?」


「あいつらも……?」


 指揮官のタナカはその言葉に引っかかりを覚えたようだ。


「あいつらもという事は、お前もそうなのか、メイヤー。文句があるならマクソンに言えよ。学生の運動を授業に持ち込むな。他の皆にも迷惑だ。分かったな」


 ひと言多かったか。メイヤーは不承不承ながらも引き下がったが、通信士シートについたトムソンに目配せするのを忘れなかった。


 トムソンもまたやれやれとうんざりした顔をして見せたが、それでもメイヤーに頼まれた事だけはちゃんとやった。僚艦へ向けたルーキーラギングのタイミングを知らせる通信と共に、あるタイミングを知らせる暗号も混入させたのである。


              ◆ ◆ ◆


 マエストリはすぐさま異変を報告した。


「黄色、緑色両艦隊にミサイル発射の反応です」


「コースは?」


 本来ならば白色艦隊を補足した上で発射したのか。まずそれを確認するべきだが、ルーキーラギングの件を把握しているミロは、すぐさまそう尋ねた。問題はそのミサイルがルーキーラギング用なのか、それとも別の意図で発射されたかだ。


「両艦隊より発射されたミサイルはそれぞれ三発ずつ。全て我が艦隊へ向かっています。一発ずつ計二発は進行方向へ。残り二発は当艦への直撃コースを取っています」


 マエストリも事情を承知している為、慌てることなく冷静だ。すぐさま新たな報告も寄越す。


「識別信号を出しています。進行方向へ向かっている二発は友軍信号弾。そして直撃コースを取ってるものは訓練用ペイント弾です」


「他には?」


「今のところは、何も」


 ミロはマエストリの返答に肯くと言った。


「有り難く頂戴するとしよう」


 次の瞬間、ミロが指揮する黒色艦隊の前方でまず信号弾がさく裂した。宇宙空間に鮮やかな輝きで『歓迎、未来のシュライデン公爵』『ミロくん、入学おめでとう』の文章が浮かび上がるのがディスプレイに表示された。いささか文字が崩れているのも、この際は味わいとするべきだろう。


「続いてペイント弾、着弾します!」


 さらにマエストリが報告した。


              ◆ ◆ ◆


 ペイント弾は練習艦に着弾する寸前に破裂して、微少カプセルに包まれた着色料を噴出した。それはミロが乗る練習艦に赤や青、白と派手なまだら模様を描く。それは恒星ブリーデンからの光で、肉眼でもはっきりと見える鮮やかさだった。


『なかなかしゃれているじゃないか。ミロ』


 ミロの乗る練習艦の映像をわざわざ中継してきたスカーレットは、通信機の向こうから皮肉交じりにそう言った。


『そうかね。僕はちょっと地味だと思うけど。どうせならもっとゴーギャン風に、原

色を派手に使った方が面白い』


 まだら模様になったミロの練習艦は、カスパーの艦隊からも見えている。その様子にカスパーは首を傾げて見せた。


 ミロはそんな二人に余裕綽々の態度で言った。


「なぁに、すぐにもっと派手になる」


 それを待っていたかのようにマエストリがさらに報告した。


「ペイント弾、第二陣来ます。今度はスカーレット、カスパー両艦隊にも着弾します」


『なに!?』


 それぞれのブリッヂでほぼ同時に同じ報告が行われていた。だからスカーレットもその報告に驚いた。


『ちょっと待て、今回のルーキーラギングはミロが相手じゃないのか? どうして私も狙われる?』


「それを言ったらこの艦に乗ってるのも俺だけではないだろう? あくまで俺が率い

ている艦隊が狙いという事じゃないか?」


 ミロの言葉にカスパーも同意した。


『そうだね。二度もルーキーラギングを受けるなんて、滅多にある事じゃない。光栄

だと思っておこう』


『私はついこの前もやられたんだ! 光栄なものか!!』


「ペイント弾、第二陣。まもなく着弾。続いて第三陣の発射準備……」


 スカーレットの抗議を聞き流しながら報告を続けたマエストリだが、途中で言葉を切るとミロの方へ向き直った。


「ミロ、来たよ。ペイント弾や信号弾じゃない。訓練用模擬弾の反応。黄色、緑色の両艦隊から発射された」


「コースは?」


「今確認した。目標はこっちじゃない。黄色は緑色へ、緑色は黄色へ。それぞれの艦隊を狙っている。安全装置は外されているみたいだ」


 予想できていた事態だ。マエストリは冷静に報告してきた。それを聞いてすぐさまミロは命じた。


「ホークアイ。こちらも訓練用模擬弾頭ミサイルで、両艦隊のミサイルを迎撃できるか? ミサイル同士なら安全装置は働かないはずだろう」


 あっさりと命じたミロだが、それは恐ろしく難易度の高い内容だ。しかし火器管制シートに座ったホークアイは無言で肯くだけだった。

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